読書メモ
・「「人望」の研究」
(小和田 哲男:著、ちくま新書 \700) : 2008.11.09
内容と感想:
「人望」について歴史上の人物を振り返ることで本質に迫った本。
「人望」は人気ともカリスマとも違うようだ。
単なるリーダーシップとも違い、「統率力とや抱擁力なども含め、その人の魅力全般」をさすこともある。
著者はリーダーシップは人望の一要件だと考えている(第二章)。
組織のリーダーなら「あの人ならついていける」、「あの人のためなら頑張りたい」と思わせる何かがなければ
人を動かすことが出来ない。これも人望だろう。
現代の感覚だと部下に「慕われる」ような人には人望があると思われる。
本書では戦国武将などを多く取り上げているが、歴史上の人物を参考にする場合に注意が必要なのは
それが勝者側から見た「作り上げられた英雄像」かも知れないということ。
その点については「あとがき」でも触れられていて、人物評価の難しいところである。
戦国時代などでは武将の「人望」には闘争力の強弱、戦上手が大きな要件になった、とある。
弱肉強食で現代よりも生命の不安も大きかった時代には武力も大きなウエイトを占めたことだろう。
「マズローの欲求段階説」を使うと、当時の人々が求めるものとしては、より低いレベルの「生理的欲求」や「安全の欲求」などが
大きかったはずで、現代よりもより原始的欲求に近い欲求に基づいた判断をしたのではないだろうか。
単に技術的な、あるいは物量的な武力だけでなく、謀略を駆使した知力も重要だっただろう。
しかし武力や知力を活かすにも家臣以下の心を動かす何かが根底にはあったはずだ。
戦国大名には家臣たちに押し上げられて(担がれて)トップの座についている者が多かったという。
彼らには押し上げられるだけの人望があったことの証にはなる。
本書では人望として気配り、心遣いなど様々な要件を挙げているが、物質的に豊かになって欲求が変化してきた現代の人々が
リーダーに求めるものも昔とは違ってきているはずだ。
そこで第六章では現代のリーダーに特に必要なものを考えている。著者は以下のようなものが求められると言っている。
・明確な目標設定(将来構想力)
・冒険心と洞察力
・失敗を恐れないチャレンジ精神
これらの要件は昔のリーダーも持つ普遍的なものだと思われる。
さて、人望は先天的なものか、後天的なものか。本書を読むと努力すれば身に付くように思える。
最初は人望があった人も、いつしか人望を失った人も多いから、その逆もあるはずだ。
魅力を獲得し、維持し続けるには努力し続け、驕らず、謙虚さを失わないことだろう。
○印象的な言葉
・人々をその気にさせる能力
・教養、歌心、情。生きた知識、応用できる能力
・頭の柔軟さ、新しい知識や技術を吸収
・リーダーシップと厳しさ、決断力
・自ら先頭に立つ、率先垂範
・褒め上手と優しさ、包容力、愛嬌
・競争心と組織の活性化
・気前のよさ、恩賞・褒美
・毅然とした態度
・気配り、心遣い
・責任
・感動を与え、人の心をつかむ、求心力
・慈悲、思いやり。謙虚さ、誠意、誠実さ。人の痛みを知る。人の気持ちを理解する
・命を投げ出すこともできる度量
・卑弥呼が王に祭り上げられることで戦乱に終止符が打たれ、女王による新たな倭国の政治的統治が進められた
・毛利元就の傘連判状:自分もあくまで国人一揆の一人であることを強調
・信長には桶狭間合戦時は人望があったが、本能寺の変のあたりでは人望を失っていた
・輪の文化、和の文化、一座同心
・過去の過ちは過ちとして許す。細かいこと、過去にはこだわらない
・大局的に総合的な判断を下すところで人材は育つ
・手柄を独り占めにしない。
・上官も部下も同じ一人の人間である
・人間に屑はいない。適材適所
・泰然自若、冷静・沈着
・諫言を受け入れる度量
・ざっくばらん、さばけた性格
・中間管理職を通さず直に殿様にものが言えるシステム
・松下村塾:一人一人の個性に合わせた教育。夢を語り、感動を与えた。希望をもった生き方を語った
・試す人になれ(本田宗一郎)
-目次-
第1章 「人望」は人気ともカリスマともちがう
第2章 「人望」の要件は何か
第3章 人を動かす「人望」とは
第4章 なぜこの人に「人望」がないのか
第5章 「人望」は地位や肩書きではない
第6章 現代人が「人望」から学ぶもの
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