読書メモ
・「なぜ株式投資はもうからないのか」
(保田 隆明:著、ソフトバンク新書 \700) : 2008.01.26
内容と感想:
著者は「個人が独自に株式投資を行なってもやすやすと儲けることが難しいこと」を書いてみたいと考え本書を著した。
上昇相場なら波に乗れば誰でも儲けられるというが、このタイトルのような本が出るのも実際には儲かっていない人が多いのかも知れない。
株を買ったはいいが、下落局面となり売りそびれて売り逃げる機会を失い、慌てて売って損をするとか塩漬けになるとか、なかなか株は難しい。
著者によれば年率5%のリターンが株式投資を依然として有効な資産運用手法であることを示しているとしながらも、
一般投資家は実際にはそのリターンを享受できていないだろうとし、それを本書のテーマとしたそうだ。
第1章では株式市場と株式投資の現状を、第2章では株式市場の実際の姿を、第3章では機関投資家と証券会社の動向と問題を、
第4章では日本の新興市場の問題点を、第5章ではネットと株式市場の関係、株式投資の今後の展望について述べている。
株が儲からない理由としては一言で言えば、「一般投資家が不利にできている」ということに尽きる。
機関投資家との投資家間の不平等、情報格差が根本の原因だ。
一般投資家は第三者割当増資やMSCBを受けられないとか、
時間外取引や未上場株の取引にも参加できず、
空売り用の貸し株の調達も不利だという。
最初からハンディを負って戦っているわけだ。
第5章では著者なりに「どうすれば負けにくいか」を考えている。
ここで「web2.0」が出てくるとは意外だったが、「ロングテール」という概念がある。
株式市場はロングテールの世界でもある、と著者は見ている。
アリ(個人投資家)一匹ではゾウ(機関投資家)に勝てないが、アリが全員でまとまれば可能性はある、と。
インターネットはそのきっかけとなるツールだ。
一般投資家同士の結束を期待しているのだが、インターネットの思想である情報や知識の共有により
投資家が賢くなっていくことは期待できる。
それが個人投資家の底上げにもなる、というのは理解できる。
しかし資金の運用まで足並みをそろえることは難しいだろう。うまく組織化できるだろうか?
抜け駆け、裏切りは防げるだろうか?
このところの株価低迷局面で、日本の個人投資家に呼びかけて「安くなった株を買って日本経済をみなで支えましょう」的なことはやりやすいだろう。
ユーザが声を上げ、ネット証券を巻き込んで市場の改善を国に迫る、ということも可能かも知れない。
そもそも「負けない投資」がいいのかも疑問だ。
誰も儲けることができなくなる、イコール誰も負けなくなる、だと著者は言うが、
リターンが望めないなら株式投資のために費やした時間は無駄ということになる。
(何もしないで貯蓄するだけではインフレ局面で資産が目減りするが・・)
結局、「損しないのが一番なら日経平均のようなインデックス投資(ETFなど)がいい」というのがオチのようで、現時点では「負けない」手法なのかも知れない。
著者の提案で興味深いのはネットショッピングやウェブサービスなどで既に応用されている手法の株式投資への応用だ。
例えばシステムがネット投資家の過去の行動を分析し、アドバイスしてくれたり、
ユーザによる「タグ付け」により証券コード以外での企業分類することで、ユーザが独自に投資分析をすることができるようにする、とかいったサービスだ。
すぐに実現出来そうな気がする。
さて、著者は日本の株式市場(特に新興市場)を見て、本来果たすべきベンチャー企業のための資金調達の場として機能しておらず、
日本経済の活性化や経済発展の礎につながっていない、と批判している。きっとそうなのだろう。
銀行など伝統的な金融機関がベンチャー企業への資金提供に積極的でないことが、「ゆるい」新興市場を乱立させ、ひいては一般投資家に不利益を被らせている。
安心して投資できる場の整備をしていかないと、投資家から見放され、健全なベンチャービジネスの発展が望めない、
という著者の意見はもっともだ。
それでも株、やりますか?
