読書メモ
・「カーニヴァル化する社会」
(鈴木 謙介:著、講談社現代新書 \700) : 2007.08.17
内容と感想:
いつからかオリンピックやサッカーのワールドカップなどへの関心が薄れてきている。
TV中継もほとんど見ない。スポーツニュースで結果を見るくらいか?
そのお祭り騒ぎに進んでは加われないのだ。年のせいか?
いや、広告会社やマスコミが煽っているのが見え見えで、傍観者になってしまうのだ。
そういうイベントがあるとTVや関連商品などが売れて景気がよくなるといった面は良いと思うし、
日本経済にとっては悪くない。
しかし、広告会社やマスコミに踊らされているという感覚が私を冷めた気分にさせる。
オリンピックの商業化への批判も言われ出して久しい。
本書のタイトルから、そういったお祭り騒ぎが日本社会を動かすような状況になっていることを
論じているものと単純に想像し、「祭り」(カーニヴァル)に対する私の感覚を確かめることに興味があり本書を手にした。
「はじめに」にあるようなインターネットの掲示板で盛り上がる
「祭り」に必要なのは盛り上がることのできるネタであり、ネタさえあれば政治的な立場などはどうでもいいそうだ。
その内実のない「祭り」にマスコミも踊らされることもある。
私が感じていたように著者も社会が「祭り」を駆動原理にし始めているのでは?と考えている。
「日常の祝祭化」と表現している。毎日、お祭り気分なら幸せなのか?
「感動」の材料(ネタ)があってこそ祭りは盛り上がる。
それらの祭りは人々が「共同性」、言い換えると<繋がりうること>の証左を見出す源泉になると著者は言う。
サッカー・ワールドカップ、オリンピックなどのお祭り騒ぎに加わることで、
瞬間的な盛り上がり、集団への帰属感を感じる。しかしそれは場当たり的なもので、継続可能性を欠く。
従って、あらゆるものが繋がりのためのネタとして消費される。そしてビジネスにも。
タイトルからは想像しにくいが、本書では「分断される自己」について論じている。
若者の分断された自己が「不毛な夢」を抱き続けるフリーター(搾取され、使い捨てられる)と、夢から覚めたエリートに二分極化する可能性を指摘している。
第1章では労働問題、特に若年層の雇用問題、就労問題について述べ、
第2章、3章では「祭り」を支えるテクノロジー、監視社会化(我々自身が望んで自身を監視する)、ケータイ依存などについて論じている。
第3章末で著者も書いているように、各章のテーマの連関が分かりにくいため、混乱するかも知れない。
インターネットなどITの発達に伴い、テクノロジーが「自己」のあり方を変えていく。
「個人化された自己をベースに、躁状態と鬱状態へ分断され、自己の躁状態をデータベースへの問い合わせによって維持するような人格モデル」
という表現はSFチックで不気味だが、そのようなモデルがカーニヴァルを生きる若者を表現しているのだ。
ここでいう「躁状態」がカーニヴァルである。
また、データベース(DB)とはインターネット上に人々が望んで置いている個人情報などのことである。
これだけではなぜDBの問い合わせによって躁状態を維持できるのか分かりにくだろう。(本書を読んでください)
そのような時代を、「ノンリニアなモードの個人化が進行する社会」だと言う。
そこでは「場面場面に応じて臨機応変に自分を使い分け、その自分の間の矛盾をやり過ごすことのできるような人間」であることが必要になる。
それを「脱-社会化」された個人とも言っている。
「そんな個人が必要とするのは現在直面している社会関係の中で期待される役割を演じるための感性」であり、「その感性の問合せ先がデータベース」
なのだそうだ(なかなか小難しい表現が満載だ!)。その手段がネットやケータイだったりする。
そんな社会は「確固たるアイデンティティに基礎づけられることを必要としない社会」ということだ。
それが「分断される自己」を生む。そしてそれが不安や自信を失わせ、立ちすくませる。
確固たるアイデンティティを持たないとカーニヴァルでの一瞬の盛り上がりの一方で、冷めた現実とを共存させて生きていかなければならない。
自己を見つめ、反省し、そこから降りるかどうかは本人次第である。押し付けられるものでない。
著者は1976年生まれのまだ若い社会学者である。
本書では「分断される自己」について論じているが、終章末に書いているように、
本書は「分断される社会」の分析への助走という位置づけらしい。本書の内容は決して明るいものではないが今後の分析も楽しみだ。
○印象的な言葉
・情報不足に伴う噂の拡大とインターネットの祭りの共犯性
・明確な動機、目指すべき理念、依拠するべき統一的な物語を欠いたまま生きる
・フリーター増加の原因は企業側の要因の方が大きい(平成15年版国民生活白書)。企業側の採用行動の変化による
・大人になって会社に甘えることが従来より難しくなった
・年長世代と年少世代間の経済的格差拡大。団塊世代の雇用を守るため若年層の雇用が犠牲に
・若者たちから労働への動機づけを奪っている社会
・つぶしのきかない人材を多く抱えたフリーター世代が、「生涯フリーター」の道しかないとすると後世、彼らが日本社会の大きな負債となる
・失われた世代、断崖の世代
・監視がひとつの産業に。人々が不安を抱えていれば防犯対策のニーズが生まれる
・不安に怯える社会。不安は監視カメラによっては解消不能。際限のないセキュリティ化が要請される
・監視が社会的な統合を弱めたり、隣人同士の不信感を強めたりするとすれば、民主主義の基盤を脅かす
・SNS:データベース的対人関係。アメリカではビジネスを視野に入れた「コネとツテ」形成ツールとして、日本では友人と<繋がりうること>を確認するためのクローズドな場
・個人化:集合体志向を有する前近代社会に対し、個人志向を有する社会。
・第一段階の近代はリニアなモードの個人化(反省的な自己)。第二段階はノンリニアなモード(無反省で再帰的な自己)
-目次-
第1章 「やりたいこと」しかしたくない ―液状化する労働観
第2章 ずっと自分を見張っていたい ―情報社会における監視
第3章 「圏外」を逃れて ―自分中毒としての携帯電話
終章 カーニヴァル化するモダニティ
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