読書メモ
・「軍事を知らずして平和を語るな」
(石破 茂、清谷 信一 :著、KKベストセラーズ \1,500) : 2007.08.25
内容と感想:
今年初頭、防衛庁が防衛省に格上げされた。初代大臣となった久間防衛相はのちに失言で失脚し、小池氏に交代したばかりだが、
ここに来て次官人事を巡る騒動で、また大臣が替わりそうだ。
終戦記念日というかお盆前後になると国防についてつい考えてしまう。
既に石破氏の著書を2冊ほど読んだが、本書は軍事ジャーナリストの清谷氏との対談である(2006年10月発行)。
石破氏の面白さはそれまでの不毛な安全保障議論、防衛問題のモヤモヤ感を少なからず解消してくれたことだ。
清谷氏はそんな彼を「軍事に関しては政界有数の論客、平易な言葉で分かり易く語れる稀有な政治家」と評する。
その石破氏だが、「防衛省格上げよりも自衛隊を防衛軍、あるいは国防軍にすることのほうがよほど大事」、と言う。
中途半端な存在から脱却させ、軍隊にしたほうが議論もすっきりし、法的にも扱いやすい、のだと。
「策源地攻撃」(相手のミサイル発射基地を先制攻撃)する能力の保有の議論では
それが抑止力になるという発想だが、必ずどこからか反対論が出る。
いつもの「エスカレートして戦争を始めかねない」というものだ。
集団的自衛権行使反対や武器輸出三原則解除反対にしても似たような感情が根底にあるという。
そうした反対論の源はマスコミか個人か知らないが、
それらの論者を端的に表現しているのが「日本の民主主義は信用ならん、文民統制も信用できない」といっているのと同じ、という点。
自分を含め、同胞も信じられない人たちなのだ。(それを清谷氏は観念的平和主義者とも空想的平和主義者とも呼ぶ)
実際、我々が有事にマトモでいられるかどうかは分からないのだが、単なる感情論だけでは議論にならない。
小泉内閣では防衛庁改革が行なわれた。
有事法、国民保護法などが整備されたのだが、メディアはなぜか検証も評価もしない。実は国民の意識の方が進んでいる。
こういう本が出るのも国民のニーズがあることを示しているとも言える。
アジアの安全保障といえば、アジアでは日本の漫画やアニメが定着しているから、ポップカルチャーを通じて日本ファンを増やしていくことも有効だと
いうのは興味深かった。民間レベルで文化を通じて相互理解を深めるのが草の根的でいい。
さて、成長著しい中国であるが、その脅威について「中国が軍事力を行使するためのハードルは民主主義国に比べて低いのかも」という
石破氏の発言は不気味な感じがしたが、実際、中国では有事の際に意思決定はどうなるのか興味がある。
中国共産党にも文民統制(シビリアンコントロール)は存在するのだろうか?
ところで「集団的自衛権の規定は憲法解釈の変更で可能、必ずしも憲法改正は不要」という石破氏の発言があったが、
具体的な説明がないからどう解釈するのか不明だが、憲法改正ではハードルが高いから、より現実的な論戦になるように
考えているのかも知れない。これらの議論には今後も注目である。先の参院選挙では民主党が参院第一党に躍進したこともあり、
国益のためだけでなく日本が世界平和に貢献できるような建設的な防衛論議を期待したい。
○印象的な言葉
・(軍事の)素人である政治家が軍事をコントロールするのが民主的文民統制の根幹
・警察予備隊が自衛隊の原点:朝鮮戦争で占領軍であった米軍が半島に行ってしまった。日本で共産主義革命が本当に起こるかもしれないと考えられていた。
・軍隊や警察:国の独立や社会の秩序を守るために国家が独占・所有する合法的な暴力装置
・警察:国内の治安維持と犯罪防止
・軍隊:国の平和と独立を守る
・戦争という極限状態では通常の法律を全部守ると戦争はできない。侵略軍も我が国の法律など遵守するわけがない
・自衛隊員の脱走は単なる職場放棄、公務員法に基づいて処罰される。軍隊なら軍法会議にかけられる
・官僚が暴走した場合に止めるシステムが存在しない恐ろしさ
・防衛庁長官ポストは大臣一年生用のご褒美。大臣になりたい病患者向けのポスト
・喧嘩(戦争)はどちらかが明らかに勝ちそうだと自負したときに起こる。力のバランスが取れていれば戦は起きない
・自衛隊は脅威に対抗するためでなく、力の空白を埋めるために装備を持った
・建前では我が国に仮想敵国は存在しない
・国際社会は無政府状態。国連軍は一度も編成されたことはない。国際法も強制規範ではない。国際司法裁判所の判決は強制力を持たない
・今や軍隊はプロの世界。専門的な技術者集団。装備はハイテクの塊。量より質を重視。
・中立国スウェーデン、スイス:周辺の国家国民が滅びようと自分らさえ守られればいい。先の大戦では枢軸国、連合国の両陣営に兵器を売っていた
・スイスの「民間防衛」ガイドブック。ゲリラ戦の手引き。テロリストの教本にもなる。
・三島由紀夫事件は自衛隊を軍にすべきと彼なりに思いつめた結果
・地下鉄サリン事件のとき自衛隊の指揮官は腹を切る覚悟で部隊を動かした。訓練という名目で。
・見識ある自衛隊OBの国会議員の層を厚くする
・先の戦争で沖縄で10万人も死んだのは軍が市民を戦場に同行させてしまったから。
・東京大空襲のとき疎開したのは都民の15%だけ。アメリカはなぜみんな批難しなかったのか不思議に思った。
・演習は欠点を洗い出して、改善のきっかけにするため
・危機管理の基本:悲観的に準備し、楽観的に行動。それを怠ると慌てふためき、不必要に被害を拡大する
・非対称戦争:ゲリラ、テロリスト、民兵などが相手。国家間の戦争より抑止が難しい
・日本人の欠点:その場の現象を見て大騒ぎし、時が過ぎると忘れ、物事の本質を深く考えずにやり過ごす
・部隊の3割が損耗したら、戦闘力を失って壊滅と評価される
・人件費圧縮のために現役を減らして、予備役を増やしては。
・自治体が防災担当に自衛官を起用しては
・海上保安庁:警察と軍隊の中間的な準軍隊的組織。国交省管轄の不思議さ。警察庁に移管しては。
・日本には全国をカバーする国家警察が存在しない。広域捜査に致命的な欠陥をもつ。
海保に陸上部隊を作り、国境警備隊と国家警察を兼ねた組織に改編しては。
・武器を売ったり、技術供与できる国は、売り先の相手国の軍事をコントロールできる
・靖国問題で大騒ぎしているのは特定アジア(韓国、北朝鮮、中国)だけ。純粋な国内問題
・中国は当面は対称的な戦いでアメリカと勝負になるとは思っていない。経済力をつけ、いつかは対称的な能力を備えようとしている
・空想的平和主義者は非論理的
・イラク戦争で自衛隊は輸送や補給活動を担っている。後方支援は兵站活動であり、軍事行動に当たる
・NPT(核兵器不拡散条約)は実は日本を対象にした条約だった
・防衛産業も抑止力である。日本の装備調達も防衛産業も非効率。高コスト
-目次-
第1章 自衛隊は軍隊ではない ―国防とは何か
第2章 誰が国民を守るのか ―有事法制と国民保護法
第3章 情報なくして国は守れず ―外交と安全保障
第4章 日米はイコール・パートナーか ―日米安保と日米同盟
第5章 アナログ装備がてんこ盛り ―国防と軍事技術
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