読書メモ

・「環境保護運動はどこが間違っているのか?
(槌田敦:著、宝島社新書 \720) : 2008.10.13

内容と感想:
 
「CO2」削減だけが目的となっている感のある近年の環境保護運動に異を唱えた本。 全てが間違っているわけではないが意味のない、あるいは逆効果な保護活動もあることが本書を読むと分かる。 著者は同じタイトルの本を1992年に発行しているが、当時と状況は変わってきており、増補版を1999年に出している。 それが新書版として出たのが本書。
 牛乳パックのリサイクルはコスト的に合わず、燃やして電力にしたほうが有効だとか、 紙パックをなくして、牛乳瓶やビール瓶の回収システムに戻したほうがいいとか、 再生紙を作るときにも石油を消費し、化学薬品を使って環境を汚染しているとか、矛盾だらけの環境保護運動を見直すきっかけになるだろう。 リサイクルできるもので採算の合うものは既に企業がリサイクルをしていると言い、 善意の気持ちでボランティアでやっていたリサイクル活動が民間回収業者を駆逐したり、 そのため回収されなくなってしまった廃物があることも我々は知るべきだ。
 キーワードは「エントロピー」。 何かが変化したり、活動したりするとエントロピーが発生する。これは汚染が発生すると言い換えてよい。 そのエントロピーは決して消すことができない。増える一方なのだ。 その増大一方のエントロピーを地球の自然の循環が吸収、自浄し資源に変えてくれている。 問題なのは自然の循環が可能な場所以外のところに廃物を捨てていること、あるいは循環不能なものを使い廃棄していることだ。
 第八章では「石油に勝るエネルギーはない」、 その石油を使って原子力や太陽光発電など効率の悪いエネルギーを作ろうとしている、との指摘。 我々は夢のエネルギーを得ようと無駄な努力をしていることになるが、石油や天然ガスが枯渇する日を出来るだけ節約しながら待つしかないのだろうか? 人間の糞尿に対しては科学技術を使うことで肥料にリサイクルできるはずで、これは資源として有効だと著者は期待している。
 本書は結局、環境問題は個人の倫理や努力だけでは解決しないことを指摘している。 第九章ではリサイクル運動の流れを中央政治に向けていくべきであると言い、コストが見合わなくてリサイクルできない問題は政治的に解決していくしかないだろうと言っている。 そもそも人間の肥大化する欲望が環境問題を引き起こしている。だからお金で欲望をコントロールする。税金で欲望を抑えるのだ。 それによって経済は減速するかも知れないが、問題を解決するには仕方がないと覚悟する必要がある。 そういう流れにもっていく政治力が我々市民にも必要なのだ。

○印象的な言葉
・江戸時代は完全リサイクル社会
・遺伝子を侵す塩素系毒物
・プルトニウムは海に捨てていい
・地球温暖化をアピールする原子力産業。斜陽化した原子力産業を支援するフランス。石油がいっこうに枯渇せず、原子力発電コストが相対的に高くなっている。
・温暖化で海面上昇するという嘘。海水温度が上がれば膨張するより蒸発し、それにより水温が下がる。温度が上がるのは表層だけ。
・本当の問題は異常気象。不作や飢餓の原因。お金を持つ国が世界中の食糧を買いあさると貧しい国の飢饉を加速する。
・太陽光発電は石油、補助金の無駄遣い。
・有料化でゴミ問題が解決
・焼却はゴミを自然に返すのに有効
・ダムを廃止し、等高線状の溝にする
・生ゴミや糞尿は自然に返す
・有機物と塩素を使うとダイオキシンができる。塩素化合物。塩素はすぐに有機物にくっつく。
・紙の値段は安すぎる。原料に関税をかけて紙の値段を上げ、消費量を減らしたほうがいい。古紙の値段も上げるべき
・全ての工業はリサイクルをやっている。様々な廃物を再利用してきた。儲かるリサイクルは既に企業がやっている。 今のリサイクル運動は企業もできないリサイクルを無理矢理やろうとしている。
・脱硫装置付きの最新型の焼却炉で全てのゴミを一括して燃やしてしまう。焼却は埋め立て量の減量に有効
・ゴミ処理における温度調整でダイオキシンの量を減らせる
・塩化ビニル樹脂生産は止めるべき。酢酸ビニルなどで代替可能
・洗剤のトリクロロエタンが水道水中の塩素と反応してトリハロメタンという発癌物質になる
・塩素は苛性ソーダを作るときにできる副産物
・水道の減菌は塩素でする必要はない。オゾンでも可能
・海水の中にはもともとウランが含まれている
・特定の食品ばかり食べていて、たまたまそれに毒が含まれていた場合、一挙にその毒でやられる可能性がある。いろんなものを食べていれば毒は薄まる
・有機農法といっても土や水が汚染されているかも知れない
・絶対安全な食品などない。一般人がそれを識別するのは不可能
・自家中毒:自分で自分の中に毒を造ってしまう
・最近の農薬は農作物を船の倉庫などに何日間か置いておくために使われている
・1970年代、気象学者たちは地球寒冷化といっていた。今は温暖化と言わないと研究費がもらえなくなっている
・大気中の炭酸ガスが増えたほうが植物がよく育つ
・バイオ燃料の原料となる農作物の生産過程で多くの石油が使われる。食糧としての農産物が減り価格が高騰。
・廃材からの燃料生成も採算がとれない。そこには補助金という名の税金が投入されている
・太陽光発電の実効的な変換効率は1%に満たない。植物の光合成と同じレベル
・フロンはオゾンホールの原因ではない
・交通事故もひとつの環境問題
・世代間倫理。子供・未来に対する責任。祖先が残してくれたものを借りているだけに過ぎない
・家電や自動車をレンタル制にする。不法廃棄を減らせる。所有物にしたい人には所有税
・生ゴミは堆肥にするより鶏などの動物の食料にする。そこで肉や糞を得られる

-目次-
みんながエコロジカルな生活をすれば、ほんとうに地球は救えるのでしょうか?
牛乳パックはゴミ焼却場で燃やそう!
リサイクルも環境を汚染する!
自然を豊かにする、本物のリサイクルはどこにあるのか?
分別収集運動でゴミの捨て場が枯渇する!
恐るべき毒物・有機塩素と放射能をどうするか?
自然食だけでは偏食の害でからだを壊す!
炭酸ガスによる地球温暖化説には政治がらみのインチキがある!
どんな科学技術でもエネルギー問題は解決できない!
エコロジー運動は個人の倫理から社会の倫理へ
環境問題に「毒物等物品税」を導入する
未来の世代への責任を果たすために
リサイクルも経済原則の中で行うべきです
誇るべき「びん回収システム」を壊してはなりません
分別は資源を使う前にするべきです
家電製品の廃棄問題にはレンタル制が有効です
洪水も砂漠化も防げます
生ゴミはそのまま自然に返すのが正しい処理法です
自然のサイクルに返せば廃棄物処分場は不要です