読書メモ

・「時局を洞察する
(北尾吉孝:著、経済界 \1,429) : 2008.11.03

内容と感想:
 
著者がCEOを務めるSBIホールディングスが提供中のネット会員向けコミュニティサービスで 著者が書いているブログの単行本化。2007年4月からの連載記事をテーマごとに組み直して再構成している。 第1部の第1章と2章では日本や世界の経済などについて、第3章では企業と経営について、第4章は趣味や個人的な話題について語っている。 第2部ではソフトバンク孫正義氏との2007年9月の対談、日本のM&Aの先駆者・佐山展生氏との同年12月の対談を掲載。
 「未来を考えるためのヒント」になればいいと「はじめに」で書かれているように、 経営者である著者の考えを知ることで時局を見極め、変化に対応していくための参考になることだろう。 孫氏との対談では経営者の志について考えさせられ、佐山氏との対談では日本におけるM&Aの状況について知ることができた。
 第1部の第2章では2005年に日本の所得収支(海外から得た配当や金利)が貿易収支を上回ったことから、日本の「製造業を主産業とした貿易立国が終わった」と述べている。 これは日本が投資立国になってきたことを意味し、また巨大な「海外純資産を持つ債権大国」になったことも意味していると言っている。 日本の製造業も製造現場はどんどん海外にシフトし、また新興国メーカーの台頭もあり、今後輸出の伸びは期待しにくいだろう。 国内生産が減れば資材の輸入なども減るから、少子高齢化による人口減少もあって、ますます貿易量は減っていくだろう。 では日本の製造業は駄目になるのか?投資だけで生き抜けるのか?新興国に追いつかれ、おいていかれないためにはどうすべきか? 貿易立国はあきらめても、技術立国はあきらめてはいけない。
 中国では北京大学のように産学協同ビジネスが「世界的に見て、最もうまくいっている」と著者が言うように、 日本も中国を見習えばいい。シリコンバレーにはスタンフォードという産学一体モデルもある。産学の連携を強化する必要がある。しかし若者の理系離れやそもそも学生が勉強しないこともあり、 日本の大学へ期待してよいのか不安もある。 中国の共産党指導者たちには理工系出身者が多く、海外留学後に帰国して成功した若い経営者も多いと聞く。 それが大学生たちのよいモデルとなり、勉学への動機付けになっているらしい。そこそこ豊かになってしまった日本ではまず教育の現場から変えないといけないだろう。 そして技術者の待遇をよくし、国を支える者として尊敬されるような社会にしていく必要がある。

○印象的な言葉
・景気や経済成長率などがマクロ経済、産業などがセミマクロ。
・アメリカは思ったほどインターナショナルではない
・超低金利政策で日本の円は不当に安くなったのは日銀の責任。本来なら下がるべき輸入価格が下がらなかった
・金融商品取引法(2007年施行):現場では多大なコストや手間がかかっている
・私有財産制度の確立していない中国に100%安心して投資できない
・リスクを取った投資に対する課税を他の課税と比較して軽減するのが世界的な常識
・スイスの税制には贈与税や相続税のような課税はない。世界中から集まる資金に対して課税。一定額以上納税すればいくら利益を上げてもそれ以上課税されないため お金が集まる。そのためスイスは物価が高くても国民の生活水準が高い。
・英国のエンジェル制度では投資金額の20%を所得から控除できるが、日本では株式譲渡益からの控除となる。
・J-SOX法のために膨大な費用が発生するためベンチャー企業を公開ストップに追い込んでいる
・子供を社会全体でしつけ、育てていく
・地方銀行再編の可能性。預金残高に対して貸し出し残高が少なすぎる
・数字をほとんど見ないで、経営者の人物と経営哲学、ビジョンと戦略を評価して投資するファンドがある
・中国・ロシアとの関係:日本海側の地域が今後の貿易拠点として重要になる
・30年間伸び続けられるような企業:成功体験に胡坐をかくことなく、変化に対応しながら、自己変革、自己進化までてきる企業
・成功の三要素:天の時、地の利、人の和
・利の元は義なり。事業の基は徳なり
・恒心:常に定まった、ぶれない正しい心
・美術品はいい物ほど贋物が多い。本物の作品からは作者の熱意・情熱・品性が表れている
・孫子の兵法「戦わずして勝つ」:戦いが始まったときには戦いは終わっていないとけない。勝つべくして勝つ
・強者の立場でとる戦略と弱者の時にとる戦略は真逆
・夢:個人の願い事をはるかに超えた、人々が共通して持っている願い事の実現
・「企業価値とは」というと神学論争になってしまう。関わりのある殆どの人たちにとっての企業価値。 顧客価値、事業価値(株主にとっての価値)、人材価値の3つの総和。
・企業の成長はトップの器の大きさに依存
・日本では多くの企業が同じ業種にいる。それでもやっていけているから。海外からの参入が増えるとやっていけなくなる。
・カテゴリーキラー

-目次-
第1部 折々の思索
 第1章 現代の課題を斬る
 第2章 パワーアップせよ日本経済
 第3章 起業と企業
 第4章 日々、思考を研ぐ
第2部 対談・企業と経営者
 第1章 孫正義氏と語る「経営者と志」
 第2章 佐山展生氏と語る「日本経済とM&A」