読書メモ

・「ニッポン・サバイバル ―不確かな時代を生き抜く10のヒント
(姜 尚中 :著、集英社新書 \700) : 2007.07.29

内容と感想:
 
タイトルの「サバイバル」というのはこの国で、またグローバル社会の一員として、我々個人がどう生き残っていくかを、意味している。 仕事や友人、恋愛やお金、国際政治など10のトピックについて、「したたかに、そしてしなやかに生き残っていく方法を分かち合」うことを著者は狙っている。 様々な問題に対して、「逃げず、そして流されることもなく」、「まともに生き残る道」を考えている。
 本書はある女性誌のポータルサイトの連載をベースに書かれた本であるが、 各章の初めにはサイトに寄せられた10才代から40才代の「みんなの声」が掲載されている。 政治学が専門の著者がそうした声を取り上げながら、現状の分析を述べ、それらの問題にどう対応していったらよいか考えを述べている。
 今の日本には「他人のことにいちいち構っていられないというムード」が広がっていると言う。 「他者への無関心と無慈悲さ」とも言い換えている。 行き過ぎた個人主義が日本にも広がっているのか、日々の生活に汲々として余裕がないのか。 人と人との結びつき(横のつながり、絆)が弱い、分断している、とも言える。
 これを書いているのは参院選の投票日であるが、もし投票しても何も変わらないと考えているのであれば、 ただ文句を言っているだけではなく、何とかよくしようと智恵を絞り、声を上げなければ何も変わらない。 それが著者も言っている「今の社会が変だと考える、同じ意見の人々が連帯して、智恵を出し合いながら社会を変えていこう」 ということだ。
 ところでその選挙であるが、毎回の選挙戦で行なわれる各TV局の報道合戦はなんとかならないものだろうか? 各局がライブ感のあるエンターテインメント(お祭り?)に仕立てようと工夫をしているようだが、 そのパワーを選挙結果の報道(当日)だけでなく、別のところへ回せないのだろうか、と思う。第5章ではそんなメディアについても考えている。
 「みんなの声」を読んでも分かるようにみんな不安を抱えて生きている。 出来るだけ不安をなくそうと努力し立ち向かい、あるいはそこから逃避して、サバイバルしているのだ。 恐怖や不安に立ちすくんでいても時間は過ぎていくだけ。自分なんて関係なしに世界は動いている。 自分の力を信じて少しずつでも足を踏み出していくしかない。

○印象的な言葉
・新自由主義(ネオリベラリズム):市場至上主義、結果の平等より機会の平等。サッチャー政権で取り上げられ、今や世界を席捲。 規制緩和することで民間による効率化やサービスの向上を目指した。自由競争、弱肉強食
・アルゼンチンの経済危機のとき、地域通貨が機能した。
・身分制度も、宗教的縛りもなく、日本は自由な社会なのに「希望が持てない」と圧迫感
・自由は天から与えられた贈り物ではない
・必ずしも自由が手放しに幸福をもたらしてくれるものではない
・将来の可能性として選択肢を自由にチョイスできるのが真の自由な社会
・息苦しさを感じるのは失敗を恐れて枠からはみ出して冒険しようという気になれず、枠の中でしか生きられないから
・世間:目に見えない束縛、実体のない拘束力
・個々人が孤立して、横のつながりがないと権力に操作されやすい
・自由と安全は二律背反的。自由が拡大するほど社会は脆弱になる
・プレステージ(社会的な威信や名声)が認められていないような仕事に膨大な人が携わっていて、その仕事に社会的な価値を見出せない。手応えを感じにくい
・その人がどんな人であるかは、その人の友達を見れば分かる
・テレビは時間との勝負。スピーディで瞬発力を必要とする
・映像メディアは情報操作で視聴者の完成に簡単に働きかけることができる
・判断能力の低い子供も見るメディアは野放しにできない
・ニュース(報道番組)のワイドショー化
・情動的ビジネス:実際に体験することで身体的な感覚や感情を提供。みんな身体性を欲している
・若いうちに無駄なことをしろ。そうしないと無駄でないこともわからない
・知性:目利きして判断する能力。感受性
・世界で生きていくには民族や宗教や歴史を知ることが、重要なマナー
・世界各地で起きている紛争の多くは持てる者と持たざる者の対立。富の不均衡
・価値は差異によって作り出される
・北朝鮮が国交を回復することで”自由のウィルス”がばら撒かれ、独裁国家は崩壊する
・パニックがメディアにより増幅され、匿名の巨大な恐怖の塊となって、非合理的な行動へ走らせる可能性
・徴兵制のせいで韓国は何十年にも渡り疲弊した。人間を消耗させた
・人格に結びつかない幸せはない。どんな不安にも脅かされない心の均衡

-目次-
第1章 「お金」を持っている人が勝ちですか?
第2章 「自由」なのに息苦しいのはなぜですか?
第3章 「仕事」は私たちを幸せにしてくれますか?
第4章 どうしたらいい「友人関係」が作れますか?
第5章 激変する「メディア」にどう対応したらいいの?
第6章 どうしたら「知性」を磨けますか?
第7章 なぜ今「反日」感情が高まっているの?
第8章 今なぜ世界中で「紛争」が起こっているの?
第9章 どうしたら「平和」を守れますか?
第10章 どうしたら「幸せ」になれますか?