読書メモ

・「ネット広告がテレビCMを超える日
(山崎 秀夫、兼元 謙任:著、マイコミ新書  \780) : 2008.02.09

内容と感想:
 
従来のアナログ放送という有限な電波資源を前提とした TVのビジネスモデルは崩壊しつつある。 多チャンネル化、録画、ネット配信など環境は変化してきた。
 本書では日本のTV業界の問題点、地上デジタル放送移行の影響、ハードウエアやインフラの進化による視聴スタイルの変化、 ネットマーケティングなどについて述べ、ネット広告がテレビCMを超える日について予測している。 7章でタイトルの「その日」は2018年ころを予測している。
 時期は兎も角、その日が来るのは必然だろう。今更、驚くべきことでもない。 米国広告協会の広告関係者へのアンケート調査(2006年)によれば 回答者の43%が2010年までにテレビ広告費の2割以上がオンラインビデオ広告に移行すると答えているという。 つまり広告媒体がテレビからネットにどんどんシフトしていくのだ。TV業界にはお気の毒だが、時代の流れだろう。 かつてはテレビCMが新聞広告を抜いた日があったのだ。
 TV局という容れ物(コンテナ)よりも問題はコンテンツだ。そこにニーズがあれば媒体はテレビだろうがネットだろうが関係ない。 TV局の役割は変わっても、表現者へのニーズや表現の場はなくならないだろう。むしろ拡大するだろう。 TV局に搾取されていた番組制作会社などにもチャンスだろう。アイデアさえあればだが。 これまでの視聴者を馬鹿にした、下らない番組を作ってきた会社には厳しくなるだろう。 今後はますます「コンテンツをできるかぎりオープンにして視聴者や読者を巻き込んで新たな価値を創造する」ことが求められる。
 広告にはロングテールでいうテール(裾野に広がった)の部分に、まだまだ大きなビジネスチャンスが眠っている。 これまでテレビCMなど広告を出そうにも出せなかった中小・零細企業なども、その気になれば自分で作ってしまえる時代だし、 消費者を巻き込めば強力な応援団になってくれるし、勝手に宣伝さえしてくれる。
 コンテンツ市場の適正な競争が生まれれば広告費も劇的に下がるだろう。規制によって保護され歪んだ業界が、公平な場になることが望ましい。
 さて、楽天とTBSの提携(統合?)問題はあいかわらずくすぶり続けているようだが、楽天もTBSの強い反発にいつまでも関わるのはやめてはいかがか? 本書の流れからいけば、今後落ち目のTV業界を抱え込んだら、系列ローカル局を含めた大きな負債を背負いかねない。 それだったら独自のネットメディアを構築して突っ走ったほうが良いのでは?

○印象的な言葉
・日本のTV放送は許認可事業で手厚く保護されている。TV業界は系列構造。
・視聴率には録画は含まれない。1世帯に複数台のTVがあれば(世帯)視聴率が100%を超えることもありうる。 数字のマジックにより実際よりも多く視聴されていると誤解される。世帯視聴率にはマーケティングな価値はあまりない。
・ビデオリサーチ社の株主はTV局や広告会社
・広告主が番組制作費を出す「タイムCM」(「提供」の企業など)、番組の間に流れる「スポットCM」
・CMを流せる時間は放送時間の18%まで。CM枠が限られることで広告料は高止まりし、確実な利益がキー局に入る。この10年は広告収入は横ばい。 今後、伸びる余地はほとんどない。競争がない。
・大手広告会社が圧倒的な力を持ち、キー局と一心同体。2005年のタイムCM枠のシェアは電通が約50%
・ほとんどのTV番組は局外の制作会社が作る。著作権はTV局に召し上げられる
・米国では番組の所有権は制作会社にある。コンテンツの競争市場がある。制作側がTV局を支配するほど。
・著作隣接権には送信可能化権が含まれる。IPマルチキャスト放送(ネットにオープンに流れるわけでもないのに)を行なうには権利者全員から許諾を受ける必要あり
・ビデオ・オン・デマンドではIPユニキャストを使っている
・ネットが普及するはるか昔に作られた著作権は現状を想定していない。つぎはぎ状態。新たなビジネスを阻んでいる。
・ネットが普及する前からTVの影響力は低下している。若者のTV離れが進む。TV視聴層、ラジオ聴取層、新聞閲読層も高齢化
・米国はCATVが6割以上の世帯に普及
・コモンズ:社交と協働作業の場、共有地。成立させる要素(雰囲気、ルール、規約、システム)。それらのバランスが大事。利便性、コスト
・ソーシャルメディア:情報や知識の共有の場
・YouTubeのような動画投稿サイトを著作権違反と騒ぎ立てず、マーケティングに活用
・イギリス国営TVのBBCには受信料不払いに対する罰則規定がある
・クリエイティブ・コモンズ:著作物は無から生まれたのではなく、先人の様々な創作活動の上に成り立つ。著作物の利用が制限されすぎると新たな創造活動が停滞。
・テレビCMの効果への企業の不信感:テレビCMの認知率や想起率は低下傾向にある。
・ブランデッド・エンターテインメント型広告:商品をさり気なく小道具として使う。プロダクト・プレースメントとも言う。
・プライムタイムのテレビCMの広告主は100社程度。ロングテールでいるヘッドに依存。
・日本の総広告費は年間6兆円。販促費などを含めた総マーケティング費用は20兆円。
・イノベーションのジレンマ:高めてきた「持続的技術」が、それより安く技術的に劣る「破壊的技術」に取って代わられる
・職縁(職場の縁)が崩壊して、SNSで新たな縁づくりが始まった
・米国ペプシコはテレビCMから撤退を宣言
・文章で説明するより動画で見せれば伝わりやすい

-目次-
第1章 地上デジタル放送の衝撃
第2章 多様化する視聴スタイル
第3章 米英テレビ業界の危機感
第4章 ロングテール
第5章 広がるネット広告の可能性
第6章 ネット時代のマーケティング戦略
第7章 ネット広告がテレビCMを超える日