読書メモ

・「ビジネス脳を磨く
(小阪 裕司:著、日経プレミアシリーズ \850) : 2008.11.01

内容と感想:
 
著者は「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践法を研究・開発している方。
 本書のキーワードは「感性社会のフレーム」。これと対になるのが「工業社会のフレーム」。 ここで言うフレームとは思考の枠組み(基盤)のこと。ものごとに対する特定の見方とも言える。 工業社会のフレームは産業革命以降の大量生産・流通、大量消費の前時代の見方。 社会の変化が急激で大きい今のビジネス環境では前時代のやり方が通用しなくなっている。 もし物(やサービス)が売れなくなったというなら、それは「旧いフレームから世界を見ている可能性がある」と言うのが 著者の主張だ。感性が重要視される社会を感性社会と呼んでいる。
 こらからの新たな社会は「もはや一刻も止まっていることが許されない」「予想が立たない」社会であり、 それに対応した新たなパラダイムが必要とされている。感性社会にはゴールも完成もなく、「動きながら考える時代」となる。 「当たる確率の高い解答を自分なりにひねり出す」ことが求められる。
 著者はいわゆる「付加価値」を否定している。それは従来どおりの工業社会のフレームからの見方だと。 例えば流行のアニメのキャラクターを取り入れただけの商品などが付加価値を付けた商品にあたる。 しかし本書で挙げられている「ショッカー幹部パーティワインセット」など著者のような初期仮面ライダー世代にしか 通用しない商品がある。これは単なるキャラクター製品とは一緒にしてはいけないそうだ。 その世代には「懐かしさを喚起する」から、彼らには売れる。マーケットは小さいが、価値観が多様化した時代だからこそ そうしたものが買ってもらえる。ある層のお客さんの心をくすぐるために必要なのが感性だ。
 経済産業省の定義を引用して、これから求められるビジネスパーソンの能力が、従来の「こなす能力」から 「自らスピーディーに新しい価値を生み出す能力」に変わった、とある。顧客にとって新たな価値を創造することが 今、日本企業の課題、競争力のカギなのだ。 そこで重要となるのも感性。感性に科学的に迫ろうというのが感性工学であるが、それをビジネスに生かすために必要なのが情報。 情報を生かすも殺すも活用する側の発想力にかかっている。解法や事例の引き出しをたくさん持っているほうがアイデアが生まれやすくなる。 たくさん行動し経験し知恵を蓄積し、感性を磨いていく必要がある。
 第5章では自分で自分を磨く学習方法を、 第6章では自分を伸ばしてくれる「場」に参加して学ぶ方法について述べている。 脱工業社会に向けた発想の転換の必要性を学んだ。

○印象的な言葉
・日本感性工学会
・社会はある方向へ変化している、その変化は急激で大きい
・塾業界も競争が激化
・フレーム問題:人工知能の最大の壁の一つ
・リザルト・パラダイム:現実は動いているのにあたかも止まっているかのように扱う態度・見方。 結果だけを大切にする。インプットに対するアウトプットが線形的に予測可能だから。 ノルマ第一主義。再現性を重視。
・情報社会:圧倒的な情報量の流通
・感性:人が高次に(高いレベルで)情報を処理するメカニズム。英語に訳せない。国際会議では「KANSEI」と表記する
・今日の解は明日の解ではない。商品寿命がどんどん短くなっている。他社の解は自社の解ではない。 真似ではなく差異や「らしさ」があること
・老舗和菓子メーカー:自社独自の伝統の基本は守るが、その味はずっと同じではない。 変わるべきものと、変わってはいけないもの。
・プロセスパラダイム:リザルト・パラダイムに対抗する概念。動的なものを動的のままに扱う態度・見方。動的な過程が大切。 動いているものをそのままに自らも動きながら扱う。
・木も見て森も見る
・データを整理して意味のある形にまとめ、コンテクストを伝えることで情報となる。歴史性、時間的蓄積性
・感性情報:五感を通じて入ってくる情報すべてが感性に訴える情報。すべてのビジネスは情報を扱う産業。感性産業
・インターネットはただの新しいツールに過ぎない。インターネットショップを新しいビジネスと考えるのは誤り。
・作り手の手間、こだわり、込めた思い、思いやりなどに共感。感動。物語性。売り手と買い手との絆。
・花見は日本特有の文化
・誰もやらなかったことをやる
・変えてはいけない軸:仕事の根っこ。道、信念、哲学、ミッション、使命。ライフワーク。伝えたいもの、やりたいこと
・顧客の期待を上回る
・異常値から飛躍の種を見つける
・外化:情報をアウトプットすること
・経験からしか得られない知恵。経験量、行動量がものをいう
・知量が増えていくと、あるとき劇的変化の臨界点に達したように突然、「匠」となる。見えなかったものが見える。
・実践コミュニティ:私塾、寺子屋、カフェのような場。議論を戦わせ、わいわいやっている。異分野、異質な人たちが集う。 情報や意見を交換。
・創発的協働の場:相互作用から新しいものが生まれる。その場にいることが学習。
・ピア・ラーニング:ピア(仲間)と協力して学ぶ。学習の過程を共有
・対話により他者を通して自分を見直す。気づき。見えていなかったことが見える。頭が整理される
・楽しいからやる仕事。仕事が遊びになる。

-目次-
プロローグ
第一章 ナスの細胞に確かに水があるけれど ―「フレーム」を知る
第二章 こぶとりじいさんのこぶはもらわない ―プロセスに目を向ける
第三章 価格ではない。付加価値でもない ―感性情報をデザインする
第四章 花見はなぜ飽きないのか ―人の感性は進化する
第五章 誰の目の前にもリンゴは落ちている ―現象・データから何を読み取るか
第六章 パリにも、江戸にも、きっとあった ―自分を伸ばしてくれる場
エピローグ