読書メモ

・「アメーバ経営 ―ひとりひとりの社員が主役
(稲盛 和夫:著、日本経済新聞社 \1,500) : 2007.04.30

内容と感想:
 
ご存知の通り著者は京セラの創業者であり、現在は名誉会長である。 「アメーバ経営」とは京セラグループになくてはならない稲盛流・経営管理手法。 その名は恥ずかしながら本書の新聞広告で初めて知った。 その背景にある思想や仕組みを文書化したものがなかった、ということで今回書き下ろされた。
 著者は会社が徐々に大きくなるに連れて、部門別採算管理の必要性を考えるようになった。 組織の末端まで経営実態を正確かつタイムリーに把握する「管理会計制度」を目指したのが「アメーバ経営」である。 これにより経営判断を正確かつスピーディーに行なうことが可能となった。 また、正しい経営哲学を全社員と共有することができると言う。
 そのキモは会社組織を「アメーバ」という小集団に分割することから始まる。 アメーバはビジネスの単位になりうる最小の単位にまで分割した組織で、独立採算制である。 例えば同じ社内で原料部門と成形部門とのアメーバ間の「社内売買」が発生する。そこには「品質の関所」があるため、 後行程に不良品が流れることもない。品質の確保も実現できる。 アメーバ間にも競争原理が働き、似たような機能をもつアメーバ同士が競争することもある。
 また、各アメーバでは「時間当たり採算表」というものを使い、日々の収支決算を行なう。 家計簿のようにシンプルに、現場のリーダーもメンバーも採算(収支状況)が一目でわかることを目指している。 従業員自らが1時間当たりに生み出す付加価値を正しく認識することが出来る。 そこには経営者意識を持つリーダー、従業員が育つことになる。 時間当たり採算表では間接部門の肥大化もチェックも出来るという。
 悪く言えば、たったこれだけである。しかし、シンプルなだけに現場が理解しやすく、実践しやすいのだろう。 それよりも難しいのは利益を出すための値決めだったり、経費削減努力である。会計手法は易しくして手間を減らし、 出来るだけ現場の本業の方に集中できる。 自分たちの仕事がどれだけの価値(利益)を生み出しているのか把握しているのと、していないのとでは 社員の意識が大きく違うと思われる。その実感がないと仕事への姿勢が違っているはずだ。 一般社員にも経営者意識が必要だと言う人もいるが、そういうことを表現しているのだ。
 著者が目指した会社とは、現場の社員ひとりひとりが主役となり、自主的に経営に参加する「全員参加経営」であり、「大家族主義」とも言っている。 全ての社員が生き甲斐や達成感が得られる経営。それが京セラの成長の原動力であった。
 アメーバ経営は京セラの子会社のコンサルティング会社がコンサルティングも手掛けているそうで、 多くの企業で導入されているという。

○印象的な言葉
・企業を動かすリーダーには「人間として何が正しいか」という哲学、倫理が必要。それが判断基準。世界に通用する普遍的な価値観
・リーダーは全き人格者でなければならない。自らを律し、研鑽を積む。高潔な人格を維持
・経営者には人間心理について優れた洞察力が必要
・時間意識
・ダブルチェック:複数の人間により不正や誤りを防ぐ
・キャッシュベースの経営:お金の動きに焦点を当てたシンプルな経営
・技術者としての夢を実現できないことを知り退社を決意
・人間の無限の可能性を信じて、限りない努力を払う
・個人の能力を最大限に高め、人間として成長
・アメーバ間の値決めは各アメーバの仕事をよくわかっている経営トップが、それぞれにかかる経費や労力を社会的な常識から正しく評価し、公平に決める
・「成果主義」は長い目で見ると、かえって社内の人心を荒廃させる。日本人は同質的な民族で、「横並び」の中流意識が強い
・技術的な優位性は永遠不変なものではない。企業経営を安定させるにはどこでもやれるような事業を優れた事業にすること。「ひと味違う」経営
・昔からあるような業種でも優れた実績を残している会社は、平凡な仕事を立派な事業にしている非凡な会社
・多くの優秀な社員を抱えながら、一握りの営業担当者に(値決めなど)すべてが委ねられているような経営システムは、大部分の社員の能力をムダ遣いしている
・頼まれ仕事、雇われ仕事、やらされ仕事ではいけない
・当座買い:必要なものを必要なときに必要なだけ購入
・利益の源泉は製造部門にある
・潜在意識にまで透徹する強く持続した願望を持つ
・今は難しくても、納得するまで試行錯誤を繰る返すなかで、私達の能力は必ず進歩していくはず
・責任の重いリーダーほど先頭に立ち、人一倍の努力が必要

-目次-
第1章 ひとりひとりの社員が主役
第2章 経営には哲学が欠かせない
第3章 アメーバの組織づくり
第4章 現場が主役の採算管理
第5章 燃える集団をつくる