読書メモ
・「精神科にできること ―脳の医学、心の治療」
(野村 総一郎:著、講談社現代新書 \700) : 2007.04.29
内容と感想:
著者は医科大の精神科の教授。現在の日本の精神医学の弱み、限界、将来について語っている。
第1章では精神障害、心の病気にまつわる過去から現在に至るまでの歴史や、現在の精神医学の状況などを説明。
第2章、第3章では精神障害、心の病気の分類や、それぞれの症状や治療方法などを解説している。
第4章では現在の日本の精神医学の問題・課題を取り上げ、提言もしている。
それらを挙げると以下のようになる:
・精神障害者に対する偏見が彼らを支えにくくしている。人々の真の理解が必要
・医療費の伸びを抑えようとする政府は精神医療は医療費ではなく福祉予算として別に考えるべき(福祉的な面にお金がかかる)
・精神科の看板では偏見があって掛かりにくい(入りにくい)
・精神科の極端に安い医療費。これでは細やかで手作りの医療は実現できない。精神科医を雇う金がない病院は少人数で対応するしかない。過労死寸前。
・医者の実力差。心療内科医には精神科の、精神科医には内科の訓練が必要。バランスのよい研修システムが必要
・病院選び。病院の質を外から評価する方法
脳科学の進化についても述べられているが、第2章によれば「正常者と言われる人の脳機能にも実は多くの歪みがある」そうで、
どこまでが正常で異常かという判断は不可能なようだ。
それよりも精神科医にとっては、患者の悩みを解決し、職場や家庭、地域への適応力をどうやって増すかに関心がある、ということだ。
だから実は多くの人は異常を抱えていながらも本人は気付いていないだけで、それなりに適応できていると考えれば、
ちょっとしたことで適応できなくなる危険・心配があるのと同時に、いつでも復帰もできるのではないかという期待も持てる。
「普通の人」の定義が曖昧なように、人間は人それぞれであり、そういう違いのある人が社会を構成して、
それなりに生活できているのを考えれば、ちょっとこの人は変だな、と思っても自分も変なところがある、とお互いを許せるし、
その原因が脳機能のちょっとした歪みだと思えば、お互い様、それも大した問題でないことに気付く。
しかし問題が大きくなったときは精神科の出番であり、早期発見・早期治療が大切になる。また周囲の人間も偏見を持たず、正しく病気を理解して、
本人が復帰できるように支えていく必要がある。
○印象的な言葉
・遺伝子・ゲノム解析の後に来るのは脳科学。ここ十年の脳科学のものすごい進歩
・精神障害は大昔からある。淘汰された様子はない
・精神障害は人間という種にとってけっして不利な資質とは言えない
・シャーマニズム的な精神療法には時代を超えた普遍性がある
・かつての精神病院は隔離という差別の思想に基づいていた
・脳精神医学VS真理主義精神医学。二つの流れが十分に統合されていない。薬物療法VS精神療法(人間関係重視)
・精神障害は脳の機能の異常。脳の形の異常は多くない
・脳磁図(MEG):脳の働きを目で見る方法
・遺伝子は「病気につながるかも知れない要素」のみを持つ。いくつかの遺伝子が合わさり、環境因子やストレス、生活習慣の問題などが
加わったときに症状が出て「病気」となる
・遺伝子と環境が相俟って脳機能の個性が決まる。それがその人の性格
・10人に1人が一度はうつ病にかかる。脳の感情中枢(大脳辺縁系)の病気。ストレスがきっかけになることが多い。治りやすいが再発率も高い。
全ての病気の中で最も苦痛と言われる。社会全体として取り組むべき重点課題。
・対人恐怖症は日本人特有のノイローゼ
・PTSD(心的外傷後ストレス障害)はまだ研究が始まったばかり。うつ病やその他の不安障害と同時に生じていることが多い
・自律神経失調症:日本だけで用いられる病名。身体症状はいろいろあるが、検査しても異常がない。症状は頑固に続く。
安易にこの病名を使うことの問題はうつ病を見逃すこと
・孤独こそ様々な心身症状を生む培地
・異質なものを異端視しやすい日本人の国民性
・日本では医師は何科であろうと自由に名乗ることができる
-目次-
第1章 精神障害とは何なのか
第2章 精神科の診断を巡って
第3章 精神科の病気
第4章 精神科にどうかかる
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