○印象的な言葉
・狙われる個人金融資産、総額1,500兆円。
・金持ち優位の世界、上客が優位
・個人投資家向けと機関投資家向けのIRは異なる
・「祭り」が起きやすい新興市場
・個人の金融資産の預金が占める割合:日本は半分以上、米国は13%、ドイツは34%。株式投資と投信の割合は米国が31%と14%、日本は12%と4%。
・株式投資に何を求めているか、許容できるリスクを見極める。投資スタンス、価値観を固める。リスクマネー(損しても仕方ない金)
・企業の資金調達の姿勢が慎重になり、銀行は融資(貸出金)を住宅ローンと消費者金融ビジネスへシフト。
・銀行が投信を売れるようになり、モノを売った売買手数料を得られるようになった。現在、投信の半分は銀行が売ったもの
・市場全体の動きを捉えるならTOPIX
・2002年の日本政府による株式取得機構の設立で、税金による株式市場の救済が行なわれた。市場を介さずに持ち合い株式を直接買い取った。
・ブロックトレード:時間外取引。株価の変動要因とならない
・東証一部企業の平均株価は過去30年間で年率4.22%上昇してきた。配当利回りの平均も1.17%。
・株式アナリストでも株価予測が当たる人は多くない
・IPOでは主幹事証券会社がIPO株の大半を販売。ネット証券が主幹事になることはあまりない。IPOは高度な業務。幹事団でも主幹事以外はほとんど業務はない。
・株式投資を勉強している自分の姿に満足してしまう
・株式投資には感情や心理面も大きく働く。感情や本能をコントロールすることのほうが、株式投資の理論より難しい
・公の情報も他人はその価値に気付いていない可能性もある
・新聞、雑誌等の情報で他人を出し抜くことなど無理
・米国ではM&A発表後に株価が下がる企業が多い。事業提携やM&Aは成立しない可能性のほうが高い
・分散投資で相対的リターンを目指すタイプの機関投資家はインデックスを重視。金額的にはこのタイプの投資家が多い。損をしないことが一番の目標。
配分を変えた変形インデックスを作って、元のインデックスよりも少しでも良いパフォーマンスを目指す。パッシブ運用ともいう。
・果敢にリスクを取り、絶対的なリターンを目指すのがヘッジファンド(読みが外れても傷口が広がらないようリスクヘッジしている)のような投資家。アクティブ運用。
年率20%以上のリターンなら成功。運用規模が大きくなるとリターンが減るジレンマ。
・個人から出資を募る未公開株投資ファンドは怪しい。通常は一般投資家からの資金は受け入れないもの。金持ちグループだけで分かち合う。
・日本のベンチャーキャピタルの平均リターンはトントンかマイナス
・個人が購入可能な社債は多くない。社債のほうが利回りは良い
・機関投資家は企業のIR担当の表情・顔色を見る、発言の行間を読む
・信用取引が一般投資家にも開放されたのは最近のこと。そのリスクを事前に伝えているか?
・業界関係者は一般投資家に株が儲からないと見破られることが一番怖い。
・流動性の低い株式に投資することの危険性
・新興市場の上場基準は緩く、審査側の裁量に委ねられ、審査の一部は証券会社に委譲
・株式公開企業が多いことは経済活性化には良い
・資金調達を目的として上場する企業は多くない。株主に株を売り抜ける場を提供する目的も多い。企業側は株主から早く上場しろとせっつかれ困っている。
上場企業というステータスが目的の場合も。
・主幹事証券会社として選ばれるには、上場企業としてふさわしい企業に育ててもらえると思われることが健全
・IPOディスカウント:やっと上場できるようになったくらいでは企業として半人前。公開時の株価は理論株価より2、3割安く設定。
上場後の株価が冴えないのは主幹事としてはよろしくない。値付けに失敗したとレッテル。
・ネット企業などはあまり資金が必要ないため、株主にベンチャーキャピタルが存在しない企業もある
・ネットでの人の動きやサービスは株式市場のそれに酷似
・インターネット:みなで知識、情報を分かち合うことで組織、社会全体としての価値を高めていく
・スティールパートナーズのようなファンドにコバンザメのようにくっついて投資
・株の持ち合いが再び増加。外国企業との三角合併解禁で敵対的買収への恐怖心が高まる
-目次-
第1章 そもそも株式投資とは何か
第2章 株式投資の理想と現実、そしてワナ
第3章 機関投資家と証券会社の生態を知る
第4章 日本の新興市場における問題点
第5章 今後の株式投資を考える
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