読書メモ

・「ネット株の心理学
(小幡 績:著、MYCOM新書  \780) : 2008.03.02

内容と感想:
 
タイトルに心理学とあるのは、株取引においては投資家心理の分析が重要との著者の認識からだ。 著者は「行動ファイナンス」という金融理論が専門の学者さん。
 冒頭では一般的に株式投資の王道とも言われる長期保有を「最もリスクの高い投資戦略」と切って捨て、 「売り方が投資では最も重要」と言い切る。
 本書を読むと著者はデイトレード肯定派と言え、 デイトレーダーが儲ける手法も細かく解説していて興味深い。 デイトレはリスクに晒されている時間が短いため、リスクが小さい、つまりリスクコントロールがしやすく、 環境の変化にも強い。やめようと思えばすぐにやめられる。ポジションを取る時間が短いため、現金をずっと持っているのと同じ。 流動性が高いということになり、急病などで急にお金が必要になった場合も対応可能、といったようにメリットも多い。
 しかし確実に利益を上げるためにはプロとしての行動が求められる。 優秀なデイトレーダーは毎日確実に利益を積み重ねているという。 「知的肉体労働」とも言っているようにかなりきつそうである。長くは続けられないだろう。他に仕事のある人には無理である。 株の値動きが大きいほうがチャンスは大きく、その価格変動の見つけ方が腕に見せ所であり、アートでもあると評している。
 デイトレに人気の銘柄があるそうだ。 だとすれば取引する銘柄は限られてしまい、結局、競馬で言えば同じレースの馬券投票に参加しているのと同じで、ゼロサムゲームになる。 儲かる人もいれば損する人もいる。損した人は資金が尽きれば撤退を迫られ、勝ち抜き戦のように勝ち残ったデイトレーダー同士の熾烈な争いになるだろう。
 また本書では「株式投資はマーケティング」という説が出てくるが、そんな考え方もあるのかと目を見開かされる思いがした。 モノやサービスと同じように、株もいかにして売るかを最優先に考えるべきなのだ。 それは、株を将来、誰が、いつ、いくらで買ってくれるかを分析することに尽きる。 将来買ってくれる投資家をターゲット顧客と位置づけ、その投資家心理を分析する。 勿論、売るためには買わなければいけないのだが、その場合も将来、人気が出そうな株を探さねばならない。 この手法では将来起こるであろうイベントに対する投資家の反応を予測する。 現在どんな心理状態にいるかを分析することも大切だ。 株価チャートが投資家の心理状態を分析するための情報を与えてくれる、という。
 行動ファイナンス自体の理論的な話は出てこないが、これを読んだらおおよそ理解できたと言えるだろうか?
 第6章で「株式投資は危うい連鎖の上に成り立っている。成長期待の連鎖で価格形成され、売買の連鎖で企業や経済の限界のリスクが先送りされている」との指摘が 最も印象的だ。 これをバブルやねずみ講にも例えている。ゲームに最後に入ってきた人が損をし、スキーム全体が破綻するのだ。 人類が何度も繰り返し経験してきたバブルとその崩壊。バブルと言われるのも浮かんでは消え、浮かんでは消えするからなのか? 歴史は繰り返すという。人類は賢くなっているのか?

○印象的な言葉
・エコノミストや評論家、証券投資の専門家の勧める株式投資方法はほとんど儲からない。株式投資を真剣にやったことがないか、分かっていないだけ。
・株式市場を乱高下させているのは投資家心理
・配当をずっともらえる保証はない。配当利回り2%とすれば配当で元を取るには最低50年間かかる。
・経済や業績がよくても株価は上がらない
・身近で目に見える製品だけで企業を判断しては見誤る
・毎月配当する投信は理論的に合理的でない。配当のための売却における手数料、売るべきでないタイミングでの売却、個人投資家への郵送費などコスト負担など。
・株価は前日の終値から翌朝の始値までの変動が一番大きい。金曜の終値と翌月曜朝の始値の変動が断然大きい。寄り付きと引け間際も変動が大きい。
・モーメンタム:株価は一度下がり出すと下がり続ける。上昇よりも下落は長期間続く
・長期保有が合理的になるのは長期的に右上がりの成長が続く場合と、短期の価格変動を許容でき長期保有に耐えられる(個人投資家の)場合
・学問的にはチャートは意味がない、ということになっているが、チャート分析に基づいて取引をする人によって株価が動くならば、チャートによって チャートを用いる投資家の行動や株価の予測に役立つ。
・市場においては参加者が信じるものが結果的に真実になる
・割高なIPO公募価格が付けられたものほど初値は高くなる。高ければ高いほど良いものに見える。 公募価格から初値までの値上がり率が高いほど、初値の後の値下がり率も大きい。 公募価格が堅実に付けられた銘柄は「つまらない」ため人気が出ない
・監理ポスト:法令違反の可能性が高い、二期連続で債務超過など
・人間が多くの意思決定の場面で自信過剰になっている
・バブル:群集心理の典型例。投資家の弱気が弱気を呼ぶと大暴落。みんなバブルと分かっていながら投資していた。 みんなが自分だけはうまく儲けられると考えていた。バブルはゼロサムゲーム。平均的には利益を出せない。 バブルを見つけたら一刻も早く参加しなければいけない。大チャンス。まだ間に合うかも知れない。バブルの始まり。買いが買いを呼ぶ。
・見せ板:買う気がない注文を出すこと。違法取引になる可能性あり
・5分割を超える株式の大型分割は実質的に禁止。分割後の子株(新株)は分割直後から取引可能となった
・ヘッジファンド:資金の回転率を重視
・人間は自分の誤りを認めたくなく、損失を確定するのを嫌がり、先送りしたがる。このような合理的でないと言われる行動は生物学的な反応として生じている。 脳内部のドーパミンなどに変化が現れる。
・米国では宝くじを買う人は非合理的で教養のない人として扱われる。日本人はギャンブル好きで、ギャンブルに対して寛容である。リスクが嫌いなわけではない。
・上場企業には株主からの成長要求圧力がある。成長のためにある程度無理をすることになる。多くの企業はどこかで力尽きる。→企業の寿命
・フロンティアを先に開拓するか作った投資家が勝つ。儲けるためにはそれを高く売る相手(追随者)が必要。
・東証2部から1部への指定替えなど、入れ替えがあるときは株価が上がる
・売るのは難しい。売れない、安く売りすぎる
・日経平均に組み入れられそうな銘柄、分割されそうな銘柄
・信用売りできない銘柄。浮動株比率が低い銘柄は人気が出たときに売りが出にくく一気に上昇
・プロの投資家は悪いシナリオの場合の撤退戦略を最も重要と考える
・投資家全員のレベルが同じように高ければ、個々人の利益はゼロに近くなり、トレーダーは減少していく。そのときが本物の株式市場になるとき。

-目次-
第1章 株式投資の常識のうそ
第2章 投資家心理で解き明かすネット株取引のなぞ
第3章 ネット株取引の醍醐味
第4章 デイトレはなぜ儲かるか?
第5章 ネット株取引は、なぜ大流行したのか?
第6章 株はなぜ上がるのか?
第7章 株式投資で利益を出すための真理
第8章 新投資理論:株式投資はマーケティングである
第9章 ネット株取引の将来