読書メモ

・「お金は銀行に預けるな 〜金融リテラシーの基本と実践
(勝間 和代:著、光文社新書  \700) : 2008.02.16

内容と感想:
 
「はじめに」で著者が2つのライフワークについて述べている。 1つはワークライフバランス(仕事と生活の調和)がとれるように時短を後押しすること、もう1つは自身の専門である金融・経済・会計の知識を分かり易く伝えること。 本書のベースにもこの2つの考えがある。
 「金持ち父さん・・」シリーズでキヨサキ氏が米国人について言っているのと同様、著者も日本人の金融知識の欠如を感じている。 サブタイトルにもあるように読者に「金融リテラシー」を身につけてもらうとして書かれている。 「お金のことを話すのは恥ずかしい」という美学を見直し、金融に対する健全な知識を持ち、 ゲームのルールを知ることで”落とし穴”を避けることができる。
 多くの人は自分の身を自分で守る必要があるのに 資産運用を知らないために、本来なら得られるべき収入を放棄している(機会損失)と言う。 また資本主義は「賢くない人から賢い人へお金が流れるしくみ」だとも、第2章では言っている。
 本書は金融商品や資産運用の情報収集のポイントを理解し、 自分で資産構成を決め、リスクとリターンを管理できるようになることを目指している。 新書なので正しい知識を短時間で習得できるように意識して書かれている。 決して「ラクなお金儲けの方法」を書いた本ではなく、非常に良心的な本だと思う。 第3章は実践編だが、煽るような記述はなく、手堅い手法を提案している。 おいしい話は無いのだ。
 国民への金融教育は国の政策として推進すべきことだが、進んでいるようには思えない。 知識がないために海外に貴重な日本の個人資産を流出させるようなことになってはならない。 外資は虎視眈々と日本の資産を掠め取ろうと狙っていることだから。
 私が最も興味を持ったのは住宅のことだ。「土地の値段が上がりにくいときに住宅ローンを組むべきでない」、 「その頭金で資産運用した方がいい」など、資産としての住宅についての見方は厳しい。ページも多目に割いていて、勉強になった。 「景気というものは、(国民に)いかに住宅を買わせ、いかに借金を背負わせるかで決まる」というのは重要である。 これが過度に進むとサブプライムローン問題のようなことが起きる、と警告する。
 資産形成を労働による収入のみに頼ることから脱却し、金融資産収入があれば長時間労働も減らせるだろう、という理想は分かる。 時給で働く人はそうかも知れないが、私は収入にならないサービス残業をしているのだが・・。 ITの発達や海外移転などで代替可能な労働は日本からはどんどんなくなっていく。 代替可能な仕事を長時間することすら困難になるだろう。 だったら、資産運用なんて不確実なものに期待するより、新しい知識・技能を身につけて代替不可能な仕事にシフトして 収入アップを考えたほうが長期的にはいいと思うのだが。
 単なる収入源としての資産運用とは異なる視点として、 「投資することで自分たちの住みやすい社会を作っていく」、「投資先を選ぶことで意思を表していくことが可能」というのは ギラギラした金儲けのイメージを軽減できて、日本人の美学には訴えやすいだろう。 投資に良いイメージを持ってもらえ、投資の拡大が期待できる。それがうまく回って、我々の幸福にもつながれば理想的な資本主義社会になるだろう。

○印象的な言葉
・401kの拠出額の50%以上は預金
・株式:プロが得して個人が損する
・住宅は個人がもつ最大の金融商品。価値も変動。ローンという負債。
・生命保険は住宅に次ぐ大きな商品。金融商品としてはあまり効率がいい投資といいにくい
・リテラシー:情報や知識を鵜呑みにせず、経験との相互作用の中で、主体的に読み取る。批判的に見る。視点の素地
・語学学習の王道:文法、ボキャブラリー、発音
・日米の個人のリスク許容度に統計的に有意な差はない
・住宅や土地がリスク資産としての役割を果たしていた。個人はリスクを取る必要も余裕もなかった
・日本のリスク資産のほうがアメリカよりも変動幅が大きい。個人は手を出しづらかった。※無意識にリスクを回避していたのだろう
・アメリカ人のほうが金融商品に対する意識が高く、貪欲で、情報交換もしている
・損益の変動は当たり前と考えられ、シナリオを描ければバタバタしなくて済む
・2012年に適格退職年金の制度が廃止される
・リスクは計量可能でコントロール可能なもの。コントロールできないものは単なる危険(ギャンブルなど)。リターンはコントロールできない。
・チャート分析の有効性は統計的な証明はされていない。学術レベルでは目立った業績はない
・ファンダメンタル分析のほうが統計上、有意に良いリターンが出ている
・確率と統計の概念が開発され、リスクが計量可能となり金融が発展。大規模な投資が可能となった
・預金は儲からない第3セクターや国債などに回り、資金が非効率に使われてしまう。自分たちの幸せとは無縁のところで使われる。 低金利でも資金を調達できるため、国は過剰な借金をすることになり、企業は低い投資利益率(ROI)しか出せなくなる。シワ寄せは預金者に返ってくる。
・プロスペクト理論:同額の利益よりも損失の印象が大きい
・銀行は個人向けでは定期預金と住宅ローンで儲けている(逆に個人は損している)。普通預金や決済サービスでは儲からない。
・定期預金よりも国債が利回りは高い
・株式市場ではプロがしのきを削っているため、株価はおおむね適正になる。市場は原則として効率的。
・株式投資は趣味の範囲で、損しても構わない金額の範囲で
・各国の金利差は各国のインフレ率の違いで説明がつく
・インフレ率に差がある限り、為替レートは円高に向かう
・日本のグロソブファンドが良い国の国債を買い漁ったため投資先が少なくなった
・人口減少が始まった日本で住宅地の大幅な値上がりは期待薄
・新築マンションには利ざやが多く(20〜30%)乗っている。買ってはいけない。賃貸の方がメリットがある
・地方自治体が”いい学校”や”いい企業”を誘致するのは「街のグレード」を上げるため。価値が上がる
・保険のコストは通常の金融商品の手数料より割高、「詐欺コスト」など見えないコストも消費者が負担
・宝くじの期待値は40%。日経平均先物オプションの期待値は100%で、オプションの方が割が良い
・じゃんけん理論:じゃんけんの勝敗は最後には五分五分。資産運用で儲かる確率も損する確率も同様
・少子化により日本の成長率が高くなることは望めない。投資対象先としての日本株の魅力はない。シャープレシオも良くない
・シャープレシオが1を超える投信はそこそこ優秀
・資産のリバランス:資産の入れ替え
・資本主義の限界:国家間格差、国内の階級格差の拡大。生産性、利益を追求するあまりに不誠実な経営となる。
・年金制度問題は問題を先送りさせてきたことが原因。公的年金だけでは老後の生活費は補えない

-目次-
はじめに
第1章 金融リテラシーの必要性
第2章 金融商品別の視点
第3章 実践
第4章 金融を通じた社会責任の遂行
おわりに