読書メモ

・「凡人として生きるということ
(押井 守 :著、幻冬舎新書 \760) : 2008.12.20

内容と感想:
 
映画「攻殻機動隊」、「イノセンス」などの監督として有名な押井守が書いた本。 それら作品で才能を発揮している著者が果たして「凡人」かどうかは分からない。 実は本人のことを指して言っているのではない可能性もある。
 本書では映像の表現者である著者が自分の哲学、人生論を綴っている。 彼の問題意識や、映画では伝えられなかったことなどに触れることが出来る。
 第一章では若者に対して自分は「平凡な人間なのだ」と気付くことが重要だといっている。 その上でやりたいことを見据え、やるべきことを見定めるのだと。 その言葉は大人が言う「若さの可能性」に翻弄され、自分を見失っている若者たちに捧げる言葉だ。
 凡人といえば最後の第七章で「社会は95%の凡人に支えられる」と言っている。 非凡人であろうとするから苦しむ。 第五章の最後の言葉を借りれば、本書を読んだ後は「この世界はもう少し生きやすくなる」と思えるのではないだろうか。
 著者と私は世代も違うが(彼が学生運動世代だとは意外だ。もう少し若いかと)言っていることはほとんど同感できた。 実に真っ当なことを言う人だと感じた。
 第六章で特定の分野に著しい「情熱を持ち続けるという生き方だけが、現代日本という羅針盤も道標もない世界を渡っていくうえで、 唯一の指針になるものだ」と書いているが、これは経済の低成長期に入った日本では、これから日本を支えていく人々全員が認識していかねばならないことかも知れない。 その認識でコツコツと努力していけば、自分は凡人と認めながらも、気張らずに何か新たな価値を生み出すことができる可能性がある。 それが日本を活性化させ活力を生むのではないだろうか。

○印象的な言葉
・幅のある生き方こそが本当の自由
・人、社会を動かす自在感。責任
・勝負を続ければ負けないシステムが身に付く。勝負を続けている限りは負けは確定しない。だんだん勝負勘がつく。くだらない失敗もしなくなる。
・美学をもって勝負に当たれ
・格差論の根底にある嫉妬
・陳腐な言葉、底の浅い観点
・(様々な問題は)すべては根っこに同じ原因が横たわっているのではないか
・このろくでもない世界
・青春の痛み、若さの苦味。若さゆえの苦しみ
・機微が分かるのが大人。本質が見えてくる
・年相応に生きる。欲望に対して純粋、忠実。大事にしているもの。
・体力勝負の商売をしている以上、気力体力は欠かせない
・判断基準は自分の中にしかない
・本質を見極めようとする姿勢
・自分の定位置を得る
・人に恥じることなく正しく美しく生きる
・譲れない一線、自分の納得
・少しずつでも勝ち星を増やしていけば、最終的に人生の星取表を勝ち越しで終えることはできる
・文明化がいたずらに人間の本能を退化させ、新たな問題を引き起こしていく
・アメリカは親にとって謎めいた子供たちがとんでもないことを始めて、活力にしてきた国。親の世代には理解できないもの。
・価値を新たに創出したい。新たな価値観、視点、発見。
・人間関係は自分の価値を証明してもらうために存在する
・損得勘定で動く自分を責めてはいけない
・才能がどこかに埋まっていれば、その才能はひとりでに輝きだし、埋もれてしまうことを拒む。誰かに発見される
・天才は誰にも理解できないから天才
・美学と情熱があれば富と名誉に煩わされることなく生きていける。貧乏も苦難も乗り越えられる
・人間という存在がそもそもいい加減、どうしようもない存在
・世界は優秀な5%と残りの95%で構成されている。その5%は95%に依拠して成り立っている。 世の中は常に95%の余裕が必要。
・長い闘争の歴史の中で学んできたヨーロッパは最も振れ幅を小さくして修正する能力を持っている
・欲望でさえ模倣の末に生まれる
・言葉を失ったジャーナリズムが無意味な言葉を再生産している

-目次-
第1章 オヤジ論 ―オヤジになることは愉しい
第2章 自由論 ―不自由は愉しい
第3章 勝敗論 ―「勝負」は諦めたときに負けが決まる
第4章 セックスと文明論 ―性欲が強い人は子育てがうまい
第5章 コミュニケーション論 ―引きこもってもいいじゃないか
第6章 オタク論 ―アキハバラが経済を動かす
第7章 格差論 ―いい加減に生きよう