読書メモ
・「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」
(久手堅 憲之:著、技術評論社 \1,380) : 2008.10.27
内容と感想:
日本のソフトウェア産業が駄目な理由を企業・エンジニア・業界・ユーザなど様々な視点から探り、
問題の本質に迫っている。経営者、エンジニア、業界団体、システム発注側のユーザなど全ての人が読む価値がある。
本書の議論ではエンタープライズ向けのソフトウエアを扱うセグメントに集中しているため、
組込みソフト、PC用アプリケーション、ゲームソフトなどには触れていない。
従って、市場も異なる全てのソフト産業に当てはまらないものもあるかも知れないが、組込み系の開発をしている自分には多くの共通点が感じられた。
エンジニアやコンサルタント、システムユーザなど業界の6人も実名で登場し、議論に加わっており、偏った意見にはなっていないと感じる。
「公共投資への依存、丸投げ、下請けの連鎖、手抜き、不透明な料金など建設業界と似通った問題」がソフト業界にもあるというのは事実だ。
様々な問題を指摘されて、私自身の問題を指摘されているようで耳が痛い部分も多い。
本書では企業・エンジニア・業界・ユーザ全部にダメ出ししているわけだが、今後もダメなままではソフト産業は衰退産業となりかねない。
ダメなところを改善していく必要がある。
私はソフトを作る側の人間だから、新興国の追い上げで、仕事が海外に流出しつつある現在、最も興味があるのは日本のソフトウエア開発企業の今後の生き残り策である。
第3章では日本のソフト会社が生き残る道として次の3つを挙げていて参考になる:
・顧客密着型のきめ細かいサービスを売りにする(曖昧な要求をまとめながら開発)
・上流開発(顧客のビジネスとITの橋渡し)
・極めて専門性の高い分野、優位性のある分野に特化
本書にはこれまで自分が感じてきたことも多く書かれており自分の課題も再認識させられた。
またソフト・ビジネスのあり方やキャリア形成の考え方などを考えさせられた。
環境も大きく変化している今、経営者、エンジニアその他も思考の転換を求められている。
○印象的な言葉
・ソフト開発は天然資源の乏しい中、知恵と工夫で繁栄を築いてきた日本人の強みを活かせる産業
・国内のソフト市場の成長率は3%。2000年前後までは2桁成長。国内市場の成熟化
・エンジニアのキャリアのゴールが中間管理職では・・・
・つまらない会社にとどまる理由はない。馴れ合い染みた相互依存関係
・エンジニアの理想像と会社が求める人材像とのギャップ
・ソフト産業は人材斡旋業、人貸し屋
・寄せ集めチームの弊害
・英語アレルギー。技術、オフショア先、市場が限定されてしまう
・人月計算は売り手目線。これだけの仕事をいくらいくらでやれ。仕事のどこどこを変えたいから、いくらいくらなら払ってもよい。
・大手信仰にしがみつくユーザ
・IT投資に見合うリターンがあるか
・ユーザの目がソフト産業を鍛える
・雑誌連載、著書・翻訳書。プログラマの教育、コンサルティング支援
・システムの持つ生産性に関する能力を最大限に利用
・生産性の高いシステムはシンプルでユーザにやさしく、早く安価に作れる
・腰の低さ、バランス感覚、フットワークのよさ
・提案能力、幅広い見識、未来や世界全体を見通す見識
・地域活性化、社外コミュニティ
・目利き役
・殻は変わっても、変わらない芯がある
・社員全体のスキルを高めるための会社のサポート
・能力、貢献の正当な評価。技術力に合った給与体系
・失敗プロジェクトを再生産しない工夫
・技術者としてのキャリアを極める道。自分のキャリアは自分でデザインする。
・現場への権限委譲
・価格の妥当性判断が難しい場合、売り手との信頼関係に頼らざるをえない
・ピンで食えるスキル
・外国製ソフトを使う立場に甘んじない
・海外に売り込む意識
・ああいう風になりたいと思わせるような目標の存在
・自分がお金を払う立場のときに期待するレベル
・試行錯誤を繰り返しながら、現状に安住せず見直しをかける。価値観や評価基準は不変ではない。
・考え続け既成概念を壊し続ける
-目次-
ソフトウェア産業に起きていることを今語ろう ―プロローグ この業界の酸いも甘いも知っている男たち
第1章 技術がよりどころのソフトウェア会社がエンジニアの足を引っ張る ―会社のここがダメ
第2章 仕事から生み出す価値が自分のところで止まっていないか? ―エンジニアのここがダメ
第3章 「優良産業」を名乗れる日ははるかに遠い ―業界のここがダメ
第4章 発注企業はこのパターンにはまって「ゴミシステム」をつかむ ―ユーザーのここがダメ
神の手という名のプロフェッショナリズム ―エピローグ
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