読書メモ

・「独創する日本の起業頭脳
(垂井 康夫、武田 郁夫:編、集英社新書  \660) : 2008.01.12

内容と感想:
 
タケダ理研工業(現アドバンテスト)の創業者の武田氏と、彼が設立した武田計測先端知財団の理事の垂井氏が編集に当たった、 彼らの観点で認めた日本の起業家8人を取り上げた本(中村氏はカリフォルニア大の教授へ、舛岡氏は東芝から東北大の教授へ、 篠田氏は富士通から東大の客員教授へ転身したから起業とは言えないと思うが・・)。 8人の開拓者精神を支える人間的魅力に迫っている。 そこでは独創性、開拓者精神を強く意識し、「実業」を重んじる。それは株式時価総額にこだわる虚栄の起業家への批判も込められている。 「まえがき」では8人に共通するのは「浮利を追わず、独創にこだわる志」だと垂井氏は言う。
 後半の3人を除けば半導体関連のビジネスを立ち上げた人々なのはアドバンテスト関係者だから仕方がないだろう。 最後の二人はソフトウエアビジネスだから、構成として余りバランスはよくないが、日本をリードする企業ということで興味深く読ませてもらった。 「青色発光ダイオード」の中村氏はあまりにも有名だが、 飯塚氏のザインエレクトロニクス、杉山氏のリアルビジョン、 進藤氏のメガチップス、高須賀氏のサイボウズ、荒川氏のACCESS などは上場して人気銘柄となっていることからも名実共に日本をリードしている企業と言えよう。
 本書の趣旨からは外れるが、日亜化学社員時代の特許権譲渡に対する対価を請求した裁判は注目を集めたが、中村氏は納得はしていないが、弁護士にやむを得ず従って和解に応じたと言う。 日本の司法制度には根本的な問題がある、と苦言を呈している。裁判でも合理的な解決ができないことに、国際社会から取り残されるのではと心配もしている。
 「あとがき」では、21世紀の市場は企業と生活者の共創によって作られると武田氏は書いている。元ソニーの井出氏も「競争から共創へ」と言っていたが 「共創」という言葉が流行るかも知れない。
 新書という形態で多くの人を取り上げたためか、やや中身が薄い印象。登場するそれぞれの方々は素晴らしい人に違いないのだが、 ちっとも感動が伝わってこないのが残念。アイデアがあって起業を目指す人たちには良い刺激になるには違いない。

○印象的な言葉
・日亜化学工業の小川社長は薬局を経営しながら独自に勉強して会社を興し、稼いだ金は次の研究開発に使った
・すべての材料の物理的特性は電子物性理論により説明しうる
・アメリカの大学は教授がベンチャー企業をやっている感じ。自分でお金を集めて研究。
・米国ベンチャー企業の勢い、厚いサポート体制、のびのびと得意分野で腕を振るう起業家。失敗しても元の勤め先が大らかに迎えてくれる
・アメリカでは起業成功者は別の企業を興して雇用を生み出したり、個人投資家として新たな産業を生み出す。どんどん階級移行していく。
・日本の技術者は上司からチャンスを与えられるのを待つばかり
・水平分業:わずかなシェアでもたくさんの企業と水平に組む
・ベンチャーなら力を自由に発揮できる。優秀な技術者を集めれば独創的な仕事ができる。大企業にいたら会えないような人とも付き合える
・人間は画像によってもっとも多くの情報を得ている
・スピンオフ:社内の技術と人材を円満に独立させ、自由に動けるようにする
・短絡的な金勘定をしていたら(開発に)とても時間はかけられない
・企業の価値:商品やサービスを喜んでくれる人の数、その商品やサービスで生活がどれだけ向上したかで計られるべき
・ソフトウエア業界の品質に対する考え方は非常に緩い
・顧客の全要求に応えることは難しい。そのための連携・協業
・顧客にシンプルなイメージをもってもらう
・経営は仮説と検証を繰り返しながら学んできた
・子供からお年寄りまで全てのユーザに優しいサービス
・標準的な位置を確保することで依存性を作り出し、将来も影響力が残っていくもの
・間違いは必ず起きる。間違いを是正していけないことは悪い
・地球上の人間全ての富と豊かさ・幸せを増大させる
・世界に誇る基盤研究に裏付けられる
・実用化のほうが基礎研究より難しい

-目次-
1 青色発光ダイオードはこうして発明された/中村修二
2 日本半導体ベンチャー協会会長の決意/飯塚哲哉
3 三次元画像データ処理を進化させねばならない/杉山尚志
4 “フラッシュメモリの父”が語る技術者の心得/舛岡富士雄
5 めざせ日本初。四九歳の独立宣言/進藤晶弘
6 大企業のなかの“起業家”精神。二三年の夢の結実/篠田傳
7 “水道哲学”の申し子。独立独歩の実践/高須賀宣
8 世界一を開発する。そのために大切な心がけ/荒川亨