読書メモ

・「フラット化する世界 〜経済の大転換と人間の未来(下)
(トーマス・フリードマン :著, 伏見 威蕃 :訳、日本経済新聞社 \1,900) : 2007.11.17

内容と感想:
 
上巻に続く、下巻の第二部では「フラット化する世界」において、アメリカ政府、企業、個人はどう対処すべきかを。
第三部では発展途上国が対処すべきこと、その国のリーダーシップの大切さを。
第四部ではフラット化する世界に企業が対処するための7つのルールを。
第五部ではフラット化に取り残された人々、フラット化への流れを阻む要因、 フラット化が世界の文化に及ぼす影響、 デルが展開するグローバルなサプライチェーンがそれを構成する国の間の紛争を回避するという理論。
について述べている。
 下巻の冒頭(第6章)では世界のフラット化を個人はどう利用していけばよいかについて端的に著者の答が書かれている。 「適切な知識と技量と発想と努力する気持ちがあれば、ものにできるいい仕事が山ほどある」と。 「それには科学技術の技量だけでなく、かなりの精神的柔軟性と努力する気持ち、変化に対する心構え」が必要になる。 これが上下巻を通しての結論とも言ってよいだろう。
 世界のフラット化によって、ミドルクラスの人々のそれまでの仕事がアウトソーシングされたりオートメーション化されることにより 多くの人が仕事を失うことになるだろう。しかしそうなったとしても新たな仕事が必要とされるようになる、と著者は言う。
 その「新ミドルクラス」の仕事として以下のようなものが挙げられている:
・他人との共同作業や社内の共同作業をまとめる。グローバルな共同作業では多様な文化の多元的な労働力を集めて仕事をする
・合成役。異種のパーツを合成して付加価値を生み出す。デルは消費者の需要を中心に合成して成功。
・説明役。複雑なものをわかりやすく説明。助言で稼ぐ
・梃子入れ役。テクノロジーを梃子に使える。物事を端から端までつなぎ合わせる作業がわかっている。新しいベストプラクティスをたえず再統合。
・適応者。なんでも屋。適応能力が高く多芸多才。適応するだけでなく学び、成長する。スイス・アーミー・ナイフのような万能ツール。
・グリーンピープル。環境ビジネスが21世紀の巨大産業になる。
・パーソナライザー。単純作業に無形のパーソナルな側面を加味。クリエイティブな味付け。人間によるパーソナルなサービス。
・ローカライザー。グローバルのローカル化。グローバルなインフラを利用して地方や地域のニーズに適応させる。

 そして新ミドル(※中年ではない)に必要な能力として以下の4つを挙げている:
・学ぶ方法を学ぶ
・好奇心(キュリオシティ)と熱意(パッション)。CQ(好奇心指数)とPQ(熱意指数)
・人とうまくやる。他人との高度な交流はアウトソーシングやオートメーション化できない。
・右脳を進化させる。全体像をまとめあげる能力。芸術的手腕、感情移入、大局的なものの見方、学識を超えたものの追求。

 第八章では自国アメリカの科学教育に潜む6つの「恥ずかしい秘密」を指摘し、それを「静かな危機」と称して政府に改善を求めている。 そして、第十章ではシスコシステムズのジョン・チェンバースCEOがこう言っている。 「最高の教育を受けた労働力、競争力のあるインフラと環境、政府が協力的なところに仕事が集まる」と。 これら2つのことは他人事ではなく、日本も十分認識して対処していかねばならないことであろう。
 本書の原題は「The world is flat」だが邦題は「フラット化した世界」ではなく「フラット化する世界」と現在進行形に訳しているように、 まだ世界の半分くらいはフラット化されていない。 その国がフラット化できるかどうかは、その国の文化がどれくらい外に向いているかによる、と著者は言う。 外国の影響と発想をどこまで受け入れられるか、自主的に変わろうとする開放的な文化であることが大事になると。 それと逆をいくのがイスラム世界であることには第12章でも触れられている。 「独創的な解釈や批判的な意見を進んで受け入れるゆとりのある文化でない」と言っている。 イスラムも変わっていかないと、ますます経済的に発展できず、格差が広がるだけだろう。
 大部の上下二巻の読後の感想としては結局、変化に適応できる「世渡り上手」が生き残っていくのだということ。 もの書きである著者自身が「フラット化する世界」に生き残るための実例を自ら示しているように感じた。よい手本になる。 きっと著者は自分は生き残れると自負していることだろう。その仕事はアウトソーシングもオートメーション化もされることがないから。 しかしフラット化しつつある世界であっても、この手の本を家にいるだけで書けるかといえば無理だろう。 実際、著者は世界各地へ取材している。誰とでもネットでつながる世の中といっても、見ず知らずの人間に大事な話を してくれるわけもない。人脈も必要だし、信頼関係も大切だ。 単なる言語以上の高度なコミュニケーション能力が重要になるだろう。
 本書は様々な職種の人々に向けて書かれている。万人が読むべき必読書である。

