読書メモ

・「仏教・神道・儒教集中講座
(井沢 元彦 :著, 徳間書店 \1,500) : 2007.03.17

内容と感想:
 
「ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座」の続編。 前書は我々多くの日本人が理解していない一神教を扱った。世界の過半数がそういう一神教を信ずる人たちである一方、 そうでない人たちも多く存在する。本書では我々日本人には馴染みのある3つの宗教を取り上げている。
 仏教編では仏教の誕生から、その教え、日本への伝来、日本で生まれた様々な宗派、などをやさしく解説している。 章の終わりでは「葬式仏教」と揶揄されるように日本の仏教が危機的状況にあることを指摘している。 どうやら既得権に胡坐をかいて堕落した僧侶を憂いているようだ。 宗教は心の問題だと思うのだが、仏教が、お寺がそういった本来の役割を果たしているのかどうかは私には分からない。 いろんな宗派に属してみるのも自由だし、しないのも自由だ。 ストレスの多い現代、様々な悩みを抱えている人も多いだろうが、それが宗教だけが解決してくれるとは思わないが、 カウンセラーのような立場で関わったり、本来の機能を果たせる場面はあるのかも知れない。
 神道編では初めて古来の神道と明治に創作された国家神道の違いを理解した。キリスト教に影響を受けたとも言える天皇崇拝の一神教的に 強化されたものに変質させられたのが国家神道だったのだ。神道は多神教であることは私にも理解できるが、 西洋列強に対抗するために新たな神道が創作され、それを国民に押し付け、太平洋戦争の敗戦という結果につながった。 政教分離の逆をいってしまったのが原因だ。
 儒教は儒学とも言われるように道徳や政治などを扱ったもので宗教ではないのではないか、とも言われる。 しかし著者は先祖崇拝を基調にしていることから儒教は宗教であるという。天人相関説や易姓革命、徳の高さも証明できるものではないから これは宗教なのだそうだ。しかし宗教的な面の影響は日本には少ないと私は考える。 聖徳太子の十七条憲法にも儒教の影響が見られるように、その頃(飛鳥時代)には日本に伝わってきたようだ。
 本書は特定の宗教を宣伝したり、批難したり押し付けたりするものではない。 世の中には色んな考えがあり、それらを信じる様々な人がいることを認識しましょう、ということ。

○印象的な言葉
・日本人が宗教に疎くなったのは信長が政教分離をしっかりやったから
・ビーフカレーは牛を食べないインドではありえない
・明治以前は神仏習合であった。明治に神道と仏教がきっちり分けられた
・インド哲学、インド原始宗教が仏教のルーツ
・人が食べることに追われている限り哲学やあ芸術、学問は生まれてこない
・唯物論:マルクス。精神などというあやふやなものはなく、物質があるに過ぎない
・キリスト教の「最後の審判」:審判のときまで人間は眠っているだけ。審判を受けて最終的な運命が決まる。永遠の命を保証。
・解脱:輪廻転生の輪から抜け出ること。生きることは苦しみ。輪廻転生では永遠に苦しむことになる。
・富永仲基の大乗非仏説:大乗仏教で釈迦が言っていることは捏造。この説を否定できない。
・大乗仏教は個人が修行するよりも、悟りを開いた仏陀を崇拝し、袖にすがって助かろうというもので、変質している。他力。
・親鸞:極楽に行くことはもう決まっていて、それに対する感謝が念仏
・一遍:阿弥陀様が誓いを立てた時点で我々が往生することは決まっている
・大蔵経、一切経は全部のお経のこと。仏教全集。
・密教:書物で学べるものの中には真理はない。真言とは漢文や中国語に訳されていない元々の言葉
・法華経は仏典の頂点。肝心の悟りを開く方法は書かれていない
・鹿児島では明治維新のときに廃仏毀釈が徹底して行なわれたため、仏教美術に観るべきものが残っていない。島津家の薩摩が率先してやった。
・神道には聖典がないから分かりにくい。基本的な教義が確率されず、神の定義も曖昧、どう信仰すべきか決められていない。
・国学:日本の国の精神、芸術の根源にあるものを研究。本居宣長。
・神道の神とは「必ずしも人間でなくてもよく、極めて優れた特質を持っているもの」。卓越したのもの、異常なもの、も含まれる。
・祭りは神をたたえる儀式、感謝する、慰める、あるいは邪悪なものは祭ってなだめる
・卑弥呼とは人名ではなく単なる称号。「日の巫女」のことだろう
・アジアには祖先神信仰が共通して存在した
・科挙が日本に導入されなかったのは試験的なものを日本人が受け入れられなかったから
・家康は光秀の再来を防ぐために儒学を奨励した。徳川幕府に反乱することは悪という倫理を確立するため。

-目次-
第1部 仏教集中講座―折り紙とビーフカレーの国・日本における仏教の変容
第2部 神道集中講座―「和」と「穢れ」と「言霊」と―神道の無自覚な信徒たる日本人
第3部 儒教集中講座―「儒教の毒」と儒教の国「中国・韓国・北朝鮮」