読書メモ

・「格差社会の結末 〜富裕層の傲慢・貧困層の怠慢
(中野 雅至:著、ソフトバンク新書 \760) : 2007.04.08

内容と感想:
 
いまや「格差問題」は政治の最重要課題の一つであり、国民の関心も高い。 本書で扱っている格差は「所得(賃金)格差」である。 成果主義による正社員間の賃金格差や、正社員と非正社員との格差、 (フリーターやニートと正社員などの)若年層の格差などの存在が指摘されている。 また公共事業の大幅カットで地域間格差も拡大した。 その原因として自由競争、規制緩和、実力主義などの導入が挙げられる。
 日本政府は多くを市場に委ねる「市場(原理)主義」政策をとり、「小さな政府」を目指した。 その結果、企業はリストラを進め、景気は回復に向かっている。その一方で労働者の労働条件が切り下がり、不安定な雇用も広がった。 企業の責任は重い。
 親の格差が子供の教育環境にも影響すると言われ、格差が固定化することを心配する声も多い。 サブタイトルの「富裕層の傲慢・貧困層の怠慢」というのは格差の両極にいる両者の態度がそうあり続けた場合は、 日本国民の多くは格差を容認できなくなるだろう、ということを意味する。 富裕層には格差是正のためにそれ相応の負担が求められ、貧困層はそこから抜け出す努力が求められる。 しかし富裕層の負担や貧困層の努力にも限界があり、 格差是正のためには富裕層・中間層・貧困層を問わず個人、政府、企業の三者が「各自なりの一定の義務を負う」社会となる必要があると著者は言う。
 不平等な労働環境にある若年層や女性を救うためにも、若年者の能力開発、子育てしやすい環境の整備が求められている(ワークフェア)。
 本書の中で著者は格差是正策を提案しているが、その中でも大胆なものは以下のような企業の負担を求めている点だ。
 1つは「非正社員を使えないようにする、派遣法の廃止で不安定な雇用をなくす」というもので、もう1つは「非正社員の解雇規制を強化」というものだが、 2つ目は実現性は低いとして、もう1つ別の 「非正社員の労働条件の改善(同一労働同一賃金、社会保険、雇用保険の充実)」というオランダモデルを掲げる。 しかしそのためには、 正社員と労働組合の覚悟が必要である。非正社員の待遇改善の身代わりに「自分達の労働条件の低下」を受け入れるということだ。 社会をよくしていきたいのなら、個々人が他人事ではなく自分の問題として捉えることが求められる。
 最終章で「信頼(トラスト)」という言葉が出てくる。トラストは社会インフラだと言う。 そのトラストが揺らいでいることが今の日本が抱える様々な問題の根っこにあるのではないか? 「お互いが信頼できない社会は瓦解する、相互に支え合う意味がない」のだそうだ。 まずは地域という身近なところからしかトラストの再生はできないだろうとも言っている。

○印象的な言葉
・格差を見るには「職業威信」「学歴威信」「金銭(所得)」の3つを扱うことが多い
・ジニ係数が1に近づけば不平等感が高まり、一定の値を超えると社会が不安定化する
・貯蓄ゼロ世帯の増加。貧困率の高さ、生活保護世帯の増加、就学援助児童・生徒の増加、無保険者の増加、自殺者の増加
・政府の大きさは「規制、予算規模、公務員数、所得再配分」で判断できる。今の日本は十分に「小さい政府」
・今回の景気回復は構造改革の結果ではない。中国経済の動向や製造業のリストラ努力によるもの。日本経済を救ったのは旧来型の製造業。リストラ景気
・小泉政権の最大の功績は不良債権処理
・成果主義では思ったほどの差をつけられない
・手厚すぎる欧州の雇用政策の失敗
・民主主義の基本理念は「平等」、資本主義の基本理念は「自由」。水と油。世界的潮流として「自由」が「平等」より尊重されるように
・北欧の高負担高福祉国家、米国の低負担低福祉、日本は中負担中福祉
・富裕層は常に自分自身の行動に気をつけなければならない。人格、社会貢献(社会にどれだけの富をもたらしたか)
・尊敬される産業の基準:技術とグローバル
・富裕層の税率は独仏に比べ低い。社会保険料が応能負担でない。
・国民は公務員叩き、役所叩きで憂さ晴らし。マスコミも煽る
・財政赤字の要因の一つはバブル後に繰り返された誤った景気対策。国民はゼネコンと族議員のツケを払わされている
・外資による国の乗っ取りを招いたニュージーランド
・働くことで福祉とする
・日本では大きな決断を下すのに15年を要す(キッシンジャー)。日本の改革は15年周期
・法人税を払っているのは一部の企業にすぎない。全体で0.8%の法人が法人税の7割を支払う
・相続税の引き上げはコンセンサスを築きやすい。格差固定の防止につながる
・日本の消費税は低い。福祉目的に限定するのが税率アップのコンセンサスを得やすい
・子供は社会の共有財産
・先進国の中で我が国の教育予算は最も貧困な部類。教育という国家の根幹に関わることにお金を惜しんでいる
・日本企業の求める人材や能力は常に漠然としている。どういう能力や資格が必要なのか分からない
・若年無業者の放置は社会的損失が大きい
・成功するまでやり抜けば失敗という言葉はない

-目次-
第1章 格差社会は「政災」か、それとも「天災」か
第2章 本当に小泉政権は格差拡大の真犯人なのか
第3章 「格差容認」から「格差への怒り」に変わるXデーの条件とは
第4章 富裕層は追いつめられるのか ―「小さな政府路線」の持続性
第5章 格差社会への対応としてどのような政策が実行されるのか
第6章 「経済の法則」と「社会の法則」の切り分けを ―日本社会に信頼関係を再び