読書メモ
・「ブログ論壇の誕生」
(佐々木 俊尚 :著、文春新書 \760) : 2008.11.30
内容と感想:
「はじめに」では日本の世論形成プロセスがアカデミズムとマスメディアに二分され、融合されることもなく分断されたままだと
指摘する。それらの間には議論は起こらず、十分に論考されることなく、一方はアカデミズムという狭い空間に留まって
社会に何ら影響を与えず、マスコミだけが大衆に大きな影響を与えるといういびつな状況にある。
これまでもひっそりと「公論の場の再生」の必要性が語られてきたそうだが、そこに登場したのがブログや掲示板といったネット上の言論空間である。
本書はそれをテーマにした本である。
しかし「ブログ論壇」といっても実際には論壇系と呼ばれるジャーナリスティックなブログは日本ではごくわずかである。
目次にもブログ論壇がマスコミを揺さぶる、とか政治を動かす、とか大きく書いてはいるが、
大袈裟に取り上げすぎている感がある。著者が期待するところもあるのだろうが。
実際、日本のブログ界はアメリカや韓国のブログ界とは違い、公共性に乏しいという。
あくまで「私」的なところにとどまり、「公」に立ち上がってこないのだと。
それではブログ論壇の未来は望むべくもない。
ブログ論壇として成立していくにはまだまだ課題が多そうだ。
本書ではその課題について最近、ネットで起きた出来事をいくつも取り上げて論じている。
第12章では「ブログ論壇」が抱える問題を2つ挙げている。
企業のマーケティングや広告に呑み込まれつつあり、ブロガーの主体性や主観が失われつつあることと、匿名性の問題である。
多くのアクセスを集める有名なブロガーには企業が甘い誘いをかけてくる可能性もあり、実際にそれが金銭授受を伴う「やらせ」的な書き込みをさせ、
その結果、炎上を招くという事件も起きている。
ブログ開設は無料で気軽にできるものが多い。だから他愛も無い私的な日記レベルのものが溢れるのは仕方がないし、
論壇系であっても、それらに埋もれてしまうことも仕方が無い。匿名性もあって無責任で信頼性の低い書き込みが多いことは想像に難くない。
無料ブログにしても広告があってこそ成り立っているのだから、ブロガーと企業を完全に切り離すことはできないだろう。
しかし有料ブログであっても金銭目的で企業に取り込まれてしまっては、それはもやは広告の一部であり、ブログ読者を裏切る行為だろう。
ところで私も無料のブログを利用させてもらっているが、ブログ記事連動広告などは、機械的に付くとはいえ何でこんな広告が付くのかと首を傾げることも頻繁である。
さて第15章でも書かれているように「ネットの言論空間で最も重要視されるのは、可視性と論理性である」。
物事のプロセスをきちんと開示し、その上できちんとロジックを積み上げていく議論が求められる。
日本人にはそうしたリテラシーが足りないのだ。それができるような教育が必要だろう。
でなければ満足する論壇など形成できやしない。今の日本の教育界がそれを提供できるようには思えないが。
○印象的な言葉
・アーキテクチャが社会を変える。人間の行動を規定するものとして最も有効
・教養という文化基盤の喪失
・自分の知的分野の範囲内でしか論考しない研究者
・ステレオタイプな勧善懲悪に走るマスメディア
・マスメディアとインターネットとの対立。ソーシャルなサイバーアタック
・ネットの優れた特性の一つ:大量情報のローコスト公開性と優れた検索性
・WikiPedia:情報操作と公平な書き込みは紙一重。主観によって簡単に振れてしまう
・正義の反対は悪ではなく、また別の正義
・まとめサイト、ウォッチ・サイト
・誰が書いたかより、何が書かれているか
・日本の政治は理念より、情念的な世間の中で成立
・ネットイナゴ:影響力の強い人たちに付和雷同してしまう多くの人々。サイバーカスケード、言論の雪崩現象
・日本のロストジェネレーションの若者:心やさしく許容力が大きい。怒り行動するのではなく、自分に向き合い、自問自答
・トリアージ:フランス語で選別
・全体最適化や資源の効率配分、最適なコストパフォーマンスという発想の欠如が、日本社会の最大の病理の一つ。
・自分の中で何かが死んだ
・ポスト産業資本社会が成熟、記号消費も終焉を迎えた
・日本には当事者同士の議論で決着をつける土壌が存在しなかった。個人として互いに自立した関係を築けなかった日本の風土。
企業やムラ社会など中間共同体は戦後社会の崩壊とともに失われ、我々は個人として直接、社会と対面しなければならない。
・マスコミが騒ぐことでかえって悪事の手法が広まる
・自動生成されるブログ
・2ちゃんねるは今や中高年にさしかかった世代のメディア
・ネットの世界には中心はない
・インフルエンサー:影響力の大きい人
-目次-
1 ブログ論壇はマスコミを揺さぶる
2 ブログ論壇は政治を動かす
3 ブログ論壇は格差社会に苦悩する
4 ブログ論壇はどこへ向かうのか
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