読書メモ

・「サザエさんと株価の関係 ―行動ファイナンス入門
(吉野 貴晶:著、新潮新書  \680) : 2008.02.03

内容と感想:
 
経済を動かしているのは人間。 個々の人間の感情が大衆レベルで共有されると市場にも影響が現れることになる。 サブタイトルの「行動ファイナンス」とはこのような経済学と心理学を結びつけたものである。 人間の選択は合理的なものばかりではないようで、それがこの学問のテーマの一つである。 その選択は気分によっても左右される、天候や体調も気分を左右する。
 本書は行動ファイナンスをテーマとした13の身近な話題から構成されている。 様々なデータから株価との関係を導き出して見せてくれている。
 まず、タイトルの「サザエさん」が株価とどういう関係にあるのか疑問に思うだろう。 それは「サザエさん」の視聴率から景気を判断できる、という点にある(第1話)。 休日の夕方に視聴率が高いということは在宅率が高いことを示し、景気には決してよい効果をもたらさないということになるわけだ。 ただ、これが投資判断に活かせるかというと疑問である。
 本書で取り上げた話題のうち投資に活かせそうかなと思ったのは、 均等推進企業表彰企業、 ディスクロージャー表彰企業、 クールビズ賛同企業などイメージアップにつながった企業への株式投資。 またオリンピック関連銘柄も期待できる(今年2008年は五輪イヤーだし)。 宝くじ販売額が翌年の株価と連動(先行)するというのも分かりやすい。
 しかし、これらの情報は公にされるため、それを知った全ての投資家が同じ行動を取るだろうから、 買うタイミングを少しでも逃したらうまみはなくなる。 従って、本書の内容は考え方のヒントにはなったが、 そのまま使えるわけではないというのが結論となる。
 「あとがき」では 「一般投資家は機関投資家に比べれば情報収集にかける時間やお金の費やし方の点で圧倒的に不利」だから、 「同じフィールドで争わず身近で得られる情報を活用するのがいい」と言う。確かにそうかも知れない。 しかしそこには独自の分析が必要になるから、その統計的な分析方法をもう少し分かり易く教えて欲しいものだ。 本書はそこまでは踏み込めていない。 定量的な分析がなければ何となく直感で投資することになり、なんらバクチと変わらなくなる。

○印象的な言葉
・企業の社会的貢献も企業イメージの向上のためで、宣伝活動に繋がる
・ダニエル・カーネマンは行動ファイナンスの領域でノーベル経済学賞を受賞(2002年)
・NHK大河ドラマに視聴者が期待するのは「真実」の裏づけ。本当の歴史に興味がある
・サザエさん症候群:「サザエさん」を見ているうちに、これで休みも終わりかと憂鬱になる ※見なければいいのに
・日本の上場企業全体の株式時価総額のうち、東証1部上場企業が9割以上を占める
・日経平均は構成銘柄(225銘柄)の入れ替えが頻繁で指数としての連続性に疑問がある
・ペット:鳥類の凋落と犬の増加
・犬公方・綱吉の時代は元禄バブルの最中
・株価は景気の先行指数。東京都を含む南関東の企業の株価指数は景気動向DIに対して3ヶ月先行する。名古屋を含む東海地区はDIと一致。
・法廷雇用率未達成企業は障害者雇用納付金を納めなければならない。払えば済むという風潮も。
・投資と投機とを区別する厳密な定義はない。一般的に投機は合理性がない行動として否定的に見られる。 投資は投資先の企業の利益の算出に寄与する行為。投機は寄与しない。
・年末ジャンボ宝くじの1等が当たる確率より、交通事故で1年以内に死傷する確率のほうが9万倍も高い
・バフェットには魅力がある企業の株価が値下がりしても、いずれ上昇するという信念をもっている
・日本のプロスポーツビジネスが難しいのは、選手の技術に対する尊敬の念が欧米より弱いため
・企業の運動部の役割:トップの人材育成の場、企業宣伝効果の期待(勝利しないと効果がない)。 スポーツの持つ健康的でクリーンなイメージはブランド形成に役立つ。
・不況時に儲かる商売は映画。さほどお金を要さない娯楽
・韓国では十五夜はチュソクと呼ばれ休日でお祭りとなる。欧米では月を眺めて楽しむ習慣は見られない
・バイオタイド理論:人間の心理や行動が月と太陽の引力の影響を受ける。満月の日は株価のボラティリティ(変動幅)が大きくなる

-目次-
「サザエさん」の視聴率で景気がわかる
インフルエンザと花粉症
景気を引っ張るイヌ
観覧車と楽天が地域経済を活性化する
優等生企業は市場に愛されるのか
何でも話す子も市場で愛される
ご成婚とオリンピックの効用
宝くじ・競馬と株ではどちらが儲かるか
「運動部の廃止」は企業に利益をもたらすのか
大作映画の経済効果
満月で興奮し、梅雨で消沈す
猛暑、体臭、クールビズ…夏の三題噺
社名は株価を左右する