読書メモ

・「自民党の終焉 〜民主党が政権をとる日
(森田実:著、角川SSC新書 \740) : 2008.06.01

内容と感想:
 
著者はご存知のように政治評論家として知られる方。
 「まえがき」にあるように著者は「自民党の終焉の時が近づいている」という。「自民党にはもはや復活する倫理的力も、知的な力も、人的パワーも残っていない」と断じている。 自民党には2世、3世議員が増え、国民を上から見下ろすタイプの謙虚さに欠けた傲慢で不真面目な政治家が増えた。タイトルはそんなことろから来ている。
 ご存知の通り先の参院選で民主党が勝利したことから国会に「ねじれ」が生じている。来たる次の衆院選が2大政党の真の決戦場となる。 国民の投票行動で政権が決まる。これが日本が真の民主主義国になる瞬間である。それはこれまで実質的には民主主義国家ではなかったことを意味する。著者はそれを期待している。 サブタイトルにあるようにもし政権交代が実現すれば著者の言うように「古い腐敗した官僚主義政治の支配から日本国民は解放される。日本国民の新たなエネルギーが解き放たれる。 新しい未来に向かって前進できる」ことになり、多くの国民が希望を持てるようになるかも知れない。
 著者の小泉政権批判は激しい。 小泉構造改革の結果、日本国民が受けた被害は深刻であり、社会は荒廃し、希望なき社会に転落したという。 その小泉政権に加担した政治家、官僚、財界、マスコミ、学界、宗教団体指導者は責任を取らなければならない、とも。
 一方、民主党の小沢マニフェストには迫力、訴える力がある、魂がこもっている、と絶賛する。 民主党は未熟だとか、政権担当能力がない、とかいう声もあるが、ここは「駄目もと」で一度任せてみてはどうか? 今の自公連立政権よりは「まだまし」かも知れない。国民はそれくらいの度量と覚悟を見せねばならない。
 著者は中道保守政治への回帰が始まっているという。中道保守主義は今や自民党にはなく、民主党に移ったのだそうだ。 つまりいつの間にか民主党は革新ではなく(私の勝手な思い込みだったのかも知れない)、自民党が改革の党になっていた。 その行き過ぎた改革に国民はNOと言っているのだが、政権交代で結局、昔ながらの保守政治に戻るのかと思うと退行しているようで抵抗もある。 どんな改革が良いのか分からないし、どうして欲しいとも言えないが、中道保守であろうと何であろうと、兎に角「まともな政治」をやってもらえればいい。
 今の政府の暴走を止めることは国民が目覚めれば可能という。アメリカ民主党のオバマ氏は「CHANGE」をキャッチフレーズに大統領候補にまで登り詰めた。 日本国民にも「CHANGE」の覚悟があれば民主党を後押しできるだろう。「ねじれ国会」のおかげで不真面目で緊張感のなかった政治は変わりつつある。 民主党の実力が分からない以上、政権交代がよいのかどうか分からない。今の政治不信が払拭されるのであれば、政権交代よりも「まともな政治家」を 選ぶほうが大事だ。
 「自公にとってはもはや民主党を分裂させる以外の方策はない」というが、それも無理だろうと分析している。 政権交代の条件は揃いつつあるようだ。いよいよその日は近づいた。

○印象的な言葉
・地方は怒っている、地方の叛乱。地方経済の劣悪化
・民主党:国民の生活が第一。中道保守主義
・「まともな政治」を求める
・外交なき国家、従米国家、アジアでの孤立
・閨閥支配、政財官の癒着。鉄の団結。階級社会化、差別社会化の進行。
・マスコミの思い上がりと不見識
・集団が敗北したときに指導者が行なうべきこと:事実を認める、原因を冷静に分析、再建の方針を立てる、その上で責任を取る
・政権交代の条件:既存の政治権力支配に多数の国民が不満を持ち、政権に退場を望むこと、政権に国民の支持をつなぎとめる力と政策がなくなること。 代わりうる新しい政治勢力の成長。
・小泉構造改革:自由競争と自己責任。アメリカ型の自分さえよければ社会。弱者と中小零細企業と地方の切捨て。富と人を東京に一極集中させた。 ごく少数の強者に利益をもたらし、大多数の国民を貧困化させた。総中流社会は解体。格差、差別が拡大。生活の安定、希望も奪われた。
・平成版大政翼賛体制:自公連立政権を支えてきた東京エリート。巨大宗教団体、中央官庁のリーダー群、学界、マスコミ、日経連・経済同友会、巨大自治体の指導層
・巨大マスコミが政治権力と一体化、国民は信用しなくなった。御用マスコミ。マスコミの道義的頽廃は深刻
・人並み外れた強さと高い能力をもつ者は、その強さと能力を、恵まれざる人々の幸福のために使うべき。
・行き過ぎた市場原理主義
・自公政権を支える大多数の国会議員は従順。ロボットのようにただ上意に従うのみ
・生きることの目的は生きることそのもの(ゲーテ)
・誤解を生まない最良の方法は公開。事実にもとづかない極端な邪推が世論を動かすこともある
・参議院は非政党化すべし。政党の対立抗争の舞台になってはならない。
・郵政民営化の背後には米国保険業界の日本への進出の狙いがあった
・ロン(レーガン)・ヤス(中曽根)関係を通じて、日本の貯蓄が米国の財政赤字補填のために供給された。ジャパンマネーがアメリカ政府と大企業を助けた。
・人間尊重主義:平和と国民生活の安定を重視、共生をめざす
・イデオロギー過剰の政治は国民を不幸せにする。それは政治指導者の自己満足に終わる
・保守主義:人間の理性の限界を認識する(懐疑主義的人間観)。歴史の風雪に耐えた具体的な伝統や慣習を重んずる
・全ての母親に悲しい思いをさせてはならない
・(小泉)経済改革路線の果実から疎外されてきた人々へ目を向けない」自公政権に有権者は再び「NO」を突きつけねばならない。

-目次-
日本政治激動の予兆 ―政権交代の条件が整った
「自公」から「自公VS民主」時代へ ―「二大政党制への道が開いた」
否定された小泉構造改革路線
小泉政治の“興隆”と“破綻”を振り返る
小沢と安倍、どちらの訴えが国民に届いたのか
与野党の財源論争を検証する!
民主党・国民新党の共闘で小泉構造改革路線に決別を!
外交なき国の外交論争 ―従米国家からの脱却
政治をここまでダメにした世襲議員たち ―自民党長期政権の弊害
民主主義を忘れた自公時代錯誤内閣に起死回生の妙薬はない!
自公支配から脱却した参議院が本来の使命を取り戻す
民主党政権の可能性はホンモノか?
命運尽きたり!自公連立政権
小沢民主党の「中道保守主義」を解き明かす
憲法第9条改正をめぐる政治情勢の変化
従軍慰安婦発言で歴史認識の甘さを露呈した安倍前首相
「民主党に政権を任せられるのか?」を検証す
2007年8月15日、戦後62年を振り返りつつ、いまを考える