読書メモ
・「不動産は値下がりする! ―「見極める目」が求められる時代 」
(江副 浩正:著、中公新書ラクレ \740) : 2008.08.24
内容と感想:
リクルートの創業者でもある著者は不動産にも詳しい。
バブル崩壊後、地価は下落し続けた。しかし最近の東京ではオフィスビルの建設ラッシュだ。
一時、都心から離れていったオフィスや住宅の需要が都心に回帰しているらしい。
都心の一極集中も進んでいる。
だから、地価も上昇に転じていて、一部ではかつてのバブル期並かそれ以上の価格になっていると聞く。
それに釣られてニーズの低いエリアの地価も上昇し、実力以上に上がってバブルになっているらしい。
タイトルの「値下がりする」が今後も「まだ値下がりする」のか、
上昇を始めた場所が「また値下がりする」のか、その辺りを気にしながら読んでみた。
現在の状況を著者はバブルと見ており、第2章では「今回のバブル」が崩壊する理由をいくつか挙げている。
第6章には気になる話題がある。
「フラット35」という低金利の住宅ローンの話だ。アメリカで昨年起きたサブプライムローン問題は世界経済を
今も揺さぶっているが、それの原因にもなっているローンの証券化。実はフラット35も同じ仕組みなのだ。
住宅金融支援機構は今後の金利上昇リスクを負ってまで、今も低利での長期融資を続けている。
今後の金利上昇局面では逆ザヤで赤字になる可能性があり、その場合は国民の負担になるのだ。
そのサブプライムローン問題については第7章で触れられている。日本でも同じことが起こる可能性があることを著者は指摘している。
第8章では日本でもよく知られるようになったREIT(不動産投資信託)について触れている。
高い配当利回りが人気だが、上場されているREITとは別に「未公開REIT」というものが存在する。
その問題点について述べられている。
○印象的な言葉
・大量の国債や地方債が発行されているためいずれインフレになる。調整インフレで貨幣価値が下がり、相対的に不動産価格が上昇。
金利が上昇すると国や自治体の財政赤字は更に増えるため、金利を上げづらい。
・埋め立てや規制緩和(容積率の増加)で土地が生産されている
・都心は人材が集まりやすい、通勤時間も短くなる。アメニティも充実
・日本橋室町は多くの部分を三井系企業が所有。三井村。丸の内は三菱村。これらの土地の簿価はゼロに近い
・森ビルは地権者との共同事業のため、土地代の金利負担が少ない。金利上昇でも困らない。
・品川は職住近接型の生活圏として核を形成
・霞が関の官庁街は老朽化した建物も多い
・ビル火災にはスプリンクラーや防火扉など建物内の防火施設の充実で、内部で火災を防ぐ発想
・定員割れで赤字経営の大学もある。大学補助金も減少。大学を減らす必要がある。大学は組合が強く教職員を減らせない
・農地の固定資産税は宅地の100分の1。相続税も後継者が長期営農の意思表示さえすれば納税不要
・マンションはクレーム産業。事業主と購入者とのトラブルが絶えない
・金利上昇局面では貸し出し金利が先に上昇し、預金金利は遅れて上昇
・日本の住宅ストック数は世帯数を大きく上回っている
・銀行の国債購入が増えているのは有力な大口の融資先が減っているため。優良企業はMSCB発行などで金利ゼロ資金を調達できている
・多国籍企業は為替リスク回避と節税のため、現地で資金を調達
・特別会計予算は一般会計予算の約4.6倍。実態がほとんど分からない。国会でも論議されないため国民に見えない
・既に不動産が値上がりしすぎて利回りが低下傾向にあるため、買わないで売りに回っているファンドもある
・金利上昇では不動産の収益率は下がり、値下がりを迎える
・日本は所得税、相続税が外国に比べて高い
・未公開REITは上場していないため売ろうにもすぐには売れない。ファンドの期限が来たときに金利が上昇していて、売却損が出るとREITに融資した金融機関の損失となる
-目次-
第1章 変貌する大都市
第2章 埋め立てや規制緩和で土地は「生産」されている
第3章 都心一極集中まだ床が増産され続ける
第4章 都心周辺や郊外部でも土地の生産が続く
第5章 インフラ整備に伴う供給の増加
第6章 金利の上昇は地価の下落に直結する
第7章 近く金利は上昇し、不動産価格は下落する
第8章 不動産バブル問題
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