読書メモ
・「100億円はゴミ同然 ―アナリスト、トレーダーの24時間」
(坪井 信行:著、幻冬舎新書 \720) : 2008.02.24
内容と感想:
ソロモン・ブラザーズ、メリルリンチなど外資系金融機関で株式市場中心に仕事をしてきた著者。
1日の世界の金融取引の規模は約500兆円とも言われる。そのような世界に身を置いている金融マンには
ときとして100億円という金額も「ゴミ」とさえ感じることがありえるという。相対的な話だ。
タイトルはそこから来ている。
ソロモン・ブラザーズでアナリストの修行時代は1日17〜18時間働いていたと言う。
思うに任せない強烈なストレスとの闘い、
厳しい仕事で報われないことのほうが多かったそうだ。
それだけに報われない努力を続けるためにも体力は重要な要素だったとも言う。
本書では現場でアナリストとして活躍していた経験から、アナリストやトレーダーという職種や投資関連業界の実態などが
裏話を含めて書かれている。この業界に興味がある者には面白く読め、参考になるだろう。
「アウトプット過多が続くと蓄積してきた知識やノウハウが減少・劣化(陳腐化)していく」とか、
「スキルやノウハウは永遠のものではない。常に前進していかないと取り残される」と言うのは、
知識産業で働く者には共通した悩みであろう。
また、「トレーダーの行動の基本は合理性」というのも興味深かった。
彼らは「無駄なことは一切したくない」と言うような人々で、それゆえに性格はさっぱりとして、付き合いやすいと感じる人が多いそうだ。
成功するトレーダーに共通するのは、ある種「女性的な」感覚の持ち主だとも。
変化が生じる可能性を常に想定し、素直にかつ敏感に反応する姿勢が大切で、そこが「女性的」な部分なのだ。
アナリストは人気商売でもあり、実力勝負でもあり、トレーダーは結果が全てなのだそうだ。
芸能人やプロスポーツ選手と似ている、とも言っている。
体力・気力が充実していないと続けられない、結果も出さないといけない。
能力・スキルを向上させていかないと置いてけぼりになる、など業界こそ違うが様々な仕事にも共通する部分を感じた。
「日々の地道な努力と差別化が必要」とか、
「様々なリスクやプレッシャーを楽しめるようにならないと一流にはなれない」という点も同様だろう。
○印象的な言葉
・世界の外為取引の1日の平均取引額は約225兆円、デリバティブ取引は約146兆円(2004年)。
株式取引は平均20〜30兆円と推定され、主要国の国際取引は約130兆円と言われる。
・バイサイド:資金を運用する側、セルサイド:注文を取り次ぐ側
・投資顧問:資金は預からない。仕事は運用サービスの提供。助言だけの助言業者と、発注まで行なう投資一任業者がある。
・ロング・ショート戦略:買いと売りの組み合わせ
・ペアトレード戦略:2つの銘柄の株価比率の変化を見る
・投資銀行:企業そのものを売買。M&A。企業の資金調達のアレンジや財務戦略のアドバイス
・時価総額の大きい企業は多くの機関投資家の投資対象になりやすい
・受付は企業の顔:受付に入った瞬間の印象も大事
・ほとんどのアナリストは企業経営の経験のない人
・リターン・リバーサル戦略:「平均への回帰」(物事はある程度の振幅で動いているという考え方)を利用
・相場の癖:1月効果、月曜日効果など。相場の方向性、変動幅、期間を予測。変動のパターン、リズム。
・ジャンク(ハイ・イールド)・ボンド:低格付け(高利回り)債券
・証券会社の自己売買部門は短期間のポジションしか取らない。収益率は非常に高い水準を期待されている。
・機関投資家は社内ルールに基づいて厳格な発注をする
・バンカー:欧米では投資銀行の銀行員のことを指す。商業銀行では高給は取れない
・アナリストのレポートは魅力的なストーリー構成が重要。説得力をもつ。
サイエンスとしても事実・論理を追求し、最後にアートとしての判断や意見を付加する。
・体力は意外と外見では分からない。気合の入った人間はある種の迫力を感じるもの。
・大手外資系証券会社はグローバルなネットワークを持つため(情報力で)優位。現場のトレーダーが株価変動の要因をつかむ
・突然の変化に対応するには、対策についての引き出しをできるだけ多く持ち、適切な引き出しを開ける。
・日本証券アナリスト協会検定会員(資格):通信教育の講座体系はよくできている。基礎的な財務分析のノウハウ。
・若いうちに数多くの、致命的ではない失敗を重ねていく
・相場にはっきりしたトレンドがあり、株価変動率や流動性が高い時期は稼ぎやすい
・待つのも能力:自分のシナリオに合うまでは待てる忍耐。戦略に自信がないとできない
・儲かる場所に儲かるタイミングで現れる
・リスク量=投資額X時間(投資期間)。デイトレは時間面でリスクを限定した手法。
・デイトレの対象になりやすい銘柄:知名度・流動性・変動率が高く、売買も盛んで、多様な市場参加者がいる。
・日本のバブル崩壊直後は東証の売買高は1日数千億円程度まで落ち込んだ
・損失が累積していく局面をどう乗り切るかが難しい。資金がゼロになるだけでそれ以上の損失はない、と考える。
・日経平均は1日100〜200円程度動く。波に乗る。波を見極める。
-目次-
第1章 投資関連業界の構造
第2章 証券アナリストの実態
第3章 投資関連業界の様々な職種
第4章 アナリストの生活
第5章 トレーダーの生活
第6章 要求されるスキルセット
第7章 デイトレとファンダメンタルズ・アナリスト
第8章 感覚的な違いで生み出される世界観
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