読書メモ
・「人物をつくる ―真の経営者に求められるもの」
(北尾 吉孝:著、PHP研究所 \1,400) : 2007.07.01
内容と感想:
タイトルの「人物」とは単に人間のことを指すのではなく、人柄・能力などの優れた人のことで、「なかなかの人物」のように
書くと分かるだろう。
著者はSBIホールディングスのCEOであるが、急成長するSBIグループを成長、発展させていくための課題が、
独自の「強い企業文化」の創造にあると考え、他者と区別化する上で次の3つの点を自社の企業文化の要素と考えた。
・高い倫理的価値観
・イノベーター(革新者):既成概念や既得権を有するエスタブリッシュメントとも戦う勇気
・生き甲斐、働き甲斐
これらを満たすためには高い精神と思想が必要であり、それらを全社員が身につけるために著者は社員に向かって
「人間学」の講話を始めた。本書はその講話をまとめた本である。
著者は中国古典を始め中村天風、松下幸之助、安岡正篤といった人たちの言葉にも影響を受けてきたと言う。
そして毎朝毎晩、古典にある「地勢坤なり。君子は以て厚徳載物」という言葉を読み、日々反省をするそうだ。。
これは「君子はあらゆるものを包容していくような徳を身につけることが大事」という意味で、
まさに著者が目指している境地なのであろう。
社員全てが「人物」となることを望んで講話をされていると同時に、グループ会社のそれぞれの経営者たちの人間的成長を要求している。
本書もどちらかといえば経営者、指導者の人間性を高めることを目的に書かれている。
「会社の成長を決めるのは経営者の器。その器は大きくすることができる」と言っているようにリーダーたる者、常に自らをも鍛えていくことが大事なのである。
メディアでもよく報道されるように会社やトップの不祥事が耐えない。
「はじめに」でも書かれているように現在の日本の精神的な荒廃が企業トップにも及んでいるということだろう。
株主や消費者の目は年々厳しくなっている。油断して足元をすくわれないよう、社員を路頭に迷わせることがないよう、
高い倫理観を持ち、自らを律することが求められる。それだけの報酬ももらっているだろうから。
○印象的な言葉
・松下幸之助は偉大なる事業を残し、多くの就業機会を与えた。死後も、後世にも奉公した
・冥加:目に見えない形でお世話になっていることへの感謝 ←→顕加
・生命力:生きようとする力(生への本能)、いかに生きるかという使命を示す力(天与のもの、天分)
・天分を発見する努力、素直な気持ちをもつことで天が啓示する(天啓を与える)
・天啓を受けたら、好き嫌いの判断ではなく、まず受け入れて認めて、打ち込んでみる
・天職:無我、無心になって仕事に打ち込んでいる。三昧の境地
・壺中の天:仕事と離れた別の世界を持つ。趣味、道楽の世界。そこには良い師、友、本がある
・真善美の調和をはかることが人格形成
・広い世界に視野を向ける。根本的、本質的な問題に絶えず注意しなければ人間の器が小さくなる
・自分の思うようにならないことが90%以上ある。それで否定的、消極的、批判的になっていては段々消耗していくだけ。
→「命まで取られることはない。仕方がない。新しい手を考えよう」「一晩ゆっくり寝てから考えるか」
・自分を絶対絶命の場所に置いて、そこから生き残れるチャンスを自分自身で探し出す
・指導者も一人で出来ることは限られている。優れた資質を持った人に周りに集まってもらえるようになればよい
・運鈍根:運、軽々しく動かない、根気
・九割は運。運には天運と人運がある。後者は人の努力で変わるもの。運命には天命と宿命がある。
・指導者は孤独に耐える。最終決断を下す責任
・バブルがはじけると相場は20年くらいは回復しない。1929年の世界恐慌では25年かかった
・歴史は繰り返す。人間の性は古代から変わらない
・明治維新の「五箇条の御誓文」のスローガンの源流は聖徳太子の十七条憲法にある
・東証一部上場銘柄であれば機関投資家が何の制約もなく買える。流動性がある
・韓国の経済規模は日本の十分の一。小さいものは回復が早い
・中国経済には根底要素として「私的所有権」が欠けている
・どうすれば社会は繁栄するか、人間は幸せになれるか
・会社の原点を踏み外していないか、何をする会社だったのか、規律のない多角化
・フローのデフレからストックのデフレへ、デフレスパイラル
-目次-
第1部 講話篇
惜命 ―生命への深い愛惜の念
仕事観 ―艱難辛苦に感謝する心
指導者 ―求められる人間的魅力
第2部 訓話篇
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