読書メモ

・「SEの読書術 ―「本質を読む」力を磨く10の哲学
(技術評論社編集部:編、技術評論社 \1,280) : 2007.10.20

内容と感想:
 
SEが仕事を続けていくためには常に新しい情報や技術をウォッチし、必要に応じて吸収していく必要がある。 情報は紙媒体以外にもネットなど至る所に溢れている。その一方で情報収集に使える時間も多くない。 効率よく情報を仕入れて身につけるかが重要になる。 新しい技術は陳腐化するのも速い。集めた情報を成果につなげるスピードも求められる。
 本書は読書術というか情報収集法をテーマにした著名な10人のSEへのインタビュー集である。短時間で読める。 勿論、インタビューに登場された方々は読書を重視している。 確かにネットでも得られる情報は多いが、登場される方々に共通しているのはネットと本を意識して使い分けていることだ。 ネットだけに偏ることはない。それぞれに特性があるということだ。つまり書き手の意識、スタンスが違う。 この点は私とも認識が合っていた。ブログなんかはとりあえず書くことが優先されるから、いい加減な部分も多い。最新情報を素早く読む場合には最適だが。
 柴田氏は本も100%正しいと思わないで読む(訳書には誤訳も多いらしい)、と言うが出版前にはレビューされていることや、 改版のたびに誤りが訂正されることから、本のほうが信頼が置けることは確かだ。
 二上氏へのインタビューでは、本に限らず仕様書などの文書を「ほかの人が読む」ことを意識できれば、(別の解釈をされない)よい文章を書ける、 というのが出てくるが、これは読書(本を読む側)とは逆の立場になることであり、これも技術者には必要なスキルである。 よい文章を多く読むことで書くスキルも磨かれるはずだ。
 山崎氏は技術書に書いてあることをただやってみました、というだけでは十分ではなく、自分でやって、感じて、納得していくことが必要だと言っている。 言語系の技術書にはサンプルコードがあって自分で実際に動かして試すことが出来る。これもプログラミングの楽しみの一つであるが、 それが身につくか、ものになるかどうかは本質を掴んで、更に応用、アレンジしていけるかどうかにかかっている。
 本書はSEをターゲットに書かれているが、荒井氏や山崎氏らは「技術バカじゃだめ、外の世界も知れ」という。 そのためには技術書以外にも触れることの大切さに語っている。本書では著名な本も紹介されているが、その中には実は技術書でないものが多い。 ソフトウエア開発もビジネスであるから独りよがりの技術屋では足りない。「お客にとっていいもの、社会にどう貢献しているか」が見えないと せっかく作ったものも生きない。これは何もSEに限ったことではないだろう。本書は単なる読書術を語るだけでなく、 同じ業界でSEとして働く人たちが考えていること、哲学に触れることが出来る。

○印象的な言葉
・著名な本、多くの人がいいと言う本、信頼している人がいいと言う本、バイブル・原典と言われる本を読む。
・ネットでは局部的な情報しか得られない
・技術系の本では解答をえるためのアプローチを覚えるようにする。応用がきく
・自分が考えるようなことは、前の人が大体考えている
・素人が新しい発想をすることもある
・本は基礎力アップのため
・知識がない分野は一番売れている入門書を読む。まんべんなく情報量が多く、定番のもの
・専門誌や業界誌には現場の空気感がある
・量を読むことで嗅覚がつく。よしあしを見る目が磨かれる
・まるまる一冊通読する経験も大事
・エンジニアは自分がやっていることの上下(使う側の視点と基盤技術の視点)を理解すべき
・自分が感じるところを深く掘る。その縦の強さが横の強さにつながる
・外の世界との交流もよいが、まずは蓄積
・世の中が求めていることと、自分が楽しいと思うことの接点をいかにうまく作るか
・いろんな本に引用されるのがよい本
・(設計、実装も)綺麗なものは使いやすくて長持ちする。
・いいもの、本物を見る。古典を知る
・キャパシティを広げるには溢れてもいいから一回突っ込んでみる
・自分のモデル(見本)を探すために本にあたる

-目次-
後藤大地 ―事実から本質を見抜く
原田洋子 ―原点から読んでいく
山本啓二 ―多くを取り入れ視野を広げる
平鍋健児 ―好きなことを人につなげる
浅海智晴 ―自分のスタイルを持つ
柴田芳樹 ―基礎を固めて継続する
荒井玲子 ―「本物」だけを読む
二上貴夫 ―外の世界に目を向ける
山崎敏 ―知識と実践をループさせる
萩本順三 ―理想と現実をつなげる