読書メモ

・「ネット未来地図 〜ポスト・グーグル時代 20の論点
(佐々木 俊尚:著、文春新書  \730) : 2008.01.27

内容と感想:
 
ネットビジネスをウォッチし続けている著者のコラム集。 グーグルやアマゾン、アップルの「地主」に支配されないでネットで儲ける方法について考えている。 20のコラムからなるが、内容を大きく分類すると、アマゾンのようなネットショッピングビジネス、 グーグルのようなWeb2.0的ネット業界、既存メディアとネットの対決、携帯インターネットを初めとするコミュニケーション、 といった論点になる。
 本書がグーグルのようなプラットフォームから独立して、新たな収益モデルを創造するヒントになっているかどうかは疑問。 現状把握とちょっと先の未来の予測のためのヒントにはなるだろう。
 現在、Web2.0的ビジネスの収益源は広告依存のものがほとんどである。 TV業界がネットの台頭にナーバスなのも広告収入がネットへ流れていってしまうことを怖れているからだし、 とにかく広告料というパイを奪い合っているに過ぎない。 そのような同じルールのゲームでは劇的な収益アップは望めないだろう。グーグルには敵わない。 「Web2.0」ネタでひと山当てよう、儲けようというのでは視野が狭いのではないか。
 また、別に儲けなくてもいいのでは?とも思ってしまうのは、「論点18」で取り上げられているリスペクト(respect)を金銭化するという考え方が 面白かったからだが、もともとはインターネットはボランティア的な人たちが作り上げてきたわけだし、そこで儲けたい人は勝手にやればいい。 今後のネットビジネスとしてはネットを単なるツールとして利用する社会貢献が目的の活動、IPOもバイアウトも目指さない、 そこそこに食っていければいい、といった機動力のあるスモールビジネスと、ビッグビジネスに2極化するだろう、と私は勝手に想像する。
 TV、ラジオ、新聞、雑誌など既存メディアがネットの台頭で脅かされる、としきりに煽るが、それらにコンテンツを提供している人たちは 主戦場がネットに変わっても、良質のコンテンツを作り続けていければ食っていけるし、案ずることはない。 それを支援してくれるのがインターネットなのだから。 フラット化した世界では個々の人間にパワーシフトするわけだし。インターネットが地球に墜落した隕石だと言った人がいたが、 そんな世界では次第に恐竜は死に絶えていくだろうし、小さな鼠ならなんとか生き残っていけるだろう。

○印象的な言葉
・新聞は非営利事業として生き残るしかない
・マネタイズ(monetize):(サービスなどを)収益化する
・Web2.0の牧歌的な理想主義。ボランティア的な美しさ。
・(旧来型の場所貸しビジネスでも)楽天市場の優位性は出店主のITリテラシーの低さにある。規模拡大が店舗の質の低下を招いている。 中小企業にはWeb2.0的な仕掛けを導入するほどのスキルはない。楽天が青空市場ならアマゾンは高級百貨店。
・グーグルは行動ターゲティングやプライバシー問題には慎重。行動を監視したりユーザ情報を記憶したりしない。
・電子マネーやポイントが乱立し、巨費を投じても立ち上げるのは顧客囲い込みに有効なため。顧客情報管理もダイレクト。ネットマーケティングと同じメリットを持つ。
・グーグルの成長戦略は広告を付加できる場所をとにかく増やすこと
・グーグルは技術力を前面に出すことで「技術者の、技術者による、技術者のための企業」というイメージを確立したが、 最近は企業買収によって新サービスを投入することが多い。※技術力をビジネスに結び付けていけない人材が増えた?
・携帯キャリアは「おサイフケータイ」で決済を握ることで、様々なサービスのプラットフォームを提供するビジネスにシフト。 通信料では儲からなくなり、サービス手数料モデルへシフト。
・データベースを握っている企業がWeb2.0の世界で勝者となる。データベースを体系化し、何らかの価値を与える方向性を生み出す
・セレンディピティ:偶然に幸運に出会う能力
・<規模 - 構造>モデルに卓越した企業がインフラ化、プラットフォーム化していく。
・著作権団体の抗議は適当にあしらっておいて既成事実化させていくのが正しい戦略
・アメリカでは映画会社がTV番組制作へ参入。映画に負けないクオリティのドラマも。
・シンジケーション:コンテンツを販売する市場
・これまでのNHKのミッションは、公共放送としての良質な番組の放送、放送としての技術的・サービス的地平の拡大だったが、いまや形骸化している。 また放送市場の開拓という任務もあり、チャンネルを増やしてきた。次のミッションはインターネット映像配信市場の立ち上げ。
・通信と放送の融合はコンテナー本位制からコンテンツ本位制へ移行させること
・雑誌広告の効果測定はほとんど行なわれてこなかった。期待値だけで維持されてきた
・マイクロコンテンツ化:コンテンツがパッケージから分解され、再利用可能な状態でネットに置かれること
・マジックミドル:ミドルメディアともいう。マスメディアとマイクロメディアの中間。
・社会的に意味のあることをボランティアでやっていこうとする人が出てくる。直接情報発信しようと思えばできる
・セカンドライフ:広告代理店と大企業主導でブームを盛り上げている。ネット業界では注目されていない。 時間と空間を共有できる(同期性)はデメリットでもある。関係性の呪縛。
・携帯インターネットでは「つながり」系が主戦場
・ブログ:コメント、トラックバックされることに期待と怖れを半々に抱く。「mixi疲れ」
・グーグルだけではすべての用途をカバーできなくなっている。最大公約数的な結果を返してくれるが、多様な利用目的に答えられていない
・投げ銭システム:リスペクトを金銭化する
・プロシューマー:自分の求めるものを手作りするクリエイティブな消費者。生産されるのはコンテンツに留まる
・ドロップシッピング:サイト運営者が自分で商品を発掘して売る。自分自身の視点でいいと思ったものを売る。

-目次-
論点1 amazon
論点2 Recommendation
論点3 行動ターゲティング
論点4 仮想通貨
論点5 Google
論点6 Platform
論点7 Venture
論点8 Monetize
論点9 YouTube
論点10 動画
論点11 TV
論点12 番組ネット配信
論点13 雑誌
論点14 新聞
論点15 Second Life
論点16 ネット下流
論点17 Twitter
論点18 Respect
論点19 リアル世界
論点20 Wikinomics