読書メモ
・「メディアに心を蝕まれる子どもたち」
(有田 芳生:著、角川SSC新書 \740) : 2008.07.21
内容と感想:
「はじめに」で著者は、日本の「犯罪の質」の変化を感じており、それは人間の変貌だと書いている。
その原因がテレビなどのメディアにあると。またこの日本が崩れつつあり、おかしなことになっていると感じている。
それだけに何とか軌道修正させなければとも考えている。
特にテレビの「記憶性」を重視している。イメージ、外見、印象などが記憶に残り、
それが精神の中にまで到達したときに化学反応を起こし、犯罪に結びつくことがある、と考えているようだ。
著者は職業柄いろいろな事件に関わることが多いから、特にそういう印象を強くもつのだろう。
しかし昔から比べれば日本の犯罪の発生率は減少傾向にあると聞いたことがある。
マスコミも視聴率稼ぎのため、そういうネタばかり追いかけて放送するものだから、
余計に目立つし、犯罪が増加しているようにも錯覚することだろう。
著者の指摘するように、メディアがそれを見る側の価値観を変えてしまい、精神状態にまで影響を
与えかねない危険性をもっていることは私にも直感的に理解できる。
だから「テレビを消して想像力を取り戻せ!」とか「まず親が変わらなければ」というのはもっともな意見である。
第2章に書かれているようにメディアによって「無自覚のうちに身体に刷り込まれてしまうものに対する警戒心が私たちには無さなぎる」のだ。
日々犯罪報道あるいは犯罪ドラマや映画などに触れ、批判精神の形成されていない子供たちが頻繁にそれらに晒されることで、脳に刷り込まれていく。
そしてそれが普通で当たり前のことに思えるようになる。
関東学院大学の土谷教授の次のような言葉を引用している。
「幼い頃から無防備にテレビを見せられると意欲や関心の低下につながるのではないか」、
「意欲が出る前に一方的に刺激を与えるのはよくない」。
また第5章の最後では最近の「スピリチュアルブーム」について批判している。
テレビがそういった番組を放送し、それが子供達がカルト教団に勧誘される土壌を増幅させているのだと。
もうテレビ局はオウム事件を忘れてしまったらしい。なぜ「スピリチュアル」が流行るのか分からないでもないが、
スピリチュアルという言葉に神秘的なものを感じる若い人もいるのだろう。でも私にはどう見ても胡散臭い。
さて、第6から8章までは著者と五十嵐茂氏とのインターネット談義になっている。
若干、本書の主旨からは外れたような印象が否めない。
○印象的な言葉
・メールに即座の返事を求める心理
・犯罪者でもテレビに出ているだけで子供にとってはヒーローになりうる
・批判精神の形成されていない子供達の中ではテレビに映るもの全てに肯定的であることが多い
・他者との対話の中で意識が生産される
・同化への意識的欲求:他者と違うことをできるだけ避けたい
・アメリカ軍人の発砲率(戦場で目の前の敵を撃てる確率)は第二次大戦までは10〜15%。ほとんどが目の前にいる同じ人間を撃てなかった。
それが研究と訓練により、朝鮮戦争では55%、ベトナム戦争では95%にまで向上した。
・反射訓練と無自覚化:演習の繰り返しでいい成績を上げることによって味をしめていく。マインドコントロールされて自覚を失った状態で、行為が身体に刷り込まれてしまう
・感情が極度に動いたとき、強い刺激を受けたとき脳内の血中酸素濃度が下がり「窒息状態」になる。PTSDの根拠。
・アメリカでは都市から離れた地域ではテレビの普及に比例して共同体活動やスポーツチームのような団体行動への参加が劇的に低下。チャンネル数が増加するほどその比率は高い
・音楽は短調の地域のほうが長調の地域よりも広い。東南アジアと日本列島を結ぶ地域では更に短調が濃い
・悲しみの感情を知らずに育つと他人の心の痛みも分からず、攻撃と自傷しかなくなる
・人間のコミュニケーション能力の土台は1歳半までに形成される
・耳年増の子供が増えている
・三歳までの子供は言葉が確立していないため頭の中で物語としての記憶ができない
・家庭、地域、社会のストレスが子供に浸透している。子供達にもゆとりがない
・人嫌いが進んでいる。一人でいることが退屈なことではなくなった
・6歳まではひたすらかまい、かわいがる。人間が好きになるような育て方
・戦後の経済的勝利主義が蔓延し、引き替えに精神の拠り所を失った日本
・父性の欠如。社会的価値観を教える存在としての父性。ものの見方を子供達に伝えていく存在
・インターネットは「どこでもドア」。子供が大人世界の性や暴力に簡単に接触できる
・自分の居場所としてのホームページ。安心して自分を語り、表現
・中とって:勝ち負けにこだわらず、ものごとの中間を取る大人の対応
・ネットは自分が用意できたときに反応すればよいから、自分の長所を最大限にアピールし、短所を最小限に抑えられる
・役人もその立場上、表の役割言語を話しているが、その表の人間がかりそめの(バーチャルな)人間なのかもしれない
・2ちゃんねる:嘘を嘘として楽しむ。
・小さい頃から一人で過ごすことが多くて、泣いたり甘えたりの感情表現に乏しく、自分の欲求や感情を受け止めてくれる他者がいるという安心感の欠如
・ネットではカッコいい自分を演出したくなる。本当の自分よりも一歩前に踏み出しちゃう。こうありたいと望んでいた自分の本質
・対話において互いの存在の意味を交換
-目次-
第1章 少年事件から浮かび上がってきたもの
第2章 視覚メディアにさらされる日常
第3章 壊れていく子どもの世界
第4章 他者を受け入れられない子どもたち
第5章 神秘にハマる若者たち ―オウム事件に学べ
第6章 有田芳生のネット談義序盤戦 ―「我が子にネットをどう使わせるのか?」
第7章 有田芳生のネット談義中盤戦 ―「インターネットで結ばれた新しい人間関係」
第8章 有田芳生のネット談義終盤戦 ―「インターネットは誰もが表現できる場所である」
人間連鎖の復興を求めて ―あとがきにかえて
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