読書メモ
・「株のからくり 」
(奥村 宏:著、平凡社新書 \760) : 2008.03.29
内容と感想:
著者は株式会社論、証券市場論の専門家である。記者時代から長く市場を見てきた経験から著書も多い。
「(現在の)株式は投資のための利潤証券、あるいは会社支配のための支配証券という面よりも、もっぱら値上がり益を狙う投機証券としての性格を濃くしている」と
いう指摘のとおり、政府の「貯蓄から投資へ」という政策が「投機」を促進させている。
世に金儲け主義がはびこるようになり、「金儲けの何が悪い」と開き直るファンドマネージャも世間を騒がせた。
これは一つは政府の証券取引に対する規制緩和策が道徳基準の低下を招いた結果によるものと言えよう。
そして本書でもところどころで例として取り上げられているライブドア事件。
異常な株式分割による株価操作、規制の網をくぐるようにニッポン放送株取得、粉飾決算。
あれはあれで日本の市場のありかたを見直すきっかけとなり、ある意味で貢献したともいえる。
本書では株価がどのように”作られるのか”、そのからくりに迫っている。またそれによりバブル発生と崩壊を説明していて興味深い。
投資家、投機家ともに勉強になるだろう。
また、前提となる株とは、株式会社とは、株主とは、という基本も学べる。日本の株式市場の歴史や現状把握もできるだろう。
第8章では次のように経済学者を批判しているのが面白い。
「株式投資でいかに儲けるか、ということが経済学者の研究するテーマなのだろうか?
もっとするべき研究テーマがたくさんあるのではないか?
そのような学者にノーベル経済学賞が与えられる。経済学者の堕落ではないか?」と。
経済学者も自ら投機し、投機を煽っているのだ。
日本のバブルのとき「株主が有限責任であるために、株式会社が無責任会社になっていた」との指摘は
最近の企業の不祥事の多い実情をみると、バブルとは無関係としても、企業のモラルの低下を感じざるを得ない。
経営者や株主が資本の範囲内だけの有限責任と安心できるのは株式会社のメリットだが、社会や従業員への責任があることを
忘れてはならないだろう。
本書は株価形成の仕組みを説くと同時に、あらためて株式会社のあり方を問い直している。
○印象的な言葉
・アメリカから輸入された証券投資論。日本の現実から遊離した空想の産物
・証券取引所は壮大なカジノ
・MM理論:配当は株価には関係ない。あえて配当しないことで自社株を吊り上げる高株価経営に利用された。
・東証における個人投資家の売買代金の9割がネット取引(2006/03)
・大学の投資教育で株式取引をして「儲け」を競い合うのは邪道。
・株式会社論が日本の大学にはない。株式会社のことがわからないまま、株式市場について講義している
・自分の洞察力はすぐれている、自分の相場の見通しは正しいと信じる人が居る限りバブルは発生する
・投機は投資家の将来への予想が異なるから生じる。情報が異なれば予想も異なる
・株式市場で売買されている株式はほとんどすべて投機。
・法律上は株主が株式会社の構成員、すなわち社員となる。従業員は被傭者にすぎない
・日経225先物取引の開始は大阪証券取引所の地盤沈下対策。不用意に先物取引を導入したため、先物の売りで日本のバブルは崩壊。
先物により需給コントロールが効かなくなる。
・米SEC(証券取引委員会)初代委員長はJFKの父。証券界でさんざん悪事を働いた。日本の証券取引等監視委員会はSECのような独立の機関でない。
・株式会社が必要とされたのは、有限責任であれば大量の資金を調達できるという発想から
・日本では株の時価発行増資が大量に行なわれてバブルになった。安定株主工作、法人買いなどにより株価が高騰したところで増資。をの調達資金で土地や株を買った。
株を買い、需給を逼迫させながら、一方では増資をして株式を発行、市場へ供給するという矛盾。それが爆発した。
・産業再生機構は株式会社だが、資金は政府保証付きで「官製ファンド」といわれ、事実上の政府機関。これが支援した企業は事実上倒産した会社。
・年金基金が所有している株式は最終的には従業員のもの。従業員が大株主になっているのと同じ。
・米国では商業銀行の株式所有は禁止されている。事業会社による所有もせいぜい数%。日本は銀行と事業会社による所有が圧倒的に多い。
・欧州では株式相互持合いは規制されている
・自社株買いに使う資金は本来は設備投資や研究開発に使うべき
・一株当たり純資産(PBR)を根拠に株価を説明するのは無理がある。それでもPBRが使われるのは煽るため。バブル時代に証明済み。
・株式は資本であると同時に商品である。
・粉飾決算は普通の投資家には判断できない。
・日本のバブルの当時、配当利回りは1%を割り、誰もそれを問題にしなかった。株価収益率(PER)も50倍を超え、欧米に比べ異常な割高だった。
・株価決定には厳密な科学など何もない(R.J.シラー)
・資本金一円の株式会社が許されている。これは無責任会社であることを認めるもの。
-目次-
第1章 株を買う
第2章 株の仕組み
第3章 株式会社とは何か
第4章 株主は誰か
第5章 株を買い占める
第6章 株価はこうして作られる
第7章 株価はこう動いた
第8章 株はどうなる
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