読書メモ

・「「ガソリン」本当の値段 〜石油高騰から始まる“食の危機”
岩間 剛一:著、アスキー新書 \724) : 2008.08.02

内容と感想:
 
2003年のイラク戦争以降、ガソリン価格が高騰を続けている。 ここ最近は毎月のように値上げ。この8月にも再値上げで、月末になると少しでも安いうちに給油しておこうという ドライバーが給油所に殺到する。
 本書は今、最もホットで深刻な話題である原油価格高騰を取り上げている。最大の関心事であるだけに興味を持って読めるし、勉強になる。 ガソリン価格上昇の要因として次の4つを挙げている。
・中東情勢の混迷、地政学リスク
・中国、インドなど大国の消費拡大
・米国最大油田地帯の瓦解(パイプラインの腐食と原油漏れで生産停止)
・NY原油先物市場への投機資金の流入

 自動車社会の米国ではガソリン高騰が国民生活を直撃している、というがそれは日本も同じ。 私の住んでいる地方では車がないと生活できないし仕事にならない。給料は上がらないから家計には深刻である。
 本書が書かれた2007年6月時点で1バレル70ドル。その内、「地政学リスク分が15ドル、米国の国内事情による投機プレミアムが15ドルで、本来の価格はそれらを 除く40ドル程度」と著者は見ている。 しかし「地政学リスクも米国の精製能力不足問題も短期的に解決するのが困難で、原油価格は今後も長期的に高値で推移する」と予測している。 いまや70ドルどころか一時はその倍の140ドルにも達する始末。もうこれは「原油相場が金融市場化」していることを物語っている。 「年金基金や投資信託が原油を投資対象とした資産運用が長期的に見て儲かると判断」したため資金の流入が続いているようだ。 それにしてもさすがにこれはバブルだろうと、私は思うのだが。
 しかし、もし「イランと米国が核開発計画で合意し、ウラン濃縮を停止したら原油は急落する可能性」もあるという。 そのため「産油国は暴落を恐れて新規の投資をためらっている」。これは供給側がいまの高騰の原因を需給の逼迫と認識していないことを意味する。 また著者は、現在の原油高騰は「市場の失敗」の側面が強いと見ている。 「歪んだ原油市場メカニズムが原因であり、それを改善するためには市場参加者に正確な原油需給情報を提供する」ことが必要だと提言する。 つまり需給双方のもつ情報の非対称性が様々な憶測を呼び、価格を高騰させ、乱高下させているのだ。
 さて、地球温暖化対策のためにバイオエタノール利用が推進されているが、これが更に原油高騰だけでなく、 バイオエタノールの原料となる穀物全体の価格も上昇させている。 世界レベルで食料とエネルギーの争奪戦が始まっている。 特に資源小国・日本にはますますエネルギー確保のための資源外交が重要になってきている。そのためにも日本の技術を活用することを提言している。
 エネルギー資源を保有する国では資源ナショナリズムが台頭し、一時は海外資本や私企業に牛耳られてきた権益を国が強引に奪い返し国営化する動きもある。 唯一の超大国・米国の力が衰え始め、世界各国が国益のために動き出している。今後、世界は不安定さを増すのだろうか?特にロシアの動きは要注意だ。

○印象的な言葉
・二度の石油危機以降、1980年代後半から90年代にかけて1バレル10ドルまで低迷。価格の暴騰により需要が激減した。 これが石炭、天然ガス、原子力などへのエネルギー転換を推進のきっかけとなった。
・イランの核開発、ナイジェリアの反政府運動、パレスチナの紛争激化
・エネルギー安全保障は国家百年の計
・バイオエタノール=エコは誤り。製造コストはガソリンのそれよりも2〜3倍。製造プロセスでも大量のエネルギーが消費されている
・メタンハイドレートの可能性。天然ガスの主成分メタンCH4が氷の結晶に閉じ込められシャーベット状になっている。実用化には技術的難問と経済性のクリアが必要
・アジアにおけるエネルギー協力が日本のエネルギー安全保障に。日本の世界最先端のモノづくり技術、世界一進んだ省エネルギー技術、新エネルギー技術の供与
・原油の生成はいまだに謎に包まれている。有機体説が有力。炭化水素(化学式 CmHn)の一種
・天然ガスは炭素と水素の結合比率が異なるため常温・常圧でも気体となる
・中東産油国の陸上油田の生産コストは1バレル当たり2〜3ドル
・2006年末時点で油田の寿命を示す可採年数は40年。石油危機のあった70年代には原油はあと30年と予測されていた。今後まだまだ油田が発見される可能性はある
・ガソリンは一番軽い揮発油、無色透明。灯油などと混同しないようオレンジに着色している
・ロシア:天然ガス生産量で世界1位、原油生産量は世界2位。膨大なオイルマネーを手中にし、IMFへの借入金の返済も完了。資源は国威発揚の有力な武器
・米国は原油の6割を輸入。イラン革命以降、経済制裁を続け、イランから輸入していない。
・イラク:原油埋蔵量で世界2位。米軍が撤退した場合、反体制行為に拍車がかかり、国家分裂の可能性も
・国際原油価格形成のメカニズム:米国が発信源。WTI原油が世界の先物価格のベンチマーク。WTIの生産量は世界の日量のわずか0.4%。国際的には流通していない。 WTIが取引されるNYMEXは旧態依然とした取引を続けており、利便性や収益機会の増加を狙う投機筋や機関投資家は原油先物取引をロンドン市場(ICE)へシフト。
・ベネズエラ:チャベス大統領。石油資源を国有化。埋蔵量は世界最大のサウジアラビアにも匹敵。21世紀型反米社会主義
・グレートゲーム:帝政ロシアと大英帝国が中央アジアの支配権を巡って展開した領土争奪戦
・中国:原油の海外依存度は4割を超える。スーダンを経済支援し、石油資源確保に動く。原油輸入の3分の1をアフリカに依存。
・埋蔵される原油の内、地上に汲み上げることができる量が回収率。これまで10〜20%だったが技術の進歩で40〜50%へ向上
・中東産油国から日本への原油輸送は30万トン級の大型タンカーで片道21日程度

-目次-
第1章 原油価格はいかにして上昇したのか
第2章 地政学リスクと高まる資源ナショナリズム
第3章 原油の市況商品化と市場のねじれ
第4章 資源小国ニッポンの未来は暗い
第5章 「日の丸資源」確保を急げ