読書メモ

・「霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」
(森 行生:著、ソフトバンク新書  \700) : 2008.08.31

内容と感想:
 
著者は元大蔵官僚。小泉・竹中改革の知恵袋と言われたそうだ(政策スタッフとして働いた)。 本書は「まえがき」にあるように、今、話題の経済問題(埋蔵金、道路特定財源、財政再建、日銀総裁人事、公務員制度改革、地方分権など)から 経済学を論じようとしている。最初は著者の肩書きだけ見て、これは元官僚の暴露本みたいなものか、くらいの認識だった。 (実際、それに近い。政官裏話といったところ)
 タイトルにある「埋蔵金」だが私も本書を読むまでは何のことかよく知らなかった。興味もなかったし。 知ってみれば大したことではない。埋蔵金でも何でもない。特別会計の資産から負債を除いた差額(黒字部分)を言っているに過ぎないのだ(家康埋蔵金じゃあるまいに)。
 日本は内閣と国会が主役の本来の「議院内閣制」ではなく、 官僚が中心になって国会・内閣を操る「官僚内閣制」だと言う。 その弊害が多くの問題を生み出している。 「政策はみんなで議論して作るもの」という当たり前のことが出来ていない。本来、政治家が作り国会で議論すべきなのに出来ていない。 税金の使い道も役人が決めるのではなく、国民が決めることだ。こんな馬鹿にした話はない。国民もいつまでも無関心ではいられない。
 ガソリン代を初め食料品などの値上がりが進んでいる。日本は原油や穀物などは輸入に頼っているが、海外の物価が上がると余分にお金が海外に出ていくことになる。 それは国内の所得が減ることを意味する。資源高は企業経営を直撃している。無策では景気の悪化は避けられない。国には景気対策が求められている。 著者は海外に流出していく所得に対して、「それを埋める分だけお金をつぎ込む必要がある」と言う。 一方で赤字国債発行を伴う公共事業発注は効果がないと指摘する。
 日本の景気減速は新興国の需要拡大、アメリカの景気減速など外部要因が大きい。 政府・与党は先日(8/29)、あわてて総合経済対策をまとめたばかりだが、効果を疑問視する声も多い。 構造改革や規制緩和など知恵を絞って赤字国債に頼らない、内需拡大策を迅速に打ち出してもらいたい。

○印象的な言葉
・日本は国(=中央政府)がやっていることが多すぎる
・為替介入なんて無意味。他の先進国は介入資金なんてほとんど持たない
・増税の前に歳出カットを
・キャリア制度を廃止せよ。キャリア制度は身分制度。終身雇用、年功序列、天下りを保証。 ころころ代わる大臣よりも生涯面倒を見てくれる役所に忠誠を尽くす。国益より省益
・大臣には人事権がない
・公共投資は為替の変動相場制になって財政政策(財務省担当)の効果が落ちてきている(マンデル・フレミング理論)。 国債発行→金利上昇→円高→輸出減少→公共投資分が輸出減で相殺。輸入が増え、投資分が海外に流れる。
・変動相場制では財政でなく金融政策が効く。金利を下げる→円安→輸出増加。設備投資も増加。
・トリレンマ:3つのうち同時に2つしか実現できない。1つは諦めねばならない
・地方自治体は国の都合で振り回されている
・財務省は東大法学部支配。一般会計しか査定していない。特別会計は各省庁にお任せ。 一般会計ではストックで800兆円の赤字。特別会計はストックにはほとんど赤字はない。主な特別会計は公共事業と年金。年金だけは負債のほうが大きい。
・年金の保険料と税金は日本では別々に徴収。社保庁と国税庁という二重組織になっているのは日本だけ。
・財務省には金融工学などの知恵がない
・ピグー税:公害を出すものに課税。欧州は日本よりガソリン税が高い。
・日銀の役割は物価の安定。物価は国の「温度」
・日銀にはデフレ脱却の目標があったが福井総裁のときには任期中に実現できなかった。失策・失政なのに責任を問われない
・デフレ脱却政策はマネーを出すこと。日銀が(財務省から)国債を買って、マネーを増やす(日銀は対抗心があって嫌がる)。
・お金を借りている人のほうがエネルギーがある。一生懸命考えて経済を引っ張る。金利を下げて、貸し出しを増やすべき
・日本の資産はGDPと同じ、500兆円くらい。普通の国の資産はGDPの10%くらい
・マスコミの記者クラブ制では新聞ネタをもらうために、あまり役所の批判ができない
・有識者にも審議会に入ってとおだてられ、入った後は勲章で釣られて役所とべったりになる。お抱え学者、御用学者
・国交省が空港施設への外資参入を嫌がるのは天下り先がなくなることを恐れるから。国家安全保障は言い訳で「役人の安全保障」が大事
・国交省は道路や莫大な公共事業を管轄するだけに利権も大きい
・地方分権:近ければ近いほどいい。自治体でできることは全部そこでやる。そこでできないことを国が補完する(国防、外交、社会保障)。 文句は身近な地方のほうが言いやすい。国には声が届きにくい。
・消費税は本来、マクロ経済政策がなく景気対策ができない地方が安定的に行政をするためのもの
・市場経済は個人個人が市場の主体となる意味で分権の最たるもの
・日本人は政府に対する過信が強い

-目次-
第1章 「埋蔵金」とはなにか
第2章 国のお金はどう動くのか? 財政編
第3章 国のお金はどう動くのか? 金融編
第4章 公務員制度改革の闘い
第5章 国家を信じるな