読書メモ

・「新卒ゼロ社会 ―増殖する「擬態社員」
(岩間 夏樹:著、角川oneテーマ21 \686) : 2007.03.21

内容と感想:
 
今春も多くの会社に新入社員が入社してくることだろう。ご存知の通りタイトルの「新卒」というのは学校を卒業したばかりの そんな新入社員のことである。それがゼロになる社会になる日が近づいていると著者は言う。 1969年以来、(財)社会経済生産性本部、(社)日本経済青年協議会が毎年、新入社員にアンケートして「働くことの意識」調査を 行なっている。そのデータを分析し、昨今の日本の経済状況をみてタイトルのような結論に至ったようである。
 バブル後の長い不況を経て、非正規社員が増え、日本人の働き方は多様化してきた。 企業は即戦力を求めるようになり、じっくり新入社員を育てる余裕もなくなってきた。 景気が上向いてきた今年は新卒採用も増加傾向にあるが、それ以前はそもそも新卒採用を絞ってきた。 一方でせっかく入社しても希望した仕事が出来ないなどのミスマッチが理由で辞めていく者も多い。 新卒で入社することのメリットが労使双方に無くなりつつある。 確かに傾向としてはそうであり、時代の流れも徐々にそうなっていくであろう。
 今後も景気の波によって採用の増減はあるだろうが、終身雇用が保証されなくなった昨今、 働き方に対する意識も変わるだろう。まだ誰もが模索中で正解はどこにもないのだが、 その不透明感から不安や閉塞感を感じる人は多いだろう。ストレスが溜まる。
 サブタイトルの「擬態社員」がどういうものか聞きなれない言葉だが、これは著者の造語のようだ。 近年の若い世代のサラリーマンの仕事へのスタンスを表現している。 生きにくい環境で生きていくための防衛本能がそうさせるのだ。 そういう社員ばかりの会社は危ない。経営者、管理者が馬鹿でそれに気付かない会社はもっと危ない。 会社でそうなら地域社会、日本社会の中でもそういう意識であるのかも知れない。 みなそんな人間ばかりではないと思いたいが、そんな日本に誰がした!上の世代もこの現状に無関心でいてはいけないだろう。
 今後の少子高齢化で多くの上の世代を少数の若い世代で支えていかねばならない。 そうでなくてもモチベーションはいやでも下がる。暴動は起きないまでも、若い政党による無血クーデターや、 あるいは若い世代だけで独立国家樹立、なんてSFチックな展開を考えてしまう。 日本をそんな危うい社会にし外国に付け入らせるようにする政治家、経営者こそ売国奴だ。 結局、こんな状況になってしまったのもバブルのせいと一言で片付けられてしまいそうだが、 有効な策をとれなかった行政も悪いし、そんな政治家に任せてきた国民にも責任はある。

○印象的な言葉
・若い世代はもはや職場をあてにしていない。どこでも通用する値打ちをもった人材になることが目標
・フリーターは行政システムからこぼれ落ちてしまいがち。義務も権利も曖昧。
・サラリーマンのサポートは体制はかつての血縁・地縁連合体制から職域一辺倒体制にシフトしたが、いまや何もない。 不透明感や孤独感、閉塞感の原因はこの空洞化にある。
・日本の近代化の過程は「安心」を求める試みであった
・終身雇用制というシェルターに保護されることで、ミクロレベルの「自分」について、そのあるべき姿を真剣に検討する負担を大幅に免除されていた
・自分なりの生き方への強いこだわり、自分への関心の高さ
・フリーターが進路の一つの可能性になっている
・長期的な計画性が無意味になり、今を楽しく過ごすほうへ転換
・転職志向も低下、防衛的な傾向が強まっている
・消費への関心も低下、節約的なスタンスが目立ち始める
・モノで得られる満足の限界に気付いている
・生活水準の向上よりも内面的な充実感。個人プレー、組織とは距離を置く
・どの職場も若い世代の採用を手控えてきたため、若い世代の負担が大きい
・人材はいつでも必要なときに、必要なだけ市場から調達できる資源になった
・モノへの関心と、モノへの欲求は必ずしも一致しない。モノの情報を得ることに熱心。商品の情報だけが消費されている
・若い世代は上の世代に比べて多数決原理で見ても多勢に無勢で分が悪い。マイノリティとも言える
・擬態(ミミクリ)社員、ミミクリーマン
・シカトすることでバランスを取ろうとする。面従腹背

-目次-
第1章 新入社員はどこから現れたのか?
第2章 ライフスタイルの五五年体制
第3章 新入社員今昔
第4章 本当に新入社員がいなくなる日
第5章 擬態社員の時代