読書メモ

・「搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た!
(阿部 真大:著、集英社新書 \640) : 2007.06.17

内容と感想:
 
社会学を専攻する大学院生の著者が「現場で見た」若者の職場の実態。「参与観察」という調査手法を使って実際に著者が バイク便の現場に入り込み体験し、調査・分析したのが本書。 調査対象はバイク便という極、限られた業種であるが、そこから現在の不安定雇用の時代に生きる若者たちの世代がもつ普遍的な感覚を 見出している。著者はバイク便ライダーの世界は著者自身が属する「世代の問題を凝縮したような世界」との認識だ。
 「2007年問題」と言われるように2007年からは団塊世代がぞくぞくと定年を迎える。著者の世代はその団塊世代の子供「団塊ジュニア」の世代だ。 ニートや引きこもりが社会問題として取り上げられているが、その一方で「働きすぎ」「やる気がありすぎ」で「ワーカホリック」になっている 若者も多く、それが命にもかかわる大きな問題であることを著者は提起している。
 「流動化する労働市場」(フレキシブルな労働市場)は不安定な就業形態(非正規雇用)を生んでいる。仮にやりたい仕事であっても、それが不安定で未来のない仕事である場合、 そこに没入することは危険であると警告する。勿論、それは若者達本人だけの問題ではなく、そういう雰囲気を醸成している職場、 そういう労働市場を生み出した政界・財界の問題でもある。
 バイク便ライダーの仲間達と称して、トラック運転手、ケアワーカー、SE(システム・エンジニア)といった職種も収入が不安定できついという点で、 共通点を見出している。SEが挙げられていたことで、業界にいる私自身はどきっとさせられたと同時に、一方でやっぱりかとの確信もあった。 本書を手に取ったのもタイトルが示すように現在の労働環境は若者に優しくない、と感じていたからである。 ホリエモンもそこを指摘し、上の世代から若者たちが搾取されるような会社に入ることを疑問視し、多くの支持を得たのだと思う。
 本書の大半はバイク便の職場の生々しいリアルなレポートであり、一種のノンフィクションの面白さがあるが、 そんな職場で若者達が「バイクのかっこよさ」から徐々に離れ、別の新たな価値観(機能性重視)を創出していく。そしてその結果、ワーカホリックになっていく、 というドラマでもある。しかし全ての若者が同じ道を辿るわけではなく、「かっこよさ」から離れない人はそのままであり、一方で別の美意識をもつよう変化する人、 人それぞれである。著者は前者の方だったらしい。
 もともとやりたいこと、趣味として始めた仕事が中毒性のあるものになり、死を招くことすらあると言う(事故死、過労死)。それはバイク便という身体を張った、危険な業種という特殊性もあるが。 「好きなこと(仕事)で死ぬ」というヒロイックな物語を自らが勝手に描き、それによって事故の恐怖をかき消そうとし、それが身体的負担を麻痺すらさせてしまっているのだ。 その結果・・・。
 本書のポイントは若者達が自分で自分の首を絞め続けている、という上記のような考え方、自分たちにかけた罠を明らかにしたことが一つある。 そしてそういう価値観を生み出す職場のメカニズム(世代内での競争を誘発するトリック)の問題点にある。 その上で著者が提言するのは、教育や法整備を含めたセーフティネットの充実であり、以下のようなものを挙げている:
・雇用の安定性を見分ける力を培う教育
・リスクも考え合わせることができるような知識
・世代内での競争ではなく、真の戦うべき相手を見極める(世代間対立ではない)
・不安をもとに連帯する、足元を固めるために協力しあう

○印象的な言葉
・「やりたいこと志向」がなかなか仕事を始められない若者(ニート、引きこもり)を生む
・自己実現系ワーカホリック:やりたいことを仕事にし、それに没入していく
・請負契約で働く運送業従事者の多くは雇い人がいない自営業主(ひとり親方)で、労働関係法の適用はなく、労災もおりない。最低賃金も保障されない
→ 実質的に雇用契約と認められる場合、労働法が適用される
・若年労働者が常に供給される必要のある「使い捨て」の職場、職場の自浄能力
・若年労働者に対する「たかり」
・夢を見せられ、働かされすぎ、使い捨てられる若者
・素直で好戦的な団塊ジュニア。年上を疑わない世代
・ニューファミリー:団塊世代が目指した家族の姿。子供を一人の人間として扱う。親は権威を振りかざさない
・「苦労は買ってでもする」「人並み以上に働きたい」と思う新入社員が増加している
・ネット時代だから可能な新しい労働組合のかたち

-目次-
第1章 いま、若者の職場があぶない!
第2章 仕事にはまるライダーたち
第3章 終わりは突然やってくる
第4章 職場のトリック
最終章 目覚めよ!雑草世代 ―リスク管理と連帯