読書メモ

・「クリエイティブ・コモンズ ―デジタル時代の知的財産権
(ローレンス・レッシグ、若槻絵美、椙山 敬士、上村 圭介、林 紘一郎:著、NTT出版 \2,400) : 2007.04.28

内容と感想:
 
従来の著作権法は物理的な「モノ」としての著作物を想定した制度であったが、 近年のデジタル技術やネット技術の進歩でデジタル著作物の権利の保護が課題になっている。 デジタルであるためにオリジナルと同じ品質の著作物(コンテンツ)のコピーがネットで容易に、短期で世界規模で広がり、 著作権を主張する著作者にとって被害は大きい。 そのため規制が強化され創作活動が制限されていく不自由な世界になりつつある。 過剰な規制により飛躍的に伸びる技術やコンテンツを自由に共有できる世界でなくなり、経済成長も鈍化する恐れもある。
 タイトルの「クリエイティブ・コモンズ」はそんな危機感からローレンス・レッシグが提唱した新たなコンテンツ共有・利用の枠組みである。 他人のコンテンツに自由にアクセスし、自分のクリエイティビティを加えて新しいものを創り出すインターネットの自由を保つ工夫として 活動が始まった。そこには「自由な文化」を大事にしたいという意思がある。
 非営利組織「クリエイティブ・コモンズ・コーポレーション」はその活動の成果として 「クリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンス」(CCL)という利用許諾を文書化した(2007年3月現在、Ver.3.0)。 クリエイティブ・コモンズの国際版が「iコモンズ」で、日本でも日本法に準拠した日本版CCLと言えるライセンスが作成(移植)されている。 従来の著作権との違いだが、よく目にする「All Rights Reserved」ではなく、「Some Rights Reserved」がそれを物語っている。 必要最低限のいくつかの権利を留保し、それ以外の権利は開放しますよ、という形態で、著作者がその「いくつか」を選択できる仕組みで、 そのためある著作物を利用しようとする者はいちいち著作者に許可を得なくても、それを改変したり上演できたり、といった利用の自由が得られる。
 CCLの3つの形態:
1.標準の契約書:法律家が読むもの
2.コモンズ証:要約した契約文書、および人間が認識しやすい視覚的なアイコン
3.メタデータ:コンピュータなど機械が認識できるデータ。RDF形式で記述

 CCLはまだ歴史が浅いため、以下のような疑問や批判もある。
・期待されたコラボレーションが活性化していない
・第三者がそのコンテンツに適用されたCCLが正しいかどうかを知る術がない。CCLが遵守されているか著作者が自分で把握するのが困難 (ツール類で解決していくしかない)

 本書は各章を別々の著者が書いている。第1章はレッシグの講演であるが「クリエイティブ・コモンズ」の理念が分かるだろう。 第2章以降ではクリエイティブ・コモンズの仕組みや、本家と日本版との違い、現在の著作権法をとりまく環境などが解説されている。
 本書を読んだ後、実際に有効だと思える利用例や成功事例を知りたいと思った。 「クリエイティブ・コモンズ」の日本語サイトでは音声、映像、画像などの事例が示されている。 まだ日本では実験段階といったところか? もっと多くの場面でCCLのアイコンが登場し、CCLの有効性が広く認められるようになると、より創造的でオープンな、自由な創作活動が拡大し、 著作権に対する人々の考え方も変わってくるだろう。

○ポイント
・著作権(copyright):表現物のコピーをとる権利、複製権。本来はクリエイティビティの進化を促し、クリエイターのインセンティブを高めるためのもの
・著作権法は所有者を特定し、許可を得るという多大な負担を強いるシステム
・インターネットを育んできた自由をどうやって維持するか
・グローバルなインターネット法も不可能ではない。TCP/IPのような技術標準も一種の法
・悪法として名高いDMCA法(Digital Millenium Copyright Act)
・日本には二次的なコンテンツの改変を認める文化と伝統がある。法律で規制されていない。同人誌文化の例
・コンテンツは自由に共有できる状態がデフォルトであるべき(許諾の心配やコストをかけなくてよい)
・CCLに従ったコンテンツを検索するサービス
・GNU GPLにはソフトウエア作者と利用者の間の紛争を解決するために機能しうるか疑問
・Founders's Copyright(建国時代の著作権):権利の保護期間が14年。オライリー社は一部の書籍に採用
・オープンソース型の開発は開発者自身が利用者であるときは有効。限定的な状況下でしか機能しないかも知れない
・フェア・ユース:著作権が有する排他性を制限。批評、解説、報道、教育、研究、調査が目的の利用は著作権侵害にならない
・データベースでも情報の選択または体系的な構成によって創作性を有するものは著作物
・DRM(デジタル権利管理)技術は厳しい設定だと利用者には不便になり利用度が落ちて、ビジネスとして成功しないかも知れない
・若干の違法コピーには目をつぶり、そこで得たポピュラリティを利用して、他のメディアで稼ぐことを工夫したほうが賢い
・現行の著作権法はイタチゴッコの中で作られてきており、パッチワークにならざるをえず、冷えたスパゲッティのようにもつれてしまった
・著作権制度に市場主義を導入し、制度(システム)間競争をする時代ではないか

-目次-
序章 デジタル時代の創造性をめぐる挑戦
第1章 自由な文化に向けて
第2章 クリエイティブ・コモンズとは何か?
第3章 CCJPとCCの違い
第4章 コモンズのための著作権法の基礎理論
第5章 デジタル創作物の電子的権利制御
付録 クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの発足と課題