読書メモ

・「ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵
(トム・デマルコ、ティモシー・リスター:著、日経BP社 \2,200) : 2007.10.07

内容と感想:
 
初版が出たのが1987年(日本語訳は1989年)。私がこの業界に入る前の話だ。この手の本としては異例のベストセラーとなった。 1998年に出た第2版である本書(日本語訳は2001年)では第Y部が追加されている。
 ソフトウエア開発における「チーム」について書かれた本。 開発プロジェクトの管理者は必読の書である。 もしあなたが最初から管理者だったなら絶対に読む必要がある。 良くも悪くも一プログラマーから管理者へ移った方は立場が変わるが、管理される側にいたことがあるだけに どんなチームが良いか知っているだけに(悲しいことに良くないチームばかりだった可能性もある)理解しやすいだろう。 管理者にやって欲しいこと・欲しくないことがわかっているから。
 「まえがき」では「素晴らしい仕事の一部を担当することは全部を担当するより素晴らしい」という法則について述べている。 それはうまく組織されたチーム、協調性のあるプロジェクトの一員となることで実感できると言う。 何もこれはソフトウエア開発に限ったことではなく、多くの分野のプロジェクトで言えることであろう。 それを実感できることは野球のワールドシリーズやサッカーのワールドカップの優勝チームのメンバーにいるのと 同じくらいに幸せなことだ。
 プロジェクトに失敗はつき物だが、その失敗の原因は「人に関する問題」と掲げ、本書のテーマとしている。 ソフトウエア開発はハイテクを扱っているから失敗の原因は”技術”にあると思われがちだが、実は技術以前にある。 難しい技術が全く要らないプロジェクト、ごくありふれたプロジェクトであっても時々失敗するのだ。 ここで言う「人に関する問題」とは勘のいい人はピンとくるはずだが、意思疎通の問題や、 管理者や顧客への幻滅感、意欲の欠如、退職率の高さなどである。 そういった問題の様々な分析やアドバイスが本書には書かれている。
 「チーム」について書かれた本であるから勿論、チームを壊す禁じ手については必読だ。 第28章では「チーム殺し」をもたらしかねない管理的な行為として、
・目標管理
・大きな功績を成し遂げた特定の従業員の表彰、賞、ボーナス
を挙げている。どこの会社でもやっていそうなことなのだが・・?
 また、第29章には「プロセス改善はよいことだが、プロセス改善プログラムはよくないか、少なくともよくないことが多い。」とある。 (CMMのような)プロセス改善活動が組織として制度化されることの危険性を述べているのだが、 その活動のダークサイドとして「低いリスク、利益も低いプロジェクトを安全にこなすように誘惑する」ことを挙げている。 私の勤務先でも会社をあげて取り組んでいるのだが、(世間体を気にして)組織的な点数稼ぎを選ぶか、リスクのある挑戦的な価値あるプロジェクトを選ぶかは悩ましいところ。 しかし仕事を選べないのがサラリーマンの現実。与えられた仕事をこなしていく必要がある。結局、つまらない仕事はヤル気をなくさせるということだ。 そしてヤル気は品質や生産性に大きく影響する。 プロセス改善プログラムを私は否定するものではないが、目的と手段を履き違えないように注意する必要がある。

○印象的な言葉
・チーム殺しの技「施設監視本部」
・管理者は人を交換可能な部品と扱う失敗をしがち
・大きなプロジェクトほど失敗する可能性が高い
・管理上の能力や素質を見極めてから管理者にする企業はほとんどない
・我々の仕事はハイテクのほんの一部。他人の研究成果を応用しているだけ
・根本的に欠陥のある設計は一から作り直した方がうまくいく
・いいプロジェクトのまとめ役はチーム内で「触媒」の役割
・仕事以外の時間(ブレーンストーミング、新技法の調査、仕事の改良、専門書を読む、教育など)も必要
・マーケットは品質を気にしない。ユーザの品質意識は低い
・企業の実績には社風が重要に関係する
・管理者の役割は人に働く気にさせること
・オフィス環境整備の担当部署は生産性という問題を理解しようとする姿勢がない
・プログラマーの個人差:プログラミング言語や経験年数と生産性には相関関係はない。
・プログラマーの能力差、企業自体の生産性にも10倍の開きがある
・プログラミングはフロー状態が理想。没頭し、瞑想状態。幸福感。時間感覚もなくなる。調子に乗ることが大切。
・途切れた精神集中を元に戻すのに15分かかる
・プログラミングには論理的思考を司る左脳が重要。音楽のような感覚的なものは右脳。独創的なヒラメキなど思考の飛躍は右脳の機能。 右脳が音楽で占領されればヒラメキが起こる余地はない。
・屋外施設(テラスなど)のあるオフィス
・チームの誇りの対象は成果
・ずっと勤め続けることが期待されてる感覚
・生涯教育プログラムの充実
・挑戦はチームを一つにまとめる道具
・結束したチーム:アイデンティティ感覚。他とは違うユニークな集団。健康的。自信たっぷり、心のこもった交流。仲間同士のコーチング
・最良の戦術は部下を信頼すること
・管理者層には結束したチームはありえない
・スカンクワーク・プロジェクト:上層部には知られないような隠れた場所で進む
・仕事を分割し、一つ一つが完成感を味わえるようにする。仕事を区切る打ち上げ
・類似の問題を自然界ではどう解決しているのか?目的とは反対のことを達成するにはどうすべきか?
・「自由電子」な人:自立した人、フリーランサー
・ポスターなど「動機付けのアクセサリー」は十分にインチキ臭い。健全な組織を確実にダメにする
・標準化の偉大な勝利は標準インターフェースによる成功
・知的産業界の会社は人に対する投資が企業の将来に最も大きく影響する
・コミュニティ作りは創造であり芸術

-目次-
第T部 人材を活用する
第U部 オフィス環境と生産性
第V章 人材を揃える
第W部 生産性の高いチームを育てる
第X部 きっとそこは楽しいところ
第Y部 ピープルウエアの小さな続編