読書メモ
・「アメリカ狂乱 〜次の大統領は誰か」
(日高 義樹:著、徳間書店 \1,400) : 2008.09.21
内容と感想:
オバマがヒラリーを破って民主党の大統領候補となった。その本番選挙も11/4に迫っている。
予備選挙にも関わらず日本のマスコミも賑やかな選挙戦を取り上げ、共和党そっちのけでお祭り騒ぎに興奮していた。
著者はその様子を見て「アメリカに新しい政治の動きがでてきているのではないかと日本の人々が誤解したのは当然だ」という。
それは「アメリカ国民全体の考え方とは違っている」のだという。
アメリカでは女性を大統領にしてもよいと考える人は増えているが、
黒人大統領となると時期尚早と見る人が多い(黒人はアメリカ国民の13%。ヒスパニック系は黒人を上回る)らしい。
一方、共和党の大統領候補は早々とマケイン上院議員に決まった。彼は海軍一家に生まれベトナム戦争で捕虜となり帰還し、国民的英雄として尊敬されている。
しかし当の共和党首脳には好かれていないらしい。
保守本流から外れているだけでなく、時として民主党のような主張をしたり、
民主党と協力して法律を作ったりしてきた(選挙法の改正。政治献金を受け取るのを難しくした)。民主党穏健派の友人も多いそうだ。
71歳という高齢も心配されている。
オバマは人気はあるが、政治的な実績がないことから大統領に相応しいか疑問をもたれている。
共和党から見ればヒラリーは負かしやすいが、黒人のオバマは更に負かしやすいとも。
彼らはオバマが大統領になっても強力な政治力を発揮できるはずがない、と見ている。
実際、オバマは「変化」と口で言うだけで具体的な政策をまだ提示できないでいる。
著者は「イラクから即時撤退する」と公約するオバマは負けることが嫌いなアメリカ国民から選ばれることはないと見ている。
アメリカにいて多くの取材を通して情勢を見ている著者ならではの説得力がある。
アメリカは2007年秋の選挙で上下院で共和党が大きく敗退し、民主党が強い権力を維持している。
仮に共和党のマケインが大統領になると、議会は民主党という「ねじれ」状態となる。アメリカ国民とすれば、それはそれで不安であろう。
本書では予想もしなかったことが現在起こっている。
8月の民主党全国大会のお祭り騒ぎが終わって、9月に開かれた共和党全国大会では盛り上がりに欠けていた共和党を輝かす人物が彗星のごとく登場。
アラスカ州知事の女性副大統領候補ペイリンだ。日本のテレビではそれを7回で飛び出した逆転満塁ホームラン、とも例えていた。
これが著者の予想を更に強化することになるのは間違いない。
○印象的な言葉
・オバマを支援するウォール街。普通は未知数の政治家には献金しない
・アメリカ政治を動かす中国マネー。ヒラリー陣営への献金。中国政府はアメリカの金融機関への出資を増やそうとしている
・驚くほど古いアメリカの地方政治。基本的な姿勢はまったくブレていない
・大統領選挙で国民を脅すようなやり方は卑怯
・オバマに対するアメリカの若者の熱狂は度を越す。現状にあきあきした若者。
・アメリカ人は若さと変化という言葉に本能的な喜びを感じる。
・オバマの自らの力で道を切り開いてきたというアメリカ人好みのイメージ。歯切れよく、わかりやすい演説。軽いノリ。ケネディの再来を演出。
・大統領選挙のシステムは保守的な中西部や南部の州に有利な仕組み
・ブッシュの金持ちへの減税が土地バブル、通貨バブル(ドル高、ドル余り)、輸入バブルを生んだ。貧しい人々の怒りは爆発寸前
・アメリカの黒人差別は依然として存在する。受け入れない雰囲気を作り出して差別する
・大統領選挙戦は長い時間と絶え間ない努力を強いられる重労働
・アメリカ国民が団結して理想に向かって進むエネルギーがなくなった
・ビッグ・サージ:イラクの米軍兵力増強。これで一気にかたがついた。世界的なテロリストはいまや守勢に立たされている。いまはアフガニスタンでの戦闘を強化。
アルカイダの壊滅に集中。ビンラディンも追い詰められ、アルカイダの士気も弱まる。
・アメリカのマスコミは「第四の権力」と言われたが、いまや面白がりのジャーナリスト集団、アナーキー。思い込みと頭でっかちな人々。お金にならない仕事。
政府や社会に反発し、権力の存在そのもんを毛嫌い。特殊な眼鏡を通して物事を見る。人々の本音を伝えられない。競争相手の記事を意識しているだけ。
自尊心が肥大、自分たちの思いを先走らせている。中立とは言えない
・結局、人々は大統領候補者の人格が好きか嫌いかで選ぶ
・共和党、民主党といっても一つのまとまった全国的な組織として存在していない。正式には州ごとに存在する。アメリカ国民の40%が民主党員、20〜25%が共和党員。
彼らの収入にはさほど大きな差はない。
・民主党:変化を求める自由な人々、高等技術を持った人々や高い教育を受けた人々が多い。新し物好き。大学卒業者、大企業の社員、アカデミックな仕事につく人々。
腰の弱い外交政策。強力な軍事力の使い方を知らない、知ろうとしない
・アメリカ国民の1/3を占める労働者。その半数は低所得者。
・すべての人間は自由で平等、その結果、対立するのは当たり前。常に対立し衝突しているのがアメリカ文化
・共和党:ビジネス本位の現実的な党。柔軟性に富んだ考え方をする。アメリカ人は強いアメリカは共和党が作ったと考えている
・金銭が絡むとおそろしく現実的なアメリカ人
・アメリカでは必ずしも優秀な若者がマスコミに携わるわけではない。国の将来や社会の将来を考えるという視点の欠如
・アメリカ政治の二重性:一般の人は地方政府がうまく運営されていればいいと思っている。冷戦後はワシントンのことは二の次でいい
・ドルの威信を守るために必要とされる軍事力
・石油の消費はこれから毎年10%ずつ増える。石油の生産高は4〜5%しか増えない
・イラク北部の石油が豊かなクルド族の地域をめぐる戦いはこれから本格化
・イラク戦争は石油戦争と世界的な資源をめぐる戦いの前哨戦。イラクの石油をアメリカの管理下に置くのが目的
・アメリカ国務省の役人は中国を日本より遥かに分かりやすい国と見ている。中国に好意的で、日本を嫌っている
・金のためなら何でもするアメリカ議会のロビースト
・アメリカの次の政府が本格的に動き出すのは就任式の1年から1年半後
・アメリカ大統領の歴史は戦う大統領の歴史
・北朝鮮の軍事力は老朽化し脅威ではなくなった。脅威なのはミサイルと核だけ。国際的なテロ活動を行う能力も失っている
・拉致問題は日本が自分で解決すべき。自国民を守れなかったのは日本政府の責任
・日本は安保条約のもとで東南アジアに対して何の努力もしてこなかった。経済力を政治外交の力として行使し、世界の秩序を作るために努力しなければならなかった。
-目次-
序章 ヒラリーはなぜ「死ななかった」のか
第1章 本当に決めるのはマネーだ
第2章 黒人大統領が誕生するのか
第3章 2008年選挙の主役はマスコミだ
第4章 マケイン上院議員しかないのか
第5章 アメリカ政府がなくなる
最終章 世界は混乱にむかう
|