読書メモ

・「ゲームニクスとは何か ―日本発、世界基準のものづくり法則
(サイトウ・アキヒロ :著、幻冬舎新書  \740) : 2008.12.21

内容と感想:
 
「ゲームニクス理論」とはテレビゲームを科学し、ゲームの「人を夢中にさせる」ノウハウを理論体系化したもの。 その日本発のノウハウは、今や世界に通用する共通言語となったという。 本書では日本のお家芸ともいえるテレビゲームについて、その操作性やユーザ・インターフェースに関する優れたノウハウを 惜しげもなく書き記している。 コアなゲーマーだけでなくビジネスマンにも面白く読めることだろう。
 それはゲーム作りの基本技術であり、クリエーターのセンスに左右されない普遍的な事実なのだという。 著者はこの理論はゲーム以外のどんなものにも応用できると考えている。
 テレビゲームにはマニュアルを見なくても始められること、遊んでいるうちにハマって上手くなっていく、という2つの不文律がある、という。 使いやすさ、人に優しい、シンプル、分かりやすさ、という視点がゲーム以外の製造業、モノづくりを主産業に据える日本から失われつつある。 「日本のものづくりは、いつからかテクノロジー優先になってしまい、最終的にそれを使う消費者を大切にする精神を忘れてしまった」と指摘する。 その結果が機能追加のたびにボタンが増えていく家電のリモコンであったり、分厚いマニュアルだったりする。 メーカーの押し付けがユーザのストレスさえ生んでいる。実際、使われない機能が多いことは容易に想像できる。
 つまり、多機能・多様化する製品・サービスの行き着く先には誰も使えないものになってしまう可能性がある。 旧来の大量生産型の製造業では日本のモノづくり企業は生き残れないだろう。 かといって多機能だけに突っ走って、ケータイのように国内だけでガラパゴス化しても市場は限られてしまう。 テレビゲームにならった「使いやすい、分かりやすい」商品やサービスを世界に発信していくべきだと著者は考えている。 ゲームニクスを日本の新たなモノづくり戦略の一つに加えるべきであろう。
 現在、製造業の現場で中心を担う人たちはテレビゲームを始めた世代以降の人々なのではないだろうか。 だから本書の内容は理解できるはずであり、多くのヒントを得られるはずだ。
 第二章ではゲームニクスの4つの原則を掲げている。 その一つ、第三原則の「はまる演出」は職場でのOJTにも応用可能だと感じた。いかに効果的に人材を育成するかについても ゲームニクスに学ぶ点はあると思う。

○印象的な言葉
・夢中、熱中、集中、のめりこむ、継続
・直感的・本能的アプローチ、説明不要、迷わない。生理的、心理学的なアプローチ
・ユーザを大切にする
・はまる演出、段階的な学習効果。難易度、成長する達成感
・使い込める、飽きさせない
・できたらご褒美
・挑戦してみようと思わせる、発見、やる気、わくわく感、目的意識
・心地よい操作性、快適性
・ゲーム機が教育ソフトになる、言葉にできない教師の技
・リズムとテンポ、メリハリ、アクセント、変化。緊張と弛緩
・理想の授業はRPGのストーリー展開、インタラクティブ性
・授業の活性化のヒントはゲーマーコミュニティにある
・ユニバーサルデザインとの共通性
・日本人の繊細な感性、気配り、丁寧な作りこみ、手間隙をかける
・複数の機器や操作を有機的に行なえる。操作性の統一
・もてなしの文化、和の心
・乗り越えたいと思わせるストレスと快感のバランス
・機能が増えると製品の特性が見えづらくなる
・子供は最も優秀で容赦がない、時には残酷なほどに正直な消費者
・いつでも最初に戻れる安心感
・トロイの木馬戦略:ある機械を普及させ、インフラとして浸透したところで異なるサービスを展開。当初とは全く異なる価値お生み出す
・iPodが優れていたのは本体ではなく、ソフトのiTunes。その操作を徹底的に自動化し、ユーザのストレスを排除。
・中途半波に複雑にするくらいならシンプルなままがいい
・ユーザと機器の間で情報がスムーズに流れることが快適さを生む
・PCは入力デバイスが依然としてマウスとキーボードという2Dスタイルに留まる
・エデュテインメント:エデュケーション+エンターテインメント
・クエスト:ゲームでいう課題。クエスチョン
・リハビリテインメント:リハビリ+エンターテインメント
・ロングヒット商品の秘密もゲームニクスで説明可能
・ブルーオーシャン戦略:同業他社との競争とは無縁の市場を創出し、高付加価値製品やサービスを低コストで提供して、最大利潤を得る。市場独占、先行者利益。
・iPhone:あらゆる製品・サービスの汎用的な管理・制御・決済手段として活用する戦略
・さりげないサポート
・制限による工夫:俳句、茶室、浮世絵

-目次-
はじめに ゲームニクスとは何か
第1章 なぜ、子供は食事を忘れるほどゲームに夢中になるのか?
第2章 ゲームニクス理論 ―総論
第3章 “任天堂一人勝ち”から分かること
第4章 iPod、グーグル、ミクシィ…本当のヒットの理由は?
第5章 ゲームニクスが医療・福祉・教育分野を救う
第6章 ゲームニクスが日本の未来を明るくする
おわりに 日本のもてなしの文化を見直すこと