読書メモ

・「信長の傭兵
(津本 陽:著、角川文庫  \552) : 2007.11.10

内容と感想:
 
本書は同じ著者による「鉄砲無頼伝」の姉妹編(続編)である。 紀州根来の津田監物が主人公の戦国歴史小説。
 監物は鉄砲が伝来したばかりの種子島に自ら赴き、それを譲り受けて紀州に戻ると、 早速その量産に取り組む。そして大量の鉄砲を擁する根来衆や雑賀衆は、その威力を背景に傭兵集団へとなっていく。 そして諸国の大名の要請を請けては、紀州・根来寺の荒くれ僧兵たちは鉄砲を抱えて、各地を転戦していた。 もちろん監物は根来鉄砲衆の頭となり、僧兵たちを育成していく。 兄の杉ノ坊・覚明が仲介する戦々に彼らを割り振って、自らも指揮をとって戦場に赴いた。
 三節では実戦経験のない少年僧たちに射撃や様々な種類の弾丸の知識を語って聞かせる場面がある。 火縄銃ならではの射撃術やメカニズムなどがリアルに描かれている。
 七節には「日本最大の鉄砲集団である根来衆と雑賀衆が手を組めば、天下を動かす戦力となるが、 犬猿の仲であるのでたがいにあい争い、力を現札しあうばかり」とある。 実に勿体無い話だが、彼らが心を一つにしていたら日本はどうなっていたか分からない(何が不仲の原因なのかは書かれていない)。 しかし、残念ながらそうならなかったということは紀州には「天下」という意識を持つだけの器量のある人物がいなかったということになる。 逆に言えば、その気質から、あえて紀州人は天下などは狙わなかったとも想像する。
 彼ら傭兵集団には傭兵の生き方がある。金がもらえればどこへでも出かけていくが、勝ち目のない戦はしない。 そこにプロ意識を見る。「解説」で細谷氏が書いているように「もらった金の分はきっちり働くが、危ないと見れば、さっさと逃げる」。 実にしたたかである。信長に惹かれるものがあり肩入れもするが、いざ負け戦と決まれば逃げている。 しかしそれが彼らのルールなのだ。義理も武士道もあったものではない。 文字通り死と背中合わせの傭兵をエンジニアと対比させるのは無理があるかも知れないが、 一エンジニアとしてはいつ死んでもいいなと思わせる仕事をしていられたら幸せだなと思うのだが。 その一方で常に傭兵的な生き方をしていたら精神がもたないだろう、とも考えてしまう。
 十九節では「いつからか、彼ら(若者)に対抗できる力を失っているのに気付いていた」と監物は自分の体力の衰えを感じている。 このとき既に50歳を越えていたというから驚きである。その年齢で戦場の第一線に出ていたのだから。 細谷氏は監物を「誰にも縛られることのない男」「自由で豪気な命の輝き」と称しているが、その自由人としての生き方が彼を若々しくさせていたのだろう。 自由人には憧れる。

○印象的な言葉
・雑賀年寄衆の筆頭の地位にあるのが土橋、鈴木家
・砂金50貫で六千人の兵を1年間動かす兵站を賄える
・根来流の真髄ともいうべき撃ち方は同郷の雑賀衆とも教えあうことがない
・弓矢、刀槍の戦いに比べ、銃撃戦では兵の損耗が7,8倍
・ポルトガル船はマカオから九州まで春の季節風に乗って15〜20日で到着
・安宅船は海上の関所の役割をすることから関船とも呼ばれた