読書メモ
・「組込みソフトの開発現場につける薬」
(杉浦 英樹 :著、技評SE新書 \840) : 2008.12.08
内容と感想:
長く組込みソフト開発に携わって来られた著者。
第3章にもあるように今や「組込みソフトの開発現場は日本を代表する技術のフロントラインとして認識されている」。
しかし多忙な現場は疲弊し、「後発の安価な労働力を武器とする国」に追い上げられ、様々な問題を抱え、厳しい状況にあるのが実情。
本書にはそれを打開するための処方箋が書かれている。
過去の技術系雑誌の記事を再構成して単行本化したものである。
組込み以外のソフト開発で導入されることの多い管理手法であるCMMIやPMBOKなどにあえて異議を唱え、
現場中心の開発管理の必要性を説き、実践的管理のヒントや、大規模化した開発チームの育成のあり方について語っている。
「組込み製品開発を取り巻く環境では、革命が続いているという認識に立つべき」と言うように、
開発者たちは次から次へと登場する技術情報をどんどん読み取る必要があり、安定していてはいけないのだ。
開発者たちが燃え尽きないように、また新興国に仕事を奪われないためにも、
本書は開発者よりも彼らを管理する立場の人、プロジェクトマネージャ(PM)にこそ読んでもらいたい。
「あとがき」にもあるように今後も組込み製品開発を日本のお家芸としていき、継続して製品を世界に供給していくには、
日本の組込みソフトの「品質の高さを再確認し、開発管理技術を駆使して、さらなる開発効率の改善とダントツの高品質を継続」しなければならない。
そのためにもPMは学び続け、現場を改善し続ける必要がある。
○印象的な言葉
・ロングテールな市場への対応。多様化する顧客要求。個別対応要求の増大。多品種少量生産型の製品開発。
成熟した市場。オーダーメイド。エンドユーザの好みを最大限に実現できるシステム。
・より多くの機能や機種を短期間で効率よく開発
・機能安全やセキュリティ要求が高度化
・ハードウエアで実現していた機能をソフトウエアに置き換えることが当たり前に
・人に依存する現場
・できない人こそチームの宝。優秀な人ほど後輩指導に問題がある。どこでつまづくか理解できない。
・改善努力した結果分だけ、更にプロダクトが増えている実情
・コスト競争で血の色に染まるレッド・オーシャン
・問題領域(ドメイン)に関する深い知識
・要求の変化点を特定する。経時的要求の変化を予測。要求仕様にある少ない情報から製品の本質を見つけるスキル
・過去の問題をしっかり分析しなければ、同じ問題を繰り返すだけ。
・ソフトウエアの大規模化がソフトウエアと制御対象の距離を生み、技術者を分断。その分、双方の調整が必要になり時間がかかる。
・残業時間規制や社外への情報持ち出し規制により、改善活動など定時以外での仕事がしにくくなった
・「すり合わせ型」の開発から「組み合わせ型」へのパラダイムシフトが必要。
・CMMの問題:開発管理にかかる時間の多さ。優れている部分は取り込む。知恵袋として使う
・開発現場は開発者が中心になる。管理者は開発者から学び、一緒い考え、仕事がうまくいくようアシストする。開発しやすい環境整備。
・新たな開発管理技術の導入は小規模に実施して有効性を確認する。効果が検証できたら社内標準化し、社内へ水平展開する。
・新規技術導入の際は現在の自分たちを分析すること。今までの良かったところを認識せずに新技術を取り入れると、
過去の再発防止策がリセットされる恐れ。過去のノウハウを軽視しない。それも知的財産。
・管理者は開発者に問題を気付かせる。問題を早期に発見する仕掛け
・ルーチンワークした作業、安定化志向に陥ると新規技術への知識欲やワクワク感を忘れる。クリエイティブな発想ができなくなる。
一人ひとりの工夫を製品に導入する機会を作るのが困難になり、製品をより魅力的にすることが阻害される。
・間違いに至る要因を特性要因図や連関図、ロジックツリーなどに書き出す
・レビューが教育の場。理解度が分かり、考え方を教育し、気付きができる。
・生産部門は作業工程分析や作業分析による効率化のプロ。彼らの視点を参考にする
・「よりよいものを作ること」に価値がある
・コラジェクタ
・社外交流で自分の実力を知る。異業種の人から異なる考え方や発想を得る。
・モデラーがプログラマを駆逐するようになる
-目次-
第1章 組込みソフトを取り巻く環境の変化
第2章 なぜ改善・改革ができないのか
第3章 開発管理の必要性
第4章 開発管理の基礎
第5章 CMMやPMBOKがすべてではない
第6章 理想の開発チームを作る
第7章 開発管理の実践
第8章 開発管理を成功させるコミュニケーション
第9章 開発チームをより成熟させる
|