読書メモ

・「混迷の時代に ―ネットワーク社会の遠心力・求心力
(出井 伸之 :著、WAC出版部 \1,600) : 2007.06.16

内容と感想:
 
出井氏がソニー会長兼CEO時代に出した本。 経済、金融、歴史、惑星物理学、音楽、モータリゼーションといった異なる分野の識者との対談集。 1999年、2000年のもので時期は古いが当時から今、何が変わったか変わらなかったが分かり、別の意味でも面白かった。 対談の様子はスカパーのTV番組にも放送されていたようで、出井氏がインタビュアーというかホスト役の番組だったようだ。
 ネット社会の発達で個人へのパワーシフトが進んでいると言われる。 それがサブタイトルにもある「遠心力」となって、従来の組織や国家の存在意義を問うようになってきた、 と著者は認識されている。何に求心力を求めるか難しくなる。無秩序な世界になるか、自立した個人が主体の社会になるか?
 「遠心力」という言葉は松井氏との対談で出てくるのだが、ネット社会では「あらゆる構造や組織はビッグバンの状態」 であるそうで、「ものの移動が速くなり、構造の寿命が短くなる」と言っている。これを著者はP・ドラッカーの予測「企業の寿命が短くなる」 に一致すると捉えている。 物理学で言えば「温度が高い」状態。温度が高くなるとエントロピーが増大し、拡散する。構造がなくなり均質化していく。 逆に冷えると構造が生まれ、分化する。人間界で言えばネット社会の発達で情報が広く行き渡り(拡散、均質化)、情報格差が小さくなり、みなが恩恵を受ける。 しかし情報としての価値は下がる。情報をビジネスにしている者にとっては、そこのところを考えることが差別化(分化)のヒントになるのではないか。
 私が一番興味を持ったのは、その松井氏との対談であった。宇宙レベル、地球レベルの話でスケールが大きい。 長い宇宙の歴史から見たら人類の歴史なんて一瞬の出来事。人間たちが小さなことで争っているのが馬鹿に見える。 地球の寿命から言えば丁度折り返し地点にきているそうだ。地球の発展時期から、これからは衰退に向かう。 最期は地球が生まれたときと同じドロドロの状態に戻るそうだ。そんな先まで地球上では人類は生き延びられないだろうが、 生き延びるためにはもっと早い時期に地球外へ出て行くしかないだろう。
 地球温暖化が叫ばれている。確かに異常気象も多く、世界各地で被害も出ているが松井氏は目から鱗の指摘をされている。 巷では声高にCO2の増加が全ての原因と言うが、現在の地球大気中のCO2の量は歴史上でも一番低いという。実は人間が関与しないと どんどんCO2は減り、10分の1まで減るという。するとどうなるか?植物は生きられなくなる、現在は地球の外から入る余分な 太陽エネルギーをCO2が遮ってくれているが、地表に届くようになり、そのために地表温度が上がり、海が蒸発する。 CO2の温室効果で大気温度が上昇して現象とは別のプロセスである。どちらがダメージが大きいのかは示されていないが そう言われると一概にもCO2を出すのが悪いとも言えないのではと思えてくる。

○印象的な言葉
・21世紀は中世に戻る。ボーダレスで都市が中心の経済圏
・「会う」とは一瞬のうちに相手との距離を測る作業
・異分子を入れる自己革新。日本は同質国家
・日本は先進国唯一の多神教。それが強みになる。かつてのローマ帝国も多神教。
・製造業は全てIT産業になる
・価格は市場が決める
・「移動の手段」を超えるクルマ
・「拡散」する時代
・均質化を防ぐ「分化」
・(会社)成功の秘訣:運とタイミング、適切な人材
・競争が激しくとも、産業の幅を広げることにつながれば健全
・世界中のポジティブでクレイジーな考え方をする人が移民となりアメリカへ渡った。DNAもポジティブ
・DNAが与える影響は50%に過ぎない。残りは教育や環境に影響される
・構造変化は社会的ニーズを先取りする企業家たちの創造的破壊により引き起こされる。
・民主的な勢力:需給のギャップが大きくなったときに、それを埋め合わせる努力をする人々。一般人の不満が高まり、先進的企業が適応する。
・「業界」を経済人が意識しすぎている
・リーダーはオーケストラの指揮者。危機の時は陣頭指揮を取り、平時には共に進むだけ
・歴史は経済が先に興隆する。必要に迫られて自動的に個々の力が競い合う
・経済、政治が疲労して機能しなくなると自然に文化国家になる。経済はよくても政治が成熟せずに文化国家になれなかった民族は多い
・ヨーロッパ式社会民主主義:自由競争は維持しつつ敗者復活戦も機能させる
・アメリカのエネルギーは貧富の差から生まれる
・ローマ人は政治と安全保障とインフラだけをやり、あとは被征服民族の得意な人に任せた
・変化をチャンスと捉える
・タダでばらまくネット型のビジネスモデルでお金を取るには”信用”
・遺伝情報の95%はジャンク、生きていくのに必要でない情報。進化の過程のいろいろな試行錯誤が全部入っている
・ユニークさ、創造性
・日本の現状の中でのんびりビジネスをしていては世界から取り残される。日本にいること自体が危険
・人間は二本の足で立つようになって脳の容量が増えた
・進化論よりも分化論
・環境に適応しすぎてはいけない。それ意外の環境で生きられなくなる
・企業も最後の勝負に必要なのは個性。合議制でやっていると「個」が出ない

-目次-
トップランナーが語るIT革命 - 孫正義、スコット・マクニーリ
“ドッグイヤー”の企業像 - 宮内義彦、中谷巌
ローマに学ぶ - 塩野七生
コンテンツのゆくえ - 坂本龍一
ネットワークの未来 - 孫正義、スコット・マクニーリ
クルマとITの融合 - 鈴木正文
人間圏のビッグバン - 松井孝典
グローバル時代の「個」 - 小沢征爾
21世紀のソニー - 大賀典雄