読書メモ

・「北朝鮮・中国はどれだけ恐いか
(田岡 俊次:著、朝日新書  \740) : 2008.06.28

内容と感想:
 
テレビでもお馴染みの軍事専門のジャーナリスト。 著者のことをあまり知らなかったから、よくテレビに登場するような軍事オタクかと誤解していた部分があるが、 本書を読んでだいぶイメージが変わった。
 「おわりに」でも書かれているような軍事情勢を考えるときの姿勢については謙虚だと感じるし、 本書で取り上げている問題についての分析や、それに対する日本のとるべき対策についての意見も現実的で常識的だ。 タイトルだけ見ると「北朝鮮・中国」の脅威を煽るような内容かとも思うが、いたずらに脅威を煽るようなものではないことは読めば分かる。
 序章にも書かれているように小泉後の日本で最近、軍事論議が活発になってきたことに対して、 「軍事常識に乏しい人々が時流に乗って非合理なほど「タカ派」的な説を弄ぶ風潮に危惧を感じ」ている。 それを批判して「バカ派」と呼んでいる。それは政治家にも広がっているようだ。 無知は罪である。 バカ派の政治家に国の進む道を誤らせてはならない。そのためにも本書を一読することをお奨めする。
 著者の持論は「自主防衛、武装中立」。 中立政策で第1次、第2次世界大戦の戦禍を免れたスウェーデンを取り上げて、こう書かれている。 「強力な防衛力あってこそ、スウェーデンの(中立)政策は実行できる」。 人口900万の小国ながら大部分の装備を国産し、核の傘に頼らない生き方は日本にも参考になるだろう。
 本書ではタイトルにあるように主にアジアの軍事問題に焦点を絞っているが、 「米国は数年後には財政的深手を負ってイラクから撤退するだろう」とも予想している。
 失礼な言い方だが石破防衛大臣と対談させたら面白そうだ(既にテレ朝のサンデープロジェクトあたりでやっているかも知れないが)。

○印象的な言葉
・軍事には地理、歴史、幅広い教養が必要
・北朝鮮の崩壊は韓国も迷惑。韓国は崩壊防止に必死
・ソ連に見捨てられて核開発に走った北朝鮮。どんな武器でも開発すれば実験をするのは普通
・核ミサイル対策に地下避難は効果的
・先制攻撃論の愚かさ
・日本の核武装論(NPT脱退)は日米対決を招く。北朝鮮の核開発を放置すると、日本はそれを口実にする
・理性を失った相手に抑止は成立しない。核抑止は相手の理性的判断が前提
・中国脅威論はソ連の脅威の後任探し
・中国指導部は全員エンジニア
・中国を敵に仕立てるな
・左のイメージの朝日新聞。1963年当時はどの新聞も左傾化
・(記者の)発想や視点が担当する分野の人々と似てしまうことが起こりがち。
・報道機関の社会的機能の第一は批判。政府の主張を伝えるだけなら官報で十分。報道機関は問題点の早期発見に努め、大事に至らないようにする警報灯の機能を果たすべき。
・北朝鮮の実戦用ミサイルの位置は不明
・台湾独立はまず考えられない。アメリカは独立への些細な動きも弾圧。台湾人としても独立を主張して中国と対立するのも、所得水準が10分の1で政治的自由度が低い中国との統一も嫌。 中国は現状を分裂とは認めていない。米国も台湾防衛の義務を負っていない。万が一、中台の武力紛争が起きても内戦に過ぎない
・中国は憲法を改正して「私有財産の保護」を謳っている、共産党が経営者の加入を求めて商工会議所化している
・時代はイデオロギー対立から脱却し、各国の利益追求の時代に戻った
・核兵器はその存在を相手に知らせてこそ抑止力にもなり政治的発言力も高まる(政治的兵器)
・朝鮮半島の米・韓軍の兵力はその気になれば北進し統一も可能
・兵器級ウランの濃縮には巨大な設備が必要、隠匿が困難。プルトニウムの製造は比較的簡単
・国防担当者は相手の脅威の評価を語る際、できるだけ大きめに言うもの
・ミサイル防衛は「大丈夫」とは言えないが「ないよりまし」「気休め程度」
・米中の軍事交流、海軍同士の共同訓練は両軍のレベルが全く違うため、親善関係を示す政治的ジェスチュアとしての意味が強い
・米国内の「米米対立」:海外に工場を持つ大企業とそれに圧迫される国内の中小企業との利害の対立
・国家に友人なし。国際関係では感謝は意味のない言葉
・竹島問題や魚釣島問題は国際司法裁判所に提訴して第三者の裁定を求めるのが両国政府にとっても良策
・民変:中国で増加する暴動。公認の暴動であり、日本の労働争議のような社会現象と見ている。押しかけ型直接民主主義。

-目次-
「バカ派」の増殖を危惧する
第1部 北朝鮮の核
第1章 核実験は成功か失敗か
第2章 核ミサイルに対策はあるか
第2部 中国の軍事力
第3章 中国脅威論の淵源
第4章 中国 vs 台湾、両軍隊の実力を分析する
第5章 台湾海峡、波高し?