読書メモ

・「パラダイス鎖国 〜忘れられた大国・日本
(海部 美知:著、アスキー新書 \640) : 2008.09.28

内容と感想:
 
シリコンバレー在住の著者は、日本人は「住み心地のいい自国に自発的に閉じこもっている」と感じ、 それをタイトルの「パラダイス鎖国」と呼んだ。 そんな鎖国状態が続けば日本は世界から忘れ去られ、「これまで築いてきたジャパン・ブランドが消滅し、 長期的に生活水準の低下を招く危険がある」と著者は警鐘を鳴らす。 そのうちパラダイスなんて言っていられなくなるのだ。
 その対処としては大上段に構えた「身を切って改革」と提案するわけでもなく、「ゆるやかな開国」と 「自分のための軽やかなグローバル化」を目指すのがいいと主張する。 これだけでは漠然としすぎだが詳細は第3章以降を読むべし。
 これまで欧米に「追いつけ追い越せ戦略」でやってきた日本だが、既に新興国に追われる身。 それまでのように追いかける手本にできる国がなくなってしまった。新しいやり方を自分で考えるしかなくなっている。 著者は新たな時代の日本の戦略として2つ挙げている。 1つは日本で自然発生的に生まれた戦略のマイナーバージョンアップである「果てしなき生産性向上戦略2.0」。 もう1つはシリコンバレー型の「試行錯誤戦略」だ。梅田望夫氏の言う「けものみち戦略」と同じだ。 効率は悪いが「まったくの新しい産業を生み出す、ほぼ唯一の方法」なのだ。 いまの日本ならその「無駄やコストを負担する余裕がまだある」と言い、その余裕を失う前に一歩踏み出すべきだと言う。 製造業の効率化だけでは限界があるし、それだけではいつかは新興国に追いつかれて、差別化も困難となる。
 ここまでは共感できるが、あとの主張は説得力に乏しい。 厳しい試行錯誤戦略を目指すべき、シリコンバレー的な場を設けるべきと言っているが、 その実現方法はネットを使ったコミュニティ活動をイメージしているように読み取れた。 それでは「ゆるやか」どころか「ユルい」のではないか。開国なのかどうかもよく分からない。 もう一つの「軽やかなグローバル化」についてもネットを手段にする点は同じ。 日本にいながらにして海外とつながりを持てるからだ。英語が出来ると更に有利だというが、 どうもスケールが小さい。それだけでは日本という国の産業構造を変えるには弱すぎる。 それらの小さい積み重ねが徐々に体質を改善し、時代に適応していくと言いたいようだが、 時間はかかりそうだ。そこまで日本に体力がもつかどうか時間の問題だ。
 第2章の日本の国際競争力を調査結果のデータから分析した考察は、現在の日本の姿を捉えていて興味深い。

○印象的な言葉
・日本の国際競争力の低下。世界から忘れ去られつつある。政府部門が脚を引っ張っている。民間部門も経済の効率や成長実績はあまりよくない。
・日本人も海外に対する興味を失った
・普通の人がネットを使って力を集積して何かを少しだけ動かす実験
・日本映画を英語で紹介するウェブサイト
・内弁慶な国内電機産業。国内市場が大きかったから
・プチ変人を積極的に育て、受け入れる
・個人の戦略としてのグローバル化
・アメリカに住むアジア人は地域的に偏って居住。ハワイと西海岸の大都市がきわだって多い
・日本の大手電機メーカーの売上高合計は、自動車産業とほぼ同規模で、日本のGDPの1割を占める(2005年)。 自動車同様、世界でも広く知られたブランドを持ち、素材・部品・販売・物流など裾野産業も広い
・グローバル化の公式:1.数の多いほうが勝ち。2.グローバル・ブランドの確立と維持。
・輸出型産業全盛期は海外進出がインセンティブになっていた。海外部門は花形で、海外赴任は手当てが厚く、出世も早かった
・典型的な製造業中心の構造から、ソフト、コンテンツ、ノウハウなどの知的所有権といった新しい分野へ移行できていない。 過去の成功体験にとらわれ変化が遅い。
・レッセ・フェール(なすがままに任せる)を原則とし手探りの試行錯誤を繰り返すやり方が、シリコンバレーで強い考え方。 最先端にいれば先のことは全く分からない。必死に考え、最良と決めた方向に進むしかない。間違えることも多く、多くの無駄が発生する。
・アメリカこそパラダイス鎖国
・シリコンバレーの厳しいぬるま湯
・細分化が進む分野で、専門家が少なく、そこそこのマーケットのある分野なら自分一人食べていけるくらいの仕事はある
・どこの企業にも属さない中立的な専門家が日本には少ない分野
・子供にはありとあらゆる能力を競えるイベントを用意し、誰もが一つくらいは目立てる場所を作ってあげる
・キャリアの積み方。やってきたことの一貫性と説得力。身に付けた経験を、次に別の分野にどう活かしたか。これまでに何を得て、このあと何の役に立つか。
・自説を押し付けない、一緒に考えたい、結論を急がず、フェアに冷静に、丁寧に論理的に議論したい
・ソリッド(solid):揺るぎなく、確固として、堅実な実体がある

-目次-
はじめに
第1章 「パラダイス鎖国」の衝撃
第2章 閉じていく日本
第3章 日本の選択肢
第4章日本人と「パラダイス鎖国」
あとがき