読書メモ
・「サブプライム金融危機 ―21世紀型経済ショックの深層」
(みずほ総合研究所:編、日本経済新聞出版社 \1,500) : 2008.09.22
内容と感想:
昨年2007年12月に出た本。タイトルにはサブプライム問題が「金融危機」だとしっかり書かれている。
危機は昨年6月中旬に突如起こった。一時は小康状態となったと見えたが、いまだ激震は続いている。
住宅ローンの延滞や差し押さえの本格化でますます住宅市場の過剰在庫、住宅価格の下落、住宅着工の減少が進む。
信用収縮で欧米銀行間取引金利が高止まり、資産担保コマーシャルペーパー(ABCP。短期資金の調達用)も発行難。
それに伴い、雇用・個人消費の悪化、プライム層のサブプライム化も進む。負の連鎖が続く。
米国だけでなく世界の実体経済への影響、景気後退が懸念されている。
本書ではサブプライム問題発生の背景と、サブプライムローンや証券化の仕組み、問題の影響と今後の展望などについて書かれている。
今回の問題は「重層的な証券化プロセス」が抱える問題だが、それがただのローンの焦げ付き問題と異なる点だ。
「リスク分散がなされた結果、リスクがどこにあるのか分からない」というのがサブプライム問題の大きな特徴と言っているが、
結果的に「リスクを分散するのではなく、リスクを拡散していたに過ぎな」かったというのは言いえて妙である。
問題が複雑すぎて、完全な情報を有しているわけでない(情報の非対称性)経済主体であるプレイヤーは、リスクの把握ができず疑心暗鬼となった。
「S&L危機の再来」とも危惧される今回の危機。
1980年代には相次ぐS&Lの経営破綻で、その数は数百行にのぼった。
第II章ではサブプライム問題による損失をIMFが試算した結果を紹介している
MBSとABS-CDOの時価評価損は合計2千億ドル(米国GDP比で1.5%)。これはS&L危機時を上回る。
「S&L危機時と比べて金融機関の自己資本も厚みを増しており、金融機関の経営破綻が相次ぐ状況になるとは考えにくい」というが、
破綻が「相次ぐ」かどうかはS&L危機の教訓を活かして、迅速かつ適切な対策が必要だ。グローバル金融を揺さぶる問題だけに各国の金融当局の協調も欠かせない。
しかしそれは簡単ではないだろう。
既に大手証券会社の救済が始まっているし、銀行などが保有する不良資産が経営を圧迫し始めている。破綻する銀行も既に出ている。
第III章の最後では「米国の住宅市場の調整が続くなか、金融市場の混乱が収束するまでには、過去の金融危機と比べてもかなり長い時間を要する」と
いうのが本当のところだろう。日本経済や世界経済への影響は小さくないはずだ。
最近、産油国などのSWF(政府系投資機関)が存在感を高めているが、
第IV章の最後ではそのSWFについて「欧米の伝統的機関投資家とは異なるリスクプロファイルを持つ投資家が存在することは金融システム全体の
リスク耐性を強める上でも有益」といい、「既存のレジームにとっては脅威となり得ると同時に、国際金融システムの安定化に寄与する」と著者らは期待もしている。
○印象的な言葉
・我々に見えていない部分のほうが大きいのかも知れない
・過度に楽観的かつ安直な意思決定を行った利害関係者。貸出時の審査の甘さ。リスクの過小評価、モラルハザード。借り手への十分でない説明
・英国金融監督システムの不備:BOE、FSA、財務省に分かれている
・政府支援機関(GSE):ファニーメイ、フレディーマック。準公的な法人
・1980年代のS&L危機:預金金利の上限が規定されたS&L(貯蓄貸付組合)に対して、インフレによる市場金利の上昇と相まって資金調達コストが大きく上昇しS&Lは逆ざやにあえぐことになった。
預金も流出した。
・モーゲージ・バンカー:住宅ローンの貸し手。預金を受け入れない金融機関。
・金融機関はサブプライムローンをモーゲージ担保証券(MBS)として証券化し、機関投資家等に売却することで信用リスクから解放され、高い手数料収入を得た
・MBSは他の資産担保証券(ABS)などと一緒に債務担保証券(CDO)として再証券化されヘッジファンドや機関投資家に売却された。高格付けで相対的に高利回り。
トリプルBのMBSがトリプルAのCDOに化ける。見かけ上、ローリスク・ハイリターンという都合のよい金融商品。
・CDOの投資家が直接、根源的なリスクである住宅ローンのリスクを把握することは困難。CDOは市場取引は活発でない。市場価格も存在しない。
・サブプライムローン:国民の持ち家率向上に資すると賞賛されたが・・
・貸出基準の緩和を危惧した銀行監督当局が監視姿勢を強めた結果、金融機関がサブプライム層の住宅ローンの借り換えに応じなくなった
・逆オイルショック:オイルショックが省エネ、石油代替を招き、原油需要が急減し、原油価格が大幅に下落
・MBSなどは金融機関のバランスシートからは消滅し、市場を通じて不特定多数の投資家のバランスシートに収まっていった。
そのため債権者が借り手と金利減免など支払い条件の交渉する余地を小さくしている
・重層的な証券化により信用膨張が起こっていた
・証券化はリスクに対して柔軟に対処できる頑健なシステムと考えられてきた。証券化そのものは悪くないが、投資ファンド等がレバレッジ投資を行っているため
市場に逆風が吹くと損失が何倍にも拡大する
・格付け機関の格付け手法の問題:信用力の判定に用いる過去の統計に問題があった
・SIVはスポンサー銀行のバランスシートには連結されておらず、実態をつかめない。
SIVは高格付けを得るため日常的に格付け機関のモニタリングを受けていたため、格付け機関は状況を知る立場にあった。
・2000年代前半に世界的な超低金利政策が長期間にわたり取られた。世界的な金余り、過剰流動性をもたらした
・証券化市場の規模は近年拡大基調。発行額では世界の債券市場全体(国債除く)の半分弱
・日本にはファンドから見れば非効率、割安と映る企業も多い
・米系投資銀行にとってはサブプライムローンの証券化ビジネスは収益面でのドル箱で、最注力ビジネスの一つだった
・日本の銀行は世界に先駆けて2007年3月に新BIS規制を投入したことに伴い、サブプライム問題が深刻化する前に証券化商品の一部を売却したことが幸い
・世界の資本輸出(経常黒字)の内、アジアは世界の4割弱、中東は2割強を占める。
-目次-
1 サブプライム ―世界の金融市場が直面した2007年危機
2 発端 ―米国住宅市場問題の深層
3 加速 ―証券化市場のカラクリ
4 拡大 ―揺れるマネーフローと金融機関・投資家動向
5 対応 ―激変緩和と再発防止に向けた取り組み
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