読書メモ

・「インテリジェンス 武器なき戦争
(手嶋 龍一、佐藤 優:著、幻冬舎新書 \740) : 2007.04.07

内容と感想:
 
タイトルの”インテリジェンス”は日本語では単に”情報”と訳されることが多いが、ここでは同じ情報でもインフォメーションのことではない。 「精査し、裏を取り、周到な分析を加えた情報」である。佐藤氏の言を借りれば情報力により「自分の弱いところを隠して、強いところを実力以上に強く見せる技法」。 米国のような軍事力が圧倒的強い国には情報力が育ちにくいらしい。 また、タイトルの”武器なき戦争”というのは外交を意味している。つまり(秘密)情報戦なのである。
 本書はかつてはNHKのワシントン特派員としてTVでもお馴染みの手嶋氏と、国策捜査(と本人は言う)で起訴中の元外交官の佐藤氏の インテリジェンスについての対談である。 クレムリンにも人脈を持っていることで、鈴木宗男氏はその佐藤氏を「ラスプーチン」と仇名したそうだ。
 対談という形式でありながら、スパイ映画のシーンを思い浮かべながら、スリルを感じながら読めた。 映画のようなスパイ同士の切った貼ったの派手な情報戦こそ対談には出ては来ないが。
 今の外交については、鈴木宗男氏は谷内正太郎外務事務次官を「しっかり者」、麻生外相は「昼行灯」と評価したそうで、 佐藤氏は「自己保身を排しても進む外交官」と評価している。 いずれもネガティブなものではない。谷内氏は安倍首相の信任も厚く、この春定年を迎えたが、任期が延長された。
 さて、英国当局がテロ組織を摘発して未然にテロを封じ込めたのはニュースでも大きく取り上げられたが、 国際テロ組織が英国などテロ対策先進国を狙うのが効率が悪いとなれば、次の標的を探すはずだという。日本も狙われて不思議はない。対策が必要だろう。
 実は日本にはアメリカの”CIA”、イギリスの”SIS”(俗称:MI6)のような専門の対外情報機関がないらしい(あっても表舞台には登場しないだろうが)。 二人は日本の国益のためには、インテリジェンス・スクールを作って、真のインテリジェンス・オフィサー(スパイということが一般的)を 育てることが重要だと提言している。たしか9.11のときにも日本にもそういう組織を作るべきという議論があったと思うが、国として検討は進んでいるのだろうか?

○印象的な言葉
・秘密情報の98%は公開情報を再整理することによって得られる
・(GDP世界第二位の)日本はインテリジェンス能力においても世界第二位の潜在能力をもつ。 しかし情報が分散して、政府に集約されず、機動的に使われていない。国家の舵取りに役立っていない。
・インテリジェンスの鉄則:約束は必ず守る、出来ないことは軽々に約束しない。必要のないこと、知らないほうがいいことはあえて聞かない
・日本の商社は(外務省を批判して)自分の情報収集能力を自慢する
・外務省に圧倒的な影響力を誇っていた鈴木宗男。インテリジェンスの吸引箱。
・日本はインテリジェンスがないため、とんでもない素人外交で日朝関係をかき混ぜ、国際情勢に悪影響を与えている
・ゾルゲ:ソ連とドイツの二重スパイ。メインがドイツ。スパイとしては中の上。途中でソ連からの資金は止まった。戦中のゾルゲ事件は日独離反を招いた。 日本とドイツは同盟関係あるにも関わらず互いに疑心暗鬼だった。
・沖縄返還の密約:原状回復の費用を日本が肩代わりするというもの。外務省は否定
・ロシアのインテリジェンスは英国の亜流
・英国は国のセキュリティやインテリジェンスの部分では隠然たる報道規制がある。暗黙の了解事項。
・米国は英国よりも民主主義のハードルが高く、メディアの監視も厳しいため、(インテリジェンスでは)汚いことができない。アメリカ人は病的なほど嘘がつけない。
・SISは世間的な評価や出世には興味がなく、女王陛下などキーパーソンに認知されることに関心がある
・戦前の日本人はもう少し疑り深かった。今もビジネスの世界で生きている日本人は疑り深い
・米国のネオコンの大半はユダヤ人とキリスト教右派。トロツキスト・グループ。世界自由民主主義革命思想。イラク戦争は石油の利権という一見もっともな理由では説明できない。
・今のロシアはイスラエルと接近。ドイツとも情報協力を進める
・9.11で、1日にして米国の世界戦略は変わった。ユニラレラリズム、一国行動主義に。冷戦終了で世界唯一の超大国になってからは無意識の驕り。
・イスラエルの右派はロシアが淵源
・チェチェン問題はイスラム原理主義による国際テロ(アルカイダ)
・東京には二十数ヶ国の情報機関が膨大なコストをかけて人間を送り込んでいる
・諜報、防諜、宣伝、謀略
・絶大な権限はあるが責任は負わない外務省。モラルの崩壊。語学力も交渉力も弱い。
・行き詰ったら戦線を広げる。思いがけない局面に布石を打つのがよい
・日本は王室を通じてヨルダンとは特殊な関係がある
・パレスチナに関しては日本が一番お金を出している
・100%確かというものなど存在しない。最終的には政治指導者がリスクを担って判断する
・優れたインテリジェンスも優れた政治リーダーが使いこなして初めて価値がある
・質の高いインテリジェンスを持っていてこそ、相手からも相応のものを引き出せる。無限責任を負う仕事。いざというときは命を投げ出す覚悟。国家への忠誠。品格。信頼。 擬装のために(インテリジェンスの)仕事を辞めても食べていける専門技術を身につける。

-目次-
序章 インテリジェンス・オフィサーの誕生
第1章 インテリジェンス大国の条件
第2章 ニッポン・インテリジェンスその三大事件
第3章 日本は外交大国たりえるか
第4章 ニッポン・インテリジェンス大国への道