読書メモ
・「リンク格差社会 〜ウェブ新時代の勝ち組と負け組の条件」
(江下雅之:著、マイコミ新書 \780) : 2008.04.26
内容と感想:
ご存知Googleの検索結果はページランク(PageRank)というシステムによって順位付けされる。
このシステムはリンクの多さを重視しているのだが、リンクの多寡が検索結果連動型広告のスポンサーの
収益に差をもたらす。検索上位に自分(自社)ページをもってきたいがために人為的に操作する
SEOなるビジネスまで大っぴらに展開されている。上位に来るページと下位のページとの差は歴然としてくる。
全くアクセスされないページが圧倒的多数となる。そういうものをタイトルの「リンク格差」は表しているのだが、
そうしたタイトルからある程度、内容が予想できてしまう本だと思い込んで期待せずに読んだ。
また、流行の「格差社会」をタイトルに冠したところも、商業主義がハナに突いて嫌な感じもあった。
しかし意外と硬派な内容で、良い意味で期待を裏切ってくれた。
著者が「おわりに」で書いているように、本書はインターネット上の情報のリンク(つながり)のダイナミズムに
視点を当てて書かれたが、人間関係のネットワークにも注目している。いわゆる人脈だ。
どちらもネットワーク論で語ることが出来ると著者は考えた。これらの類似性は容易に理解できるだろう。
リンクにはそれを「たぐり寄せることで様々なチャンスを引き出せるのと同時に、
リンクによって予想外の事態に引きずり込まれる危険性」がある。
それにより新たな社会問題も発生している。掲示板荒しや、ブログ炎上、迷惑メールなど例を挙げると切りがないほど。
「覗きたい人と覗かれたくない人とのリンク」も生じる。
しかし実際にはリンクが起きないことのほうが普通であり、圧倒的に多いという。
だから格差が生じるのだ。
「人であれ情報であれリンク格差が富の格差や情報格差につながる」。
リンクの格差が企業活動や地域、対人関係においても生じている。
そこでは「リンクの量には極端な偏りが発生」している。
そして情報(注目、カネ)のあるところに情報(注目、カネ)が集まり、人気が人気を呼び、売れるものはますます売れる、という状況になる。
数学的には格差は永遠に拡大し続けるそうだが、
「現実世界には無限はありえないので、システムの崩壊という形で拡大メカニズムは終息する」。
それは株式のバブル形成と崩壊や地震に似ているという。
「富める者がますます富む」世界で社会的な不均衡が限界に達したとき、歴史的には一揆や革命が発生した、という。
ネットワーク化された社会とはそういう激変が待っているのだ。
インターネットなど情報通信が発達した現代では
その変化のスピードが速いため、激変はすぐにやってくるかも知れない。社会が不安定になるかも知れない。
そういう社会で我々が生きていくにはネットワーク(社会)の構造を把握し、自分が取れる位置取りに応じた戦略を練って実行していくことだと
著者はいう。なかなか実践は難しい。時代の流れに飲み込まれるか、うまく波に乗るか。当然、取り残される人も出てくるだろう。
ネットワークを有効に利用していかねばならないのだが、
人や情報の「ネットワークを人為的に作ることは難しい」。作れても維持、拡大が難しい。
「日常的な活動の中で関係を継続させなければネットワークは維持できない」のだ。
しかし食事や休憩時間などちょっとした合間に交流、意見交換できる。
そうしたところから自発的にネットワークが生まれてくる。我々が普段からやっていることだ。
しかしそのネットワークから経済的、政治的な利益を得ようとするならネットワーク構造の理解が重要だ。
そして情報流通が過剰な時代にはそれらのつなぎ役が重要になり、そうした役割を果たすもの(者、物)が利益を得るだろうと
いうことも書かれている。
○印象的な言葉
・インターネットは知の連鎖を生み出す、協力の連鎖、私論の連鎖
・強い紐帯原理と弱い紐帯原理
・ソーシャル・キャピタル:社会で何かを成し遂げる土台となる資本。ネットワークはその重要な構成要素
・インターネットの独自性は「つなぐ」機能
・ブログの真の始まりはWWWの登場とほぼ同時期
・企画性の高いブログ、社会的イベントとの連動、コミュニティの要素
・在庫を持たないカンバン方式の弱点:メーカーとサプライヤーとの階層的(ツリー型)な取引ネットワークの分断。
これを補うのがタテ方向ではなく、ヨコ方向のつながり。ツリー同士をつなぐバイパス(リワイヤリング)。
・ネットワーク・セントリック:ネットワーク自体を一つの中核的な主体(意思決定や活動の中心)と見る。分散構造が中心そのもの。
・スマートモブズ:メッセージの伝搬とともに動員が進み自己組織化されていく。特別な指導者がいなくても政治的なパワーを発揮。動員が動員を呼ぶ連鎖。
・6次の隔たり:実験サンプルの少なさや実験手法に対しては疑問が呈されている。グラフ理論
・ネットワークのクラスター性(固まり方)
・限定された結束型ネットワークが負の外部性を生み出す危険性。内向きの論理で結束した集団が社会的に不利益をもたらす。
・ネットワークへの奉仕、物質的・精神的な支援
・ユダヤ人社会は長年に渡って豊富なソーシャル・キャピタルを蓄積してきた。信頼関係。そうしたネットワークでは取引や契約のコストが削減できる
・信頼とはある種の期待。相手が自分が負うべき義務と責任を認識しているだろうという認識
・マスコミの役割:情報の供給者ではなく、情報の選択代行者
・ネットではいつ注目を集めてしまうか予測がつかない。それが瞬時に広がる。広がったデータは回収できない
・出ない杭は根元から腐る
・開放型ネットワーク:必要なときにネットワークを構成し、使命が終わったら解消する柔軟さ
・mixiでは公開することのデメリットを避ける傾向
・ティッピング・ポイント:アイデアや流行などが敷居を越えて一気に流れ出し広がり始める劇的な瞬間。
ゆるやかな変化を軽く見るな。ある日を境に激変することがある。
・メイブン(maven):事情通、情報通。情報流通の要(ハブ、つなぎ役、まとめ役)となる人。
・ネットワーク構造を把握し、どこに溝があるか発見する。その溝に第三者が媒介するチャンスがあり、利益を引き出せる
・情報になる前の情報が有益(インフォーマルな情報が打診や照会の形で漏れる。徴候)
・少数の勝ち組と圧倒的多数の負け組との格差。歴然とした格差があるとき負け組は負けていることに気付かない
-目次-
第1章 リンクの視点
第2章 ネットワークのダイナミズム
第3章 ネットワークのメカニズム
第4章 混迷するリンク、錯綜するネットワーク
第5章 ネットワークの一つの現実
第6章 リンク格差とリンク戦略
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