読書メモ

・「図説 50年後の日本
(未来プロデュースプロジェクト:著、三笠書房 \1,300) : 2008.07.19

内容と感想:
 
科学の進歩をテーマに50年後の未来を考える東大と野村證券の共同研究を本にしたものである。
 漠然とした不安が覆う日本では未来に希望が持ちにくくなっている。 私が子供の頃、未来とは明るいものだと思い込んでいた。今の子供はどうだろうか? 私はSFが好きだったから、将来は科学技術が進歩して、人類の生活はますます便利で豊かになるだろう、 世界から戦争がなくなって人種が異なっても平和で仲良く暮らす、そんな地球になるのだろうと、 根拠もなくそう信じていた。 しかし大人になるといくらか現実の世界が見えてくる。日本の経済成長も止まった。政治不信に行政不信、あらゆる不信が 積もり積もって日本人同士でも不信感をもつような世の中になってきている。
 さて、日々暗澹たる思いで暮らすこともできない。私は技術系の人間だし、未来の技術には興味を持ち続けている。 だから技術の未来を考えることは楽しい。本書は現実世界のドロドロしたものとは無縁である。 科学技術に閉じこもることで現実逃避もできる。そこは一種のリゾートであり、楽園でもある。
 本書には数多くの未来の技術が取り上げられている。著者らは「できる限り科学的根拠に基づいて、未来を描くということにチャレンジ」している。 例えばリニアモーターで走る(飛ぶ?)近距離移動用のクルマ「エアーカー」。 自動運転だし、インテリジェントな交通制御システムにより事故や渋滞も防ぐことができ、しかも浮上して走るから道路が不要になり、 その分だけ緑地を増やすこともできる。車体は環境に優しいバイオプラスチックで、シートは乗る人の身体の形状や指示によって形状を変えられる。 一番イメージしやすくSF映画にでも出てきそうな未来のクルマである。すぐにでも実現して欲しいものの一つだ。 また、タンスに服をかけるだけでクリーニングしてくれる、ユニークですぐにも実現できそうな技術もある(これは服の素材次第)。
 一方で、地球の静止軌道上に設けた宇宙ステーションを地上とエレベータで結ぶとか壮大な構想もあって非現実的とも思えるものもある。 胃カメラならぬ血カメラなんていうトンデモ技術もある(血液中に極小のカメラを送り込むらしいが、どうやって回収するのか?)。 また状況に応じて自ら移動する土(スマートソイル)もどうかと思うが・・。 50年後には常温超伝導素材が開発されている、とか根拠のない予測もあるが、 「センサーネットワーク」のように実現性の高そうなものもある。
 本書を読むことで「これからどんな仕事が必要とされるのか、何が求められるのか」のヒントも得られるだろう。

○印象的な言葉
・減圧した地下トンネルを走るリニアモーターカー:高速化による空気抵抗や、空気の流れが乱れることによる振動・騒音を軽減
・宇宙で太陽光発電した電気をマイクロ波で送電
・テフロン加工:表面自由エネルギーが低い
・UV-A:紫外線の中で最も波長の長いもの。大気圏で吸収されず地表に到達し、有害。
・犬の嗅覚は人間のものの1000倍以上の感度。皮膚がんの早期発見、てんかん発作の予知、血糖値低下の予知などに応用されている。
・近赤外分光法:神経活動を身体の外から測定する光による診断法
・子供自身の主体的な興味を多様な対象に向けさせて、やる気を引き出す指導
・わざとビル風を発生させるようなビルの配置。ビル風で風力発電。風の流れを利用して空気を冷却
・光合成を真似た太陽電池:植物の光合成の効率は1%程度。この太陽電池はエネルギー変換効率が2〜3割
・地球にあるヘリウムの大部分はヘリウム4。ヘリウムの同位体ヘリウム3は月面に大量に存在し、核融合燃料となる
・核融合から電力を取り出すには非常に高温高密度のプラズマを安定的に作り出す必要あり。これが難しい
・月の極地方には永久凍土があり、氷が存在する
・キチン:強固な結晶構造。軽くて固い素材。リゾチームという酵素により水に溶けやすい形に変わる。動物の免疫機構を活性化することなく 自然に分解・代謝される。医療用材料として生体内で安心して使える。
・印刷技術を使ったセンサーや配線を埋め込んだ壁紙
・問題に対する解決法の考え方:根性派(現在の延長線上で物事を考える。ある程度は進歩するが限界がくる)とエレガント派(問題点を長所と考え直し、それを積極的に使っていく)

-目次-
1章 「空中を飛ぶクルマ」が実現 ―エアーカー こんな「夢」が現実に!
2章 服を入れるとクリーニングするタン ス―バイオミストボックス 「身近な暮らし」がこう変わる
3章 地震の揺れを吸収する「考える土」 ―スマートソイル 安全、エコロジーな環境づくりはここまで進む
4章 「センサー」の力で天気予報も変わる ―センサーネットワーク こんな新技術をあなたならどう活かすか