読書メモ
・「中国発世界恐慌は来るのか?」
(門倉貴史:著、角川SSC新書 \760) : 2008.11.08
内容と感想:
今年の北京五輪の前の5月に書かれた本。
現在の中国は「世界の成長センター」として高成長路線をひた走っている。
しかし上海万博が終了した2011年以降の中国は、少子高齢化の進展、通貨人民元の切り上げ、所得格差の拡大など様々な問題で
経済成長を妨げるだろうと著者は考えている。著者が言うまでもなく、いつかは高成長は鈍化するはずだ。
本書では今後ますます経済大国に成長し世界経済の牽引役となると予想される中国の経済の行方を分析している。
第2章では五輪後の直近の中国経済について予測されるバラ色、灰色、暗黒の3つのシナリオを挙げている。
1つ目は景気の過熱とインフレ懸念に対して中国政策当局が行なってきた金融引き締め政策の効果が徐々に効き始め、正常なレベルに戻る。
バブル崩壊という急激なショックは避けられる、というシナリオ。それは中国向けの輸出に活路を見出そうとする日本にとっても良い。
2つ目は、サブプライムローン問題の深刻化で先進刻経済が減速、中国経済も失速するため政策当局が金融引き締めを解除、企業の投資活動が再び過熱。
中国の輸出が拡大することで、世界がデフレに見舞われる、というもの。
3つ目は、政策当局の引き締め策解除が遅れ、バブルが崩壊し、中国経済が失速する、というもの。
五輪終了直後の現在の状況を見ると、2番目のシナリオに近い。
五輪後も2009年に建国60周年祭、2010年に上海万博というビッグ・イベントが続くからインフラ整備のための投資は継続し、
経済成長は続くだろう。成長する中国がよい緩衝材となって、その間に世界経済が持ち直せばベストなのだが・・。
中国を見ているとかつて日本が通ってきたのと似たような道を歩んでいる。それだけにある程度、予想がしやすい。
既に高学歴化が進み、所得も伸びてコストメリットが失われつつあり、そろそろ製造業が中国本土から脱出し始めかねないところは、かつての日本と同じだ。
しかし、日本よりもはるかに国土が広大で、人口も多く、他民族国家で、社会主義国家という違いもあり、全く同じパターンとはいかないだろう。
大きな所得格差、食の安全性の問題、SARSや鳥インフルエンザ、手足口病などの衛生面のリスクなど独自の不安要因もある。
本書ではそうした様々なリスクについても分析しているが、この本の性格上、経済面が主であり、軍事・安全保障問題などには触れられていない。
成長を続ける中国に脅威論なども聞こえるが、変に対立を煽るのではなく、スケールに劣る日本はそれに呑み込まれないよう、
独立した国家としてうまく付き合っていかねばならない。日本の高度成長期は遠い昔となり、既に成熟期にあり、変化の激しい環境において、今後、日本が
安定成長を続けるためのお手本となる国もモデルもなく、試行錯誤が続くだろう。結局、民間の力、日本国民の力で牽引していくしかない。
日本の強みを更に伸ばして、中国など新興国に追いつかれないようにする。政府は脚を引っ張らないよう、しっかりサポートして欲しい。
○印象的な言葉
・2001〜2007年の世界経済全体の成長の寄与率:米国が20.6%で1位、それに次ぐ中国が11.9%。
IMF予想では2008〜2013年に最大の貢献をするのは中国。
・中国の貿易黒字縮小の理由。貿易収支の不均衡を人民元の切り上げでなく、税制度で調整している。輸出主導から内需主導に転換しつつある。
・金融システムは健全化。不良債権比率は低下
・チベットを手放さない理由。銅、鉄鉱石、原油、天然ガスがある。青蔵鉄道がそれらを輸送。
新疆ウイグル自治区には原油、石炭、内モンゴル自治区には銅、鉛、亜鉛。
・パンダの3/4は四川省にいる
・富裕層、ニューリッチ層
・ダルフール問題と原油。大慶油田は枯渇の危機。原油輸入が急増。
・資源外交:対外経済協力の4割がアフリカ向け。武器も輸出。見返りに油田開発の優先権を獲得
・四川大地震の影響:冷戦中に戦争に備えて四川など内陸部に重化学工業を移した。穀物生産にも打撃
・四川省は生薬の有力産地。日本は漢方薬や生薬の8割を中国に依存
・先富論の功罪。階級が分断されている
・いびつな男女比。農村部では伝統的に後継ぎとして男子を重んじる
・政府系ファンド
・イスラム金融の規模は無視できないほど大きなものになっている
・食の安全。食へのこだわりが強い国民。
・技術力や資金力を蓄えた中国の巨大企業が日本の優良企業を吸収・合併
・人民元の価値が上昇していくと日本に入ってくる中国製品の値上げとなり、インフレを加速する。対中国直接投資が減少。
・国民の過半を占める農村部人口
・国民の不満:地方政府の汚職・腐敗、乱開発による土地収用、教育制度・医療制度などへの不満。権力に対する不信感。権利意識の高まり。
・内陸部に多数存在する赤字経営の国有企業。西部地域には少数民族の8割が居住。
・東北地方、特に打ちモンゴル自治区は重化学工業を担う国営企業が多数集積。それらの7割が多額の債務を抱える
・中部地域:人口が全国に占める割合は3割近く
・公私の区別があいまいな社会風土。
・ヴァイオリン生産のシェアは中国が圧倒的
・金のアクセサリーを好む国民性。世界最大の金消費国はインド
・名石:由緒ある希少性の高い石
・米の輸出大国だったが、国内需給が逼迫してきた
・2007年は60年に一度訪れる「黄金豚」の年
・中国本土の株式市場では2007年10月が株価のピーク。その後、急落し株価バブルは崩壊
-目次-
第1章 チベット動乱、四川大地震と北京五輪
第2章 中国経済、3つのシナリオ
第3章 深刻化する所得格差
第4章 ニューリッチという新階層
第5章 「一人っ子政策」の歪み
第6章 人民元の切り上げと資産バブルの崩壊
第7章 衛生面のチャイナ・リスク
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