読書メモ

・「Web2.0のビジネスルール
(小川 浩、後藤 康成:著、MYCOM新書 \780) : 2007.12.01

内容と感想:
 
Web2.0ビジネスを実践する方法論や開発アプローチを解説した本。 Web2.0的ビジネスに関わっている2人の著者が経験から得たノウハウを15のルールとしてまとめている。 序章から第2章までは小川氏が、第3章以降は後藤氏が担当。
 これからイノベーションを起こすようなビジネスを提供していくには、「エンジニアはソフトウエアを開発するのではなく、 ビジネスを開発する」という意識が必要と第3章に書かれているのは共感できる。 エンジニアはただプログラミングしているだけではイノベーションは起こせないのだ。市場のニーズを知り、ビジネスを理解してこそ 価値ある良いソフトウエア、サービスを創造できるということを日本のエンジニアはもっと認識していく必要があるだろう。 これは何もWeb2.0的ビジネスに限ったことではないと思う。プログラミングなど下流の作業は海外にアウトソーシングされていく時代だ。
 私が最もWeb2.0的な環境の変化と感じるのは、第4章にもあるように「ユーザを信頼すること」、性善説が前提になっている点だ。 しかもその仕組みが有効に機能している。ユーザがコンテンツを作り出し、発信する仕組み(CGMと略される)になり、 ユーザ自身がコンテンツの検閲者にもなり、邪悪なコンテンツを排除することが出来る。 WikiPediaが良い例である。誰でも情報発信できるようになったことで個人情報漏洩や人権侵害、差別的表現などの問題も依然としてあるが、 通報システムなどの充実やNGワード検索技術などで、そういったものは速やかに排除されていくことだろう。 そういう後ろ向きな情報発信をしても何の得にもならない、リスクも高く、時間も無駄と発信者が思うようになれば、それは抑止力になる。 国家の防衛力保有と同じだ。
 また、Web2.0ビジネスでは「データ」こそが命。ユーザは高速なCPU搭載のPCが欲しいのではなく、有用なデータを望んでいるのだ。 競馬好きの私としてはJRAにも膨大なレース情報にアクセス出来るWebサービスAPIを公開してもらいたいもの。 JRAはユーザにとって価値のあるデータを持っているのだ。これは株価情報などにも共通して言えることだ。 取引所がデータを提供するのがよいのか、証券会社などが独自に加工して提供するのがよいのか何とも言えない。 老舗など昔から膨大な価値あるデータを蓄積してきた企業や団体は、データ公開により意外な商機が到来するかも知れない。 勿論、デジタル化されたデータでないと困るが。

○印象的な言葉
・グーグルが作ったルールに振り回され、グーグルが仕掛けたゲームに巻き込まれている
・マッシュアップ:もともとはヒップホップの手法から来た
・速い開発力。速さと質を競うゲーム。優秀なエンジニアとそれを支援する組織。優れた環境
・グーグルはプラットフォームに徹している。一貫した存在価値
・データインサイド:CPUよりもユーザに有用、貴重なデータを持っていることが重要な時代
・マッシュアップされる側に回ることが秘訣
・SaaS:個々のサービスをコンポーネントとして提供。それぞれが連携すること考慮。SOA(サービス志向アーキテクチャ)。
・新しいマネージメントは年齢ではなく認識の違いに依存する
・Web2.0ビジネス:遊びの要素。面白いからやるというノリ。収益への執着が見え始めるとNG
・Web2.0ビジネスのエグジットモデル:短期間にクールなサービスを作り、話題を集め、大企業に買収してもらう。上場(IPO)に伴う社会的責任を避ける。
・広告は既存ブランド防衛のための手段。新ブランド立ち上げに必要なのは広報(PR)。事実を正しく伝えるだけ。 メディアとの友好的関係の構築と、継続して新しいニュースを提供していくことが大事。
・既存のブランドを何の工夫なしにWebに持ち込んでも通用しない
・ブランドとはマインドシェア:「〜と言えばXX」。双方向で等式が成り立つ。
・マーケットイン:市場の動向を調査した上で、顧客の視点で商品を開発。カスタマイズを前提としたソフトウエアなど。
・アジャイル開発:仕様変更を柔軟に受け入れられる体制。柔軟な軌道修正。フラットな環境。
・グーグルは20万台のLinuxサーバで構成
・hackabillity:WebサービスAPIを公開し、ユーザ自身がプログラミングしてインターネットアプリケーションと連携させる。
・プラグイン・プログラミングの推進
・コンテンツビジネス:必要なコンテンツに短時間で辿り着けること、常に新しいコンテンツを提供し続けることが必要。労働集約的になりかねない。
・ブログ・データを分析し、マーケティングに活かす
・WikiPediaのカルチャーはオープンソース・プロジェクトのカルチャーに似ている。「間違いを直しやすくする」設計思想。
・大量で良質のユーザが集まるサービス。滞留時間、再訪問率、ユーザ当たりページビューで測る。
・クリティカルマス:一定のユーザ数を超えると急激に増加。その後は自律的にユーザが増えていく。 トラフィックが増加し出した後に収益が追随するため、収益が上がるまでは最初は低コストでサービスを運用する必要がある。
・ユーザ間でヘルプデスクする仕組みはサービス提供者にとっては助かる仕組み

-目次-
序章 Web2.0とは何か
第1章 事業創造編
第2章 ブランディング編
第3章 開発モデル編
第4章 オペレーション編