読書メモ
・「ウェブ国産力 ―日の丸ITが世界を制す 」
(佐々木 俊尚:著、アスキー新書 \752) : 2008.04.12
内容と感想:
Google、Amazon、Apple、など群雄割拠するウェブの世界で日本企業にどれほどの可能性があるか?
そのウェブの分野における日本の国際競争力がどれくらいあるのか推し量りたいと思って本書を書いたと、
「はじめに」で著者は言っている。その可能性の総量がタイトルの「国産力」に込められている。
しかし残念ながらサブタイトルの「日の丸ITが世界を制す」という結論にまでは至っていない。まだこれからだ。
「あとがき」で著者はその日本の可能性について「十分に可能であり、これからが楽しみ」だと結論づけている。
タイトルの「ウェブ」を意識しすぎると読むうちに違和感を感じてくるだろう。第三章まではウェブの世界をターゲットにした話であるが、
第四章ではデータマイニング技術を「広義の捉え方をすれば」と断った上で「検索システム」と言うのには違和感があった。
どうしても「検索」に結びつけたいようで、無理矢理感が否めなかった。
また、第五章のユビキタスセンサーネットワークについても、収集したセンサーデータを解析・活用することを「検索システム」と呼んでいて、
これらは明らかにGoogleの検索エンジンとは性質が異なる。
それらの疑問の根源は第六章の経済産業省が推進する「情報大航海プロジェクト」が「対グーグル」ではなく、
Googleがカバーしていない広大な領域をカバーすることを目指している、という記述で明らかになる。
それを「検索」という言葉では説明し切れないもどかしさを著者自身も感じていたようだ。だから仕方なく「検索」という単語を使っていたようだ。
日本が得意なセンサー技術やデータマイニングを初めとする分析技術を用いたサービスがウェブを介してユーザに提供されることは今後どんどん増えていくだろう。
ウェブ(インターネット)が世界共通のプラットフォームとなった現在、日本企業の活躍する場はいくらでもあるだろう。
六、七章で大きく取り上げられている「情報大航海プロジェクト」はそこを睨んだプロジェクトである。
これは推進役が民間から中途採用された八尋氏(2005年入省)ということもあり、
過去の官僚主導で失敗ばかりの国家プロジェクトとは違って、八尋氏がビジネスを知る人だけに期待が持てる。プロジェクトとは言うが実はビジネス化できるプロジェクトを探し出し、
それを支援していくというプロジェクトである。
このプロジェクトには色々な仕掛けが盛り込まれていることが書かれている。
ただ、各企業が持つ要素技術を共有化するために「お国のために差し出せ」という点や、
著作権やプライバシーの問題など、このプロジェクトが超えなければならないハードルが高いことも、取り組むべき重要課題として書かれている。
短いスパンでは日本の技術力には私も楽観的だが、近年の日本の若者の理工系離れのほうが深刻な問題で気になる。
国家として取り組むべき大きなテーマだと思う。
○印象的な言葉
・組込み系の制御技術などでは日本の技術は光るが、プラットフォーム競争は下手な日本人
・検索結果をみんなで評価する
・何気ない日誌も分析(マイニング)により価値を生む
・専門的な2ちゃんねる内掲示板には数多くの専門家が集まり、かなり高度な議論や情報交換を行なっている
・「おもしろいことをやろう!」と集まってきている(未来検索ブラジル)
・検索におけるプライバシー問題の解決法:利便性を得るには情報を提供するのは当然のコストとユーザが割り切れること。または、
個人情報は送らずヒントになる情報だけをサーバへ送ることで信頼感を得る。
・30代より上の世代でパソコン利用率は上昇。20代だけは下降線をたどる。携帯電話でネット接続する若者の増加
・プライバシーすべてを小さなケータイに保管。⇒どこかにバックアップしたいというニーズ
・日本ではケータイのインターネット(ケータイ専用サイト)とPCのインターネットとの間に分離が生じてしまっている
・ライフログ:利用者の人生や生活(行動履歴)をそのままデジタル化。⇒個人史や業務日誌代わりにも使える。万歩計。
運動量や食事の内容を記録、健康管理に利用。
・従来の検索サービス:見つかりそうなキーワードをユーザが自ら推測して入力。ユーザに負担がかかる仕組み
・インターネット上のサーバに何でも送る中央制御モデルでなく、ケータイである程度処理する分散モデル
・ガラパゴス進化した日本のケータイ。あまりに日本独自の文化が「閉ざされた進化」になっている
・blogWatcher:あるキーワードのブログでの注目度(出現頻度)や評判(ポジティブ、ネガティブ、推移)を示す。⇒株の銘柄選択に使える
・SHOOTI:体験・経験を重視する検索結果ランキング。「イケてるブログ」が取り上げる面白さの基準は一貫性、更新頻度、志向の広がり
・ハインリッヒの法則:1の重大事故の下には、29のインシデント(軽い事故)があり、その下には300の「ヒヤリ」「ハッと」がある。
ヒヤリハット対策することでインシデントや重大事故を防ぐ。
・自然文解析:日本語やアラビア語などは欧米の言語と違い、文から単語を切り出すのが非常に難しい
・NTTの研究所には物凄い技術がごろごろ転がっている。ビジネス化が物凄く下手。技術を活かしきれていない。
・Googleが台頭するまで検索技術において日米の差はほとんどなかった
・iPodの強み:ソフトの「iTunes」、音楽配信サイト「iTunes Store」とシームレスにつながるネットワーク性。どこでも自由自在に音楽を楽しめる
・世代や民族、生活習慣、メディアリテラシーなどによって、プライバシーに対する感覚は異なる
◎覚書
・xxウォッチャー:テーマを絞って日々追跡。その変遷・推移にドラマ性があれば面白い
・誰も気にしないようなxxを愛し、ありとあらゆるxxを撮影
・対話しながらの音声認識、自然文解析、機械翻訳による同時通訳システム
-目次-
第一章 未来検索ブラジルはグーグルの夢を「見ない」 ―ベンチャー企業が創る新発想の国産検索エンジン
第二章 持ち運ぶ「ライフログ」端末、ニッポンのケータイ ―「ガラパゴスケータイ」が新たなプライバシービジネスを生む
第三章 ブログ検索でマーケティングが一変する ―検索そのものではなく、検索から得られたデータを解析するビジネス
第四章 「気づき」を与えるアーキテクチャー ―事故につながりそうな要因を検索、解析して対策を作り出すシステム
第五章 リアル世界とインターネットをつなげるウェブ国産力 ―災害や健康管理をデータ化するP2Pの可能性
第六章 情報大航海プロジェクトを推進する男 ―彼は何を追い求めているのか
第七章 ウェブ国産力が世界を制するために ―立ちはだかる三つのハードルを超えて
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