○印象的な言葉
・自分が生み出している価値や貢献している独自の能力を示し、その仕事にふさわしいことを毎日のように示す
・無敵の民:自分の仕事がアウトソーシング、デジタル化、オートメーション化されることがない人 ⇒かけがえのない、もしくは特化した仕事。地元に密着して錨を下ろしている仕事。 ・代替可能な仕事と代替不可能な仕事
・ミドルクラスは国の経済的安定の基盤であり、政治的安定の基盤。それにより民主主義は安定する
・点(ドット)人間と全体像人間(点人間をつなぐ役目)
・未来には常に新しいことが待ち受けている。たえず勉強するしかない。自分は「xx個人商店」。信用が大事。
・ビジネス、顧客、市場など様々な視点で物事を見る幅広い視野
・昇ってきた階段の一段一段を見下ろしても、今はそれが全部なくなっている
・みんなと違うことをしたからよかった
・アイデア・コンサルタント:アイデア提案。顧客はコンセプトを言い、完成した作品でなく下絵とアイデアだけを欲しがる。
・いい質問をしたか
・ハイコンセプト(新しいこと)とハイタッチ
・物事をぶち壊して最初から建て直すことをいとわないアメリカの文化
・世界が常に学んでいて、知識の普及が一段と早まっている。ベストプラクティスがあっというまに広まる。
・第二次大戦後の40年間、アメリカにはまともな競争相手がいなかった。そこに特権意識と独りよがりの文化が生まれた。 勤労や投資よりも消費、長期的思考よりも目先の満足。
・工業化時代、情報化時代から才能の時代へ。個人のずば抜けた才能や起業家精神。
・科学・工学の技術を有する人々をめぐる争奪戦が世界中で激化する
・退屈な基礎を時間をかけて身につける意志、20回失敗した実験でも諦めない根気
・天然資源の少ない国ほど内面を掘り起こそうとする。新しい発想を受け入れる開放的な習慣。
・資本主義の終焉を心から願っている西欧
・世界中の人々から尊敬され、誰もが働きたいと思うような未来の会社
・芸術が重要な役割を果たす。芸術と科学をまとめる。
・中国の指導者層はみんなエンジニアで、呑み込みが早い。中国人は危険を冒すのが平気、重労働が平気で教育がある。
・自分には雇用されるだけの能力があることを証明しなければならない
・グローバルな人材探しの時代
・経済成長と貿易は世界最良の貧困撲滅プログラム
・労働法を柔軟にしておけば、職を失っても新しい職が次々と生まれる
・古い仕事をすべて守ろうとすれば、集まってくる新しい仕事が少なくなる
・グローカル化できる天賦の才:インド文化、アメリカ文化、日本文化、中国文化
・寛容な文化が国やコミュニティの最大の美徳になる。寛容が信頼を生む
・中国は今後、大きな政治的転換を潜り抜ける必要がある。そのため脱線する危険性もある
・中国には実力主義の伝統がある。それは韓国と日本にもずっと引き継がれている
・可能性の広がり、自由、創造、自分でコントロールできる
・デジタル化できないものを中核となる競争力に。戦略的な洞察力、創造的な直感、芸術的なひらめき。抜きん出た独創的なソリューション、個性を売る。
・インターネットの登場で消費者は多くのことを自分でコントロールできると感じるようになった。消費者が企業の振る舞いをコントロールする。
・自分で決める消費者。超自己決定的な消費者を満足させる総合エクスペリエンスを提供できる仕組み。
・あらゆる分野のイノベーションの最先端がますます専門化されている。細分化する専門分野を結びつける共同作業。斬新な組み合わせからイノベーションが出現。
・フラットな世界では生まれつきグローバルな企業が増えている。小規模多国籍企業
・社会起業家:最も新しい人物像
・社会が富めば善循環が始まる。この循環の外で暮らす人々が無数にいる
・大きな問題は一人では解決できない
・フラットな世界は新しい伝染病を広い範囲にあっというまに伝播させる。経済にも大きな打撃。接続を遮断することに。
・インドのハイテク集団は目立つがインド全体の被雇用者のたった0.2%でしかない
・反グローバリゼーション運動は5つの全く異なる勢力が牽引している。その中では反米派が力を増している。アメリカ文化帝国主義への反発。
・テロリズムは自尊心の欠如から生まれる。屈辱が生み出す力が軽視されている。被差別意識と疎外感
・エネルギーをめぐる権力争いが世界で起きるおそれ
・ローカルなエクスペリエンス、コンテンツ
・自由貿易は神の外交政策。人々が平和のうちに手を結び合う確かな方法
・国の経済と未来がグローバルな統合と貿易に密接に結びついているなら、近隣諸国との戦争を抑止する効果がある
・戦争の代償は勝敗に関係なく許しがたいほど高くつく。
・政治的冒険を冒しかねない国は信用ががた落ちになる
・世界にはアメリカの楽天主義が必要。今日よりも明日のほうがいい。
・イスラム国家は世界人口の20%を占めるが、貿易額はたった4%にすぎない
・チョコレートソース、てっぺんのチェリーになる

-目次-
第2部 アメリカとフラット化する世界(承前)
第3部 発展途上国とフラット化する世界
第4部 企業とフラット化する世界
第5部 地政学とフラット化する世界
結論 イマジネーション