読書メモ

・「ONとOFF
(出井 伸之:著、新潮文庫  \476) : 2007.09.23

内容と感想:
 
ソニーグループの社内向けホームページに設けられていたCEO時代の出井氏の個人コーナーをもとに構成したエッセイ集。 タイトルの”ON”とは仕事の世界、”OFF”とは仕事とは離れた世界を表現している。 本書では前半が著者のONの世界、後半がOFFの世界について語られている。
 「あとがき」で著者はこれからは「会社の仕事とは関係なく外の世界とコミュニケートする「裏番組」や趣味が必要」、つまり”OFF”の世界が必要と書いている。 インターネットなどで個人が得られる情報が飛躍的に増え、専門家と素人の差が縮まっていることから、 これからの知識社会で必要となる知識の根源が「興味」であり、それをOFFの世界で蓄積し、ONの世界にも還流させていくことで 「よい循環」が生まれるとも言っている。
 社長が社内のHPにプライベートなことも含めて書いていたことは意外であったが、「あとがき」によれば、「OFFの私」を 知ってもらうことで、ONにおいても深いコミュニケーションが可能になると考えたようだ。 その「OFFの世界」の話題ではワイン、ゴルフ、車といったものが多い印象。ワイン通でゴルフの腕前も相当のものらしい。
 巻末では日産のカルロス・ゴーン氏が解説文を寄せている。そこではソニーを称して、 「革新性、技術力、マーケティングの専門性で名高く、世界最強ブランドの一つ。日本文化を色濃く備えたグローバル企業。 常に自らを改革し、ビジネス・カルチャーを変革している」。
 グローバル企業のCEOだったこともあり、世界の著名人との交流も多く、いろんな大物が話題に登場する。 その中でも目下、アメリカ大統領候補を目指すヒラリー・クリントンを称して「カリスマ性、パワフル、スマート、威厳があり、なおかつ女性らしい」 とも言っている。

○印象的な言葉
・次々起こる予測不可能な環境変化の対応に終始してしまわないか
・常に自己革新を繰り返して輝かしい企業であり続けたい
・「トルネード経営」が定義する6つの製品ライフサイクル:初期市場、カズム(断層)、ボーリングレーン、トルネード、メインストリートの時期、商品生命の終わり。
 初期市場:少数の熱狂的な技術愛好者とビジョン提唱者により形成される。カズム:大衆に受け入れられる前に熱狂が冷める。 ボーリングレーン:ニッチ戦略。。トルネード:誰も止められない勢いでビジネスが発展。
・中部地方は一割経済圏(日本のGDPの一割。東京は3割)。自動車、工作機械、航空機など(アトム産業)の生産は4割以上。日本製造業の基点。
・東京はモノを作らず消費する
・ダボス会議:影のサミット。世界の政財界の大物が参加。「世界を如何にしてよくするか」を話し合う
・クリエーターの集団
・「利己的な遺伝子」:遺伝子が我々(人など)を利用して遺伝子を増殖させている
・「レクサスとオリーブの木」:レクサスはグローバリゼーションのダイナミズムの象徴、オリーブの木はアイデンティティや文化の象徴。双方のバランスが必要
・知識社会(P.ドラッカー):職業固有の専門知識。より専門化され、ニッチな分野に特化していく
・日本の「失われた10年」の根源には工業化社会から知識社会への変化に対応できなかったことがある
・共通のビジョンを示すリーダーであるとともに、専門家の意見に耳を傾けられること
・何か新しいものに出会うわくわくする気持ち。未知のものに素直に感動する気持ち
・世界は相互依存な状態にあり、一地域で起きる事件が世界の隅々まで影響を及ぼす
・9.11事件:地球全体に蓄積された歪が一挙に吹き出した結果。アメリカの覇権主義への批判と反省
・車が人とともに成長する。車とドライバーとのコミュニケーション
・ホンモノの強み、際立つ個性
・新しい情報を発信し続けることが求心力につながる
・長期的なビジョンをもつ自信、足元の業績をしっかり固めていく自信の両方
・指導者の理念が問われる時期
・社外取締役の役割とは?短い時間で部外者が企業の経営状態を精査できるのか?
・仕事に必要なのは情熱、粘り強さ、一貫性
・グラミー賞に代表されるアメリカの音楽は大人向け。成熟したアーティスト、文化、業界。若者との間にギャップも?
・1stランナー:クリエイティブな失敗やリスクテイクを恐れず自己発見に努める人たち。2ndランナー:協調性や組織プレーを重んじ、自己犠牲を厭わない
・個人へのパワーシフト、個人の個性や創造性が重要になる
・ドライブの途中、ガソリンスタンドで気分に合わせて音楽をダウンロード
・クリエイティブな世界では民主的ではまくいかない。強烈な個性をもつリーダーが信じる方向性を突き進んで、そこから何かが生まれる

-目次-
1 Backstage of Business ―トップビジネスの舞台裏
2 Style of Life ―わたしの流